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第六十二話「不本意な交換条件」

 私は現れた人物の名を吐露した。それはまさに私達の目的の人物「パナシェ」さんだったのだ。彼は煌びやかな大司祭様の礼服を身に纏い、閑雅な姿をして、私達の前へと現れた。

 

 鉄格子を挟んで見える彼の表情は初めて会った時の柔和な雰囲気とは打って変わり、とても威圧的で冷然としていた。私達を大聖堂の上から、見下ろしていたあの表情と同じだ。

 

 あの時よりもずっと間近で見るその表情は正直震え上がるほど、恐ろしかった。なにをそんなに私達を敵視して見ているのだろう。わからない不安に、私の心臓はバクバクと速まり、足までもガクガクと震え出した。

 

 たじろく私とは違って、シャークスは無表情で、パナシェさんを注視していた。こんな時まで気丈に振る舞える彼がとても頼もしく思えて、私は心なしか彼の方へと寄っていた。

 

「オレ達を牢獄に監禁とは貴方のご趣味でいらっしゃるのですか?」

 

 重々しい空気はシャークスの皮肉を込めた言葉で破かれた。

 

「貴方がたは閉鎖している大聖堂へ足を踏み入れたのです。当然の処置をしたまでですよ」

 

 パナシェさんはあくまでも私達に非があると決然として言い放った。

 

「先手を打たれたのは貴方からではないですか?パナシェ大司祭殿」

「なんの話でしょう?私には全くわかり兼ねる事ですね」

 

 一瞬、私は緊張を忘れ、開いた口が塞がらずにいた。パナシェさんの見事な白々しさに唖然としたからだ。こうも自分を偽る事が出来る彼は想像以上に、恐ろしい存在だと改めて認識させられた。

 

「オレ達をどうするおつもりですか?」

「それなりの処罰がおありだとお考え下さい。聖なるローゼンカバリア女神の領域に不法侵入されたわけですから」

「まずはその理由を聞かれるのが先ではないですか?一方的に話を進められるのは少々浅薄なお考えでは?」

「これはまた出来過ぎたお言葉をおっしゃいますね。黒の騎士殿は国王にお仕えする身分の上、そのような軽はずみの言葉を申し上げては王の品性を疑いますね」

 

 ―――うわぁー。

 

 シャークスもパナシェさんもどちらも引かず、舌戦しているよ。とても私なんかが間には入れない!

 

「今のお言葉は王に対しての非礼ですよ?」

「非礼とおっしゃるなら、今の貴方の立場をお考え下さい。聖なる場所へと侵入をし、王の顔に泥を塗っているのですよ?しかし、まさかとは思いますが、その行動を王がご存じとは違いますよね?」

 

 ―――うわ!パナシェさん、痛いところをついてきたな!

 

「エクストラ王は存じ上げておりますよ」

 

 ―――えぇぇえええ!?

 

 私の心配をよそに、シャークスは平然と答えてしまった!なんで!そんな事言ったら、エクストラ王の立場が悪くなるし、私達もヤバイんじゃ!?

 

「なんと、王がこのような不法をお許しになられたという事ですか」

 

 案の定、パナシェさんから非難の目が向けられる。

 

「不法を犯してまで、やらねばならない事があって参りました。パナシェ大司祭、我々と一緒にガーネット宮殿にお越し下さい。ここに王からの委任状を持っております」

 

 シャークスはパナシェさんの前に、王の委任状を叩きつけた。うおっ、シャークスの切り替えしが素晴らしい!こんな状況なのに、私は感心してしまった。いいぞ!

 

「何故、私が…「理由は申し上げなくてもおわかりになりますでしょう?」」

 

 ―――シ―――――ン。

 

 怖い。シャークスとパナシェさんは対峙し合い、張り詰めた重い空気が流れていた。だけど…。

 

「残念ですが、その要件を呑むわけには参りません」

「それは王の命令に背くという事ですか?」

「エクストラ王に、その権力がおありでしょうか?」

「?」

 

 え?どういう意味?私は意味がわからず、眉間にしわを寄せる。でもシャークスの表情が怖い!!恐ろしい剣幕を見せている。

 

「今の首都の混沌は王の行き届かぬ政治力が原因ではないですか?その責任に王は権威を失われる可能性がおありです。そのような王からのご命令に従うわけには参りませんね」

 

 え?そういう意味だったの!いくらんでも言葉が過ぎて…。っていうか、エクストラ王は濡れ衣着せられているだけじゃん!なにこの人言ってるの?ヤバイよね!?

 

「今のお言葉はなにを根拠におっしゃったのですか?恐ろしく大罪に当たるお言葉です。エクストラ王は首都ジョンブリアンの国王です。現在もこれから先もずっとだ。これ以上、ご自分の罪を大きくされては裁判での判決は酷なものになりますよ。その覚悟あってのお言葉ですか?」

 

 これだけ大それた言葉を落としたパナシェさんに対し、シャークスは怒りを覚えているだろうけど、乱れる事もなく、冷静に返した。この厳酷な言葉に、さらに驚いた言葉がパナシェさんの口から返ってきた。

 

「いいえ、私の言葉は間違ってはおりませんよ。ではそれを証明する為に、まずはこれからの事をお話いたしましょう」

「「?」」

 

 パナシェさんは剣呑な含み笑いを浮かべる。それは直感的に「良からぬ事」だと推測した。

 

「貴方達と一緒にいたもう一人の騎士は王の元へと帰させました。そうさせたのは王への交換条件を持ち帰って頂く為です」

「交換条件?」

 

 ―――なに、それ?めっちゃ嫌な予感!

 

「そうです。貴方達の解放を求めるのであれば、“王の退位”を条件にと申し出を致しました」

「なんだと?」

 

 ―――えぇぇえええ!?今なんて!?

 

「王がこんな一人の騎士と女子おなごを相手に、ご自分の地位をお捨てになると?考えれば、答えは出る事ではないですか?」

 

 シャークスの言葉に、私は確かにと思った。一個人の為に、国王が身分を捨てるなんて有り得ないよね?なんでそんなわかり切った事を条件にしたの?実はけっこう考えが浅はかなの?

 

「そうですね。もし王が条件を呑まれないとなると、当然、貴方達には罪を償って頂きますよ?処刑という形で」

 

 ―――えぇぇえええ!?なにそれは!?

 

「大聖堂へ不法侵入…いわば女神の聖域を穢しに参られたのです。当然の報いと言えるでしょう。処刑は一般公開で行わせて頂きます。もちろん、その際は王も同席願いますよ。王自身が認めた大罪人の処刑でもありますので。一体、民衆はどう思うのでしょうね?今の情勢に加え、王は大罪まで犯した。これで確実に王は失脚せざるを得なくなるでしょう。そういう末路の前に、条件を呑まれる方が王の心証は良いのではないかと存じ上げたのですよ」


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