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流星のプラネタリア  作者: 嶋里 和人
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第三章 能力者、敵と味方 一話

「ん……あれ、私……」

弥生が次に目を覚ました時、まず視界にを埋め尽くしたのは見覚えのある天井だった。ここ二週間見続けた、自分の部屋の天井。

「どうして私の部屋に……。確か敵と戦っていて……気が遠くなって……」

あの鏡は、敵はどうなったのだろうか。手甲使いにはかなりの傷を負わせたはずだから逃げたということも考えられるが……。もしあの鏡が睦月を狙っていたらと思うととても恐ろしかった。

「今すぐ確認しに行かないと……あれ?」

ベッドから立ち上がろうとしたが脚がうまく動かせない。まるで自分の脚ではないように麻痺しているようだった。

「これが魔力切れの弊害ですか。今日中は動けそうにないですね……」

現実から目を背けるようにまぶたを閉じる。そしていると内なる『もう一人の自分』が語りかけてくる。

『睦月君はどうなったのかしら?』

「……分かりません」

『あの日の恩返しもできていないのに睦月君が死んじゃってたらどうするの?』

「それは---」

『どんな力を手に入れても、あなたが未熟であることに変わりはないの。あなたな力不足が招いた最悪の事態』

「まだ、睦月君に何かあったとは決まっていません……」

『それはそうね。ならその役に立たない脚で確かめに行けるのかしら?そんな体で何が出来ると言うの?』

「……やめてください」

『全てはあなたのせいよ。あなたのせいで睦月君は不幸になるの。あの日あなたが出会わなければ---』

「もうやめてください!」

声をあげもう一つの意識を掻き消す。

「私が弱いことは、私が一番分かっています……」

自分が情けない。情けなくて涙が溢れてくる。訓練通り、いやそれ以上に相手と渡り合って慢心していた。その結果がこの有様だ。人を超えた体でも魔力がなければ一般人以下なのだ。

「便利なようで不便な身体ですね」

その時部屋の扉が二度ノックされた。

「お母さんかな、入っていいよ」

数秒の間を置いてドアが開かれる。

「お、お邪魔します」

その声は母のものではなかった。母よりもずっと低く、少し震えていた。その人物は、

「睦月君!?」

「よかった、目が覚めたんだね。それと、お母さんじゃなくてごめんね」

はっとして弥生は慌てて髪を手で整える。まさか睦月が来るとは思わず油断していた。

「急に倒れるからびっくりしたよ」

「え?あ、はい……」

「学生証の住所を見て栢橋さんを連れてきたんだ。事後報告になるけど、勝手に鞄の中を見たことを謝るよ」

「い、いえ。それはいいんですけど……」

これは、現実でしょうか……。

「あ、あの、あなたは本物の睦月君ですか?夢じゃないですよね?」

自分でもおかしなことを尋ねているとはおもったが、目の前に睦月がいることが未だに信じられなかった。

「栢橋さんまだ疲れてる?まだ休んでた方がいいよね。俺は外に出ておくよ」

「待って!……ください」

部屋を出ようとする睦月の手をとっさに掴んだ。その力はとてもか弱く、手にこもる熱は今にも消えてしまいそうに感じられた。

「睦月君、本当にごめんなさい。あなたを危ない目にあわせてしまって……」

「そんなこと---」

そんなことない、そう言おうとした睦月だったがそれ以上何も言うことが出来なかった。弥生の目に光るものがあったから。

「突然のことだったとは言え、睦月君にはもっと安全な所にいてもらうべきでした。そうでないならもっと慎重に、睦月君のことを考えて戦うべきでした!」

弥生の瞳が涙で潤む。こぼれそうになる雫を袖で拭っても、あふれる涙は止まらない。

「私が未熟なばっかりに……。あなたを守ると決めたのに……」

「栢橋さん……」

そっと、睦月はベッドの傍らにひざまずいた。

「栢橋さんは十分俺のことを守ってくれたよ。だから俺は今ここにいるんだよ」

「でも……でも……」

「そんなに自分を責めなくていいんだよ。それに栢橋さんはあんなに強かったじゃないか。すごく頼もしかった」

弥生は何も言わずただ肩を震わせ涙していた。そんな弥生を睦月はそっと抱き寄せて一言だけ告げる。

「栢橋さん、ありがとう」

暫くの間、栢橋家には少女の心の叫びが木霊した。


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