二章 第五話
「ひどいなぁ、地獄なんて。もっと可愛くいこうよー」
「うるさいです。あなたの理想を押し付けないでください」
弥生が男を鋭い目で睨む。視線だけで射殺せそうなほどの眼力に男はたじろいだ。
「まぁまぁ、落ち着きなって。そうだ自己紹介まだだったね。俺は森乃司。君の名前は?」
「あなたに教える名前なんてありません。今すぐここを立ち去ってください」
ちっ、と男は舌打ちをした。弥生の男を拒絶する態度にそろそろ我慢できなくなってきたらしい。
「いい加減調子乗ってんなよ……。力づくで黙らせるぞおい」
「初めからそのつもりですから。かかってきてください」
「顔面殴られても文句言うなよ!時間だ、大熊の力!来い!『堅甲なる怨恨』!」
司の声に導かれ、彼の両手にアメジストの光が収束していく。それらは次第に形を成していき、禍々しい悪魔のような無骨な手となった。重厚な漆黒のフレームに、手の甲には紅の珠が一つ収められていた。
「やはり能力者でしたか……。それにしてもあなた、殺気が抑えられていませんよ?」
「そんなことよりさっさとお前も武器を出さないと、この『堅甲なる怨恨』の餌食になるぜ?」
「……仕方ないですね。お願いします『神使の黄金羊』」
司とは対照的に、弥生は静かにその名を呼んだ。黄金色の光が弥生の手元に集まり、大きくなっていく。姿を現したそれは長い柄が特徴的なハンマーだった。弥生はハンマーの感触を確かめるように、バトントワリングをするかの如く振るう。
「少し頭を冷やしてもらいます。殴られても文句を言わないでくださいね?」
「ああ、そうかよ。いいぜ、かかってこいよ!」