二章 第六話
少年と少女が対峙する。互いを視界の中心に捉え、微細な動きさえ見逃さぬようにじっと睨み合う。
「手短にいきましょう。私にはあなたと関わっている暇なんてありませんから」
先に動いたのは弥生だった。膝を屈め重心を低くする。体重を前方にかけながら、後ろに引いた右足に力をこめる。
「『撃蹄』!」
収束させた力を瞬く間に解放し、放たれた矢の如く一直線に司へと接近する。司へと近づくその一瞬でハンマーの頭が一気に膨らむ。
弥生の予想外の速度に反応が遅れた司の腹に、右手に構えたハンマーの重く、しかし鋭い一撃が炸裂する。
「がはぁっ!」
手首に捻りを加え、そのまま司を空中へ弾き飛ばす。その体は綺麗な弧を描き、コンクリートへと叩きつけられた。
「住宅街であまり派手なことはできませんから。お家を壊してしまうと困りますしね」
空いた左手で制服の乱れを整えながら、弥生は司の飛んだ方角を見る。
「こちらとしては今ので気絶でもしてもらえると助かるのですが……もう終わりですか?」
「そんなわけねぇだろ。獣系の身体強化をなめんなよ」
よろけることもなく司は立ち上がる。服は破れていたが、言葉や立ち振る舞いからは何もなかったかのように感じられた。
「やはり頭壊さないとだめですかね。……さっさと負けてもらえませんか?」
「次はこっちから行くぞ」
『撃蹄』程ではないにしろ、普通の人間に比べれば明らかに速い動きで司は弥生へと向かう。
両手の鋭利な爪が弥生の華奢な体を狙い執拗に迫る。しかし弥生は、大きさを元に戻し身軽になったハンマーでそれを全て弾く。
隙を見て弥生は司の右手の甲、そして左手の手の平を打ち大きくバランスを崩させるた。
「くそっ!」
「翼がなくても空は飛べるんですよ!」
下から振り上げられる再度巨大化したハンマーは、一度目よりも高く司を空に上げる。
「空中なら遠慮することはないですよね!行きますよ!『祈導の羊角』!!」