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第七十三話「実は前から知っていた」

「どうしてそんな前から?」

「うん、実は…」

 

 シャークスの表情がより深まり、私は妙な緊張が走った。

 

「5年前にアンティールとの婚約が破談となり、別れる事になった時、オレ死のうと思ったんだ」

「はい?」


 シャークスからの意想外の言葉に、私は目をパチクリとさせる。


「…胸が張り裂けそうな苦しさに耐えられなくてね」

 

 続いたシャークスの言葉に、私は思わず「やっぱり?」と、深く頷いてしまった。だって、偏執狂のシャークスの事だから、失恋なんて打撃を受けて、平然していられるとは思えなかったんだよね!まぁ、だからといって、わざわざ聞く話でもないし…。だけど、私との出会いになんの関係が?

 

「スターリーの住んでいる村の前に、大きな湖があるだろ?透き通る綺麗な青色の。そこの湖は深さがあると聞いていてさ、死に場所にいいと思って赴いたんだ」

 

 やめてくれ!人の村の近くで死体なんか出したら、村の定評が下がるじゃないか!

 

「湖に着いたオレは早速身を投げようとした。でもそのすぐに、女性の罵声が聞こえてきたんだ。とても刺激的で荒々しい声だった。……それがスターリー、君の声だったんだ」

「はい?」

 

 再度、私は目をパチクリさせる。確かに、その湖には何度か足を運んだ事はあったけど、私そんなシャークスの心を震わせるような刺激的な声を上げた覚えはないですけど?また例の妄想という捏造か?

 

「声がした方に行ってみると、君が一人のやんちゃそうな男のコに向かって、怒号を上げていたんだ」

「あ…」

 

 思い出した。そうそう、村の近所のコだったんだけど、なかなか家に戻って来ないから探しに来たんだ。そしたら、そのコが湖に身を投げようとしていて。

 

 まだ5歳のコなのに少しませていて、好きな女のコをからかい過ぎて嫌いと言われて、死ぬんだって言い張ってたんだよね。だからバカな事はめなさいって叱ってたんだよ。でもまさかそのやりとりをシャークスに見られていたなんてね。

 

「そのコの気持ち、よくわかるよ」

「なにか通じるものがあるんでしょうね」

 

 激情に駆られて、身を投げ出そうとする想いがね…。

 

「私が必死で止めるにも関わらず、そのコ、頑固して身を投げようとするもんだから、じゃぁ、私も一緒に死ぬからって言ったの。私が先に行くから、後でアンタも来てよってさ」

「そこまでして…?まさか、そのコの事が好きだったわけじゃないよね?」

 

 またシャークスはとんちんかんな事を言いよったよ!どうしたらそういう発想になるんだよ!5歳児に恋愛なんて、どんだけショタなんだって!

 

「ちっがうでしょ!私の身を投げる姿を見せれば、ビビッて死ぬのを止めるんじゃないかって思ったの!」

「なるほどね」

「それで私は先に湖に身を投げたの。すぐに上がらないよう頑張ったよ。思ってた通り、湖の上から、私の名前と“戻って来てー”という叫び声が聞こえてきて。湖から上がると、目の前にそのコがいて、わんわん泣きながら、ゴメンナサイって謝ってきたの。私がなかなか上がって来ないから、本当に死んだんじゃないかって、思ったみたいで」

「そして君はそのコに教えていたよね。“いなくなったら、とっても悲しいのがわかったでしょ?辛い事があったからって、勝手に死んでいなくなったら、悲しむ人がいるのよ!”ってね。凄い剣幕をして叱っていた」

「…ていうか、一部始終見て聞いてたんかい!」

「君の声高に罵る姿に、オレは強く胸を打たれた」

「私の言葉にじゃなくて?っていうか、私は叱咤していただけじゃん!シャークスの言い方だと、まるで罵倒していたみたいな受け取り方になるんだけど!やめてよ!」

「心は感極まってエクスタシーまでに至れたほどだ」

「気持ち悪い表現しないで!」

 

 シャークスは全くもって私の言葉を聞き入れる気はなさそうだ。なんなんだろう、一人で思い出に浸ってさ!

 

「死んだオレの心に再び生きる希望の光を差してくれたのが、スターリー、君なんだよ」

「え?」


 多少ゲンナリとした気分になっていると、またもやシャークスから意外な言葉を落とされて、私は瞠目とする。しかしだ…。


「生きていれば、きっと、あのコから罵られる日が来るんだって」

「は…い?」

「そして気が付いた。オレは君に恋をしてしまったって事に」

「…………………………………」

 

 なに、その展開は?私はポカンとして開いた口が塞がらずにいた。だけど、シャークスは頬を紅潮させ、ウットリとした表情をして語りを続ける。

 

「オレはその後、君と男のコが無事に村へと帰っていたのを見届け後、すぐに直談判をしに行ったんだ。話を聞いていたクランベリー家のあの“スターリー”だとわかって、居ても立ってもいられずね」

「今度はなんの話よ?」

「マザグラン様に君を下さいってね」

「はぁぁああ!?マザグラン兄さん!?」

 

 マザグランとは私の一番上の兄さんだ!彼は白の騎士様をしているけれど、今はさらに格式が上がって、騎士を育てる指導官をしている。

 

「どうしてマザグラン兄さんなのよ!?」

「君を一番溺愛していたのが、マザグラン様だからだよ。オレはマザグラン様から、君の話を聞いて知ったんだ。それに彼はオレの恩師でもある。白の騎士を目指していたオレをいとも簡単に黒の騎士へと異動させた人だからね。今の地位は彼のおかげなわけさ」

「シャークスを黒に異動させた当時の白騎士の長って、マザグラン兄さんだったの!」

「そうなんだよね♪」

 

 確かにマザグラン兄さんは数年前まで白の騎士様の長をしていた。なんていう繋がりなの!

 

「オレの熱い懇願に、マザグラン様は真っ先に“オマエは変態要素が高いから、妹は絶対にやらん!”と、言われたよ。さすがスターリーの兄さんだね。オレを甚振いたぶるように声を荒げて拒否るドS姿が恐ろしかった」

「いや、ドSじゃなくてもやるとは言わなかったと思うよ!っていうか、本気で兄さん拒否ってたって事じゃん!」

 

 マザグラン兄さんとは20歳も離れているせいか他の兄さん達と違って、可愛がりが強かったもんね。私が騎士になるのも、危険だから頑固反対していたぐらいだし。ある意味、第二の父さんのような存在だ。

 

「という事で、オレは君への幸せを立証するために、黒の騎士の長になると決めたんだ。道のりは険しかったけど、ようやくなれる日を迎えて、それで君に直接アプローチをかける事を決意したんだ」

「え?目標達成したら、兄さんの承諾はシカト?」

「ちゃんと申し出たんだけど、ダメだった」

「でしょうね!」

 

 でも私の為に、まさか長になるなんて、そんな事あるの?まさかと疑う気持ちは大きいけど、なんだか心は歯痒かった。

 

「それで私が助けたあの日に現れたって事?」

「その前から、君には会いに行っていたんだ。時間が出来ては君を見に行っていた」

「え?それって…」

 

 ストーカーじゃん!?

 

「いつ声をかけようか迷っていて、君にとって初めてオレを目にしたあの日、君が首都に来ていたのを目にして、先回りをして君の村の近くまで行ったんだ」

 

 やっぱストーカーだ!

 

「そしたら、よくわからない輩達から絡まれてさ。厄介事だと思ったのも束の間、まさか君本人が助けに入ってくれたなんてね。おかげで君にオレを知ってもらう事が出来た」

「そうだったんだ…」

「君は初めて会った5年前から変わってないね。自分の事より相手を思って行動してくれる優しいところがさ」

 

 シャークスのはにかんだ表情が深まり、笑みが広がる。

 

「オレは5年前から、君をずっと想って好きだったんだ。だから、スターリー、オレと一緒になって欲しい」

「…え?」


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