三章 第二話
「落ち着いた?」
「はい……。お見苦しい姿をお見せしました……」
「見苦しいなんてそんな。むしろ可愛いかったというか、守りたくなるというか……」
「---っ!か、可愛いなんて……」
「いや、あの、ごめん!」
「……」
「……」
先程とは打って変わって部屋に沈黙が訪れる。二人とも赤面し互いに目を合わせられずにいた。しかし睦月は部屋に来る前に言われたことを思い出す。
「あ、えっと栢橋さんのお姉さんが、栢橋さんが起きてたら呼んできて欲しいって言ってたんだけど……。行けそう?」
「はい、大丈夫です」
弥生はベッドから降りようと腕に力をこめたが、そこで動きを止めた。
「まだどこか痛む?」
「いえ、そうではないんですが、少し脚が……」
「立てないのかな……?」
「はい……。まるで脚がなくなってしまったようで……」
「これはお姉さん聞いた方がいいかな……?」
「多分これは魔力切れの影響で……あっ。睦月君は姉と何か話したんですか?」
「ちょっとだけね。今日起こったことを話してた」
「あの、私の能力とかは……?」
何かを恐れるように弥生は尋ねた。
「それはまだ。栢橋さんが降りてきたら話すってさ。とりあえず、はい」
ベッドの端に座る弥生の前に、睦月は背中を向けて片膝をつく。
「え?あの……」
「おんぶして行くよ。そのままだとキツそうだから」
また睦月に迷惑をかけてしまう。そう感じながらも今は睦月に頼るしかなかった。
「……重かったらごめんなさい」
両手を睦月の肩に乗せ、睦月の背中に体を預ける。自分よりも大きく、暖かな背中。筋肉質の感触を全身で知った。
「ちゃんと掴まった?」
「大丈夫です。……今日はお世話になりっぱなしですね」
「まだまだ。昼間の分には届かないよ。もっと返さないとね」
「睦月君……」
弥生の目にうっすらと涙が浮かぶ。それを肩越しに見て睦月は少しからかうように言う。
「もう一回泣いてから行く?」
「いいえ」
涙を引っ込め、掴んだ両手に力を入れる。
「私はもう泣きませんから。さ、行きましょう睦月君」
「了解、栢橋さん」
せーので立ち上がり、バランスを整えてから二人は階下へと向かった。