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第六十五話「黒幕の正体は…?」

 ―――バクンバグンバグンッ!

 

 速まる心臓の音に胸が張り裂けそうで、目も眩み頭までもがクラクラする!胸の前に作った拳と額から汗が滲む!


 そして…。

 

「…黒の騎士と女子おなごの釈放を望もう」

 

 ―――え?

 

 王から決断が落とされ、意想外の内容に刹那、私は硬直した。同時に安堵感も流れる。王の答えに満足げに深い笑みを浮かべるパナシェさんは、

 

「では条件の通り、退位をされるという事でよろしいですね?」

 

 一方的な不本意な条件を突き付けてきた。その言葉に王は一瞬目を瞑られ、そして、ゆっくりと開かれた。

 

「いや…退位などはせぬ」

 

 その答えに一斉に騒めきが起こる!パナシェさんから余裕の笑みが消え、不穏の表情へと豹変する。

 

「それはどういう事でしょう?彼等の釈放にはエクストラ王の退位が条件だと申し上げておいた筈です。退位をお呑み頂けないのであれば、彼等は不法侵入の罪で処刑となりますが、よろしいのでしょうか?」

 

 パナシェさんはさらに人としての情けのない冷然とした内容を叩き付けた。そんな彼へ王は冷静に言葉を返す。

 

「釈放有無に関わらず、私を余儀なく退位させるつもりであろう。そのような不本意な条件は初めから呑むつもり等ない。聖職者たるものが、なんと女神の教えに背く行為を致すのか。己の欲望に塗れ、恥辱だと思わぬのか?」

 

 決然と言い放たれ、少しの動揺も見せない王の威風堂々とした姿はさすがだと私は驚嘆した。背水の陣如く、追いつめられていた私の精神は緩和され、何処となく余裕が生まれてきた。パナシェさんは黙然として、王を凝視している。

 

「恥辱と言うのであれば、今のこの情勢を起こした王、貴方におありかと存じますよ」

 

 ―――え?今の声って…?

 

 突然に穏やかで柔らかな声には不似合いな辛辣な言葉が聞こえ、その声の主はパナシェさんの背後から現れた!

 

「!?」

 

 私は目を大きく見張って驚愕した。だって目の前に現れた人物は……。長い白髪と白髭が印象的で、格式のあるアルバの礼服を身に纏られた大聖堂最高の地位を誇るガルフ大司教様だった!な、なんで、あの方がここに!

 

 私が硬直している間にも、パナシェさんから周りの司祭や兵士達までもが深々と敬礼をし、頭を下げていた!エクストラ王に対しては敬礼を避けていたのに、大司教様には……って、さっきパナシェさんが言っていた「敬意を表すお方はただ一人」、それは「大司教様」の事?……まさか……まさか!?私の中にある大きな答えが出された!

 

 ―――本当の黒幕はガルフ大司教様なの!?

 

 ドクンッと大きく心臓が波打った。驚きよりも恐怖心に近かった。だってだよ?大司教様って、ローゼンカバリア女神の使いの者でしょ?女神を崇高し、彼女の神聖な行いを教える人だよね!?そんな人が今回の黒幕って、何かの間違いじゃ…?

 

「やはりお主が首謀者だったか、ガルフ大司教よ」

 

 王と大司教が見つめ合う。その様子は只ならぬ張り詰めた空気を漂わせていた。大司教様は以前、大聖堂内部で見かけた時の柔和で品のある風格がそのままであったけれど、深い笑みの奥から悍ましい剣呑を感じ取った。

 

「なんのお話をされておりましょう?生憎、私共は本日の目的を終えておりません。我々は今の情勢に不満を抱いている民衆を救う為、一刻を争っております」

「目的とはなんだ?」

 

 王の返しに大司教様は不敵な笑みを浮かべる。

 

「我々の目的はあくまでも民衆を救う道を導く事です」

 

 なにが民衆を救う為だ!目的も漠然とした言い方をしていてイヤラシイ!

 

「民衆を救う道が私の退位と申したいのだろう?」

「先ほども申し上げましたが、今のジョンブリアンの情勢は王の政治の不届きが原因だと存じております。今の状況のままでは情勢は悪化する一方です。民衆の気持ちを考えれば、おのずとそうせざるを得ないかと存じますが」

 

 王の失脚を目論見、地位と権力を狙うとんだ悪党だ!

 

「私を退けても後継者が必要となる」

「承知しておりますよ。そして、そちらにつきましてはマティーニ家から後継者を出されるでは意味を成しません。政治の傾向が変わらぬからです。王の退位はマティーニ家王族の権力を退ける必要がございます。しかし時期、政権を司る者がおらねば、首都ジョンブリアンは益々混乱へと陥り、衰退して行く事でしょう。ですが、情勢を整えるのに、何も王族だけに限る必要もございません。民衆を支える柱は我々聖職者でも致せる事だと自負しております。ジョンブリアンには多くのローゼンカバリア女神の信仰者がおります。我々は女神の教えの通り、彼等の支えになって行く事をお約束致しましょう」

 

 な、なに言ってるの!この人は!?この場に及んで、我が目論見を遠回しに申し出たよね!さすがにここまでいけしゃあしゃあと言われたら「様」扱いもしなくてもいいわ!


 この人の欲望で首都が大きく乱れ、民衆が不安を抱き、デモまで巻き起こった!デモでは多くの負傷まで出したのだ!その大罪をまるで正しいかのように振る舞うこの人は狂者だ!

 

 すべての闇はこの大司教から始まったのだ。調査の話を聞かされた時に、黒幕は人望のある大物だと聞いていた。今ならこの大司教が黒幕であると理解出来る。王権を乗っ取り、独裁権力を手に入れる為、悪事を働いていたんだ!そして調子づいた大司教は追い打ちをかけんとばかりに、言葉を続けてきた。

 

「なにより民衆は王を受け入れてはくれないでしょう。王としての誇りをお守りする為にも、率直に退位をお決めされるのが賢明なご判断かと存じ上げます」

「条件を受け入れる気はないと申した筈だ」

 

 煽られても決して屈しない王の威厳は神妙ではあるけれど…。

 

「さようですか。それでは、あちらの黒の騎士と女子おなごは公開処刑という形を取ります。閉鎖していた大聖堂へ無断で足を踏み入れた大罪を命をもって償って頂きます。尚、その行為を王が存じていらっしゃった事実も民衆へと公表させて頂きます」

 

 ―――うわぁああ!

 

 大司教の言葉に、私とシャークスは兵士から力づくで引っ張られ、引きずられるように最前へと連れて行かれる。きっと民衆が見上げている前で、公開処刑する気だ!

 

「処刑は大剣による首の切断となります。パナシェよ、民衆に式の始まりを伝えるのだ」

「畏まりました、ガルフ大司教」

 

 ―――なんですってぇぇえええええ!?


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