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第六十話「見えざる暗雲」

「クローバーさん!」

 

 目に映った人物の名を思わず叫んでしまった。クローバーさんも私達同様に、ローブを身に纏っている。

 

「どうしてここに?」

 

 既に外観を登り始めていたシャークスだったけれど、足を地へと戻し、クローバーさんに問う。

 

「どうしてって一緒に行く気だけど?」

「「え?」」

 

 サラッと答えるクローバーさんだけど、予想もしていない出来事に、私もシャークスも目を丸くした。

 

「助太刀がいた方がいいだろう?本当はザクロも行きたがっていたが、王からストップが入った。黒騎士のトップ達の万が一を懸念されたようだ」 

「確かに。オレにもしもの事があったら、次期長はオマエかザクロになるからな。万が一をお考えになり、一人を残させたんだな」

 

 考えたくない事だろうけど、王は万が一を心配されたのだろう。それにクローバーさん、心配して来てくれたんだ。シャークスとはずっと一緒にやってきた大事な仲間だもんね。

 

「早速、難題に入っているみたいだな」

 

 聳え立つ大聖堂を見上げ、クローバーさんは私達の状況を悟ったようだ。

 

「正門が閉ざされている。内部へ入るには登る他ない」

「だろうな」

 

 シャークスの簡素な説明にも、納得したクローバーさんは外観へと手を付いた。

 

「オレが先に行き、扉の様子を見てくる。いいだろ?」

「それは助かる。オマエが先の方が効率はいい」

「?」

 

 ―――効率?どういう意味だろう?

 

 シャークスの返した言葉の意味が把握出来ず、私は首を傾げていた。その意味がわかったのは数秒後だった。

 

「ひょぇ!」

 

 私は素っ頓狂な声を上げた。それもそうもなるよ!だって、ものの数秒でクローバーさんが目的の扉のあるバルコニーまで登り上げたんだもん!彼は猫が木にヒョコヒョコッと上がるような軽やかな身のこなしで、上がって行ったのだ。重力がある限り、あの軽やかさは不可能だよね!

 

 ―――まるで重力に逆らうかのような軽やかさじゃない!

 

 私が口をあんぐりとしている間に、上から顔を覗かせるクローバーさんから合図があり、シャークスは外観に手を付ける。

 

「次はオレが上がるから、スターリーも後に続いて」

「うん」

 

 再び大きな緊張が戻る。シャークスが上がり、彼の登る手順通りに私も進んだ。彼は私を気にしながら、ゆっくりゆっくりと上がってくれていた。私はなるべく下は見ないよう、慎重に上がって行く。

 

 上がるに連れて心臓がバクンバクンと汗も出てくる。クローバーさんが軽やかに上がって行き、思ったよりも大変ではないのかと思ったのは間違いだった。やっぱり重力は感じるし、気を抜いたら落下して即死するだろう。

 

 唯一シャークスが選ぶ足の位置がいいのか、際どい危険性からは免れていた。彫刻品やレリーフといったゴテゴテしい装飾品のおかげで、足の踏み場が出来ていた。(踏み場とは畏れ多いけど…)

 

 登っている間は必死で、とても長い時間に思えたけれど、気が付いたら、シャークスから手を差し伸べられていて、ようやく目的の場所へと辿り着けたのかとホッとする。その手を取ると、シャークスは私の躯を引っ張り上げ、着地まで手伝ってくれた。

 

「よく頑張ったね」

 

 シャークスは懸念事が解れたかのような安堵の表情を覗かせ、褒めてくれた。私もホッと安堵の溜め息が漏れた。確かに命懸けの行動だったもんね。でもそれは首都の運命を背負っている重荷があっての事だ。

 

「何事もなく良かった」

 

 私達が上がるのを待っていたクローバーさんからも、安心の声がかかった。待っていたクローバーさんもヒヤヒヤだったよね。まだ心臓がバクバクなっていて、周りを気にしていられなかったけど、バルコニーからも尖端へとそびえ立つゴシック調の荘厳さに、圧巻させられる。

 

「さて、そこの扉から内部へと入れそうだ」

「え?鍵は?」

 

 大聖堂ならどの入口も厳重に鍵がかかっている筈だ。うっかりな抜かりや不備はないかと思うんだけど。

 

「扉は開いている。急ごう」

「は、はい」

 

 ―――まさかのうっかりがあったのか!


 でもまぁ、鍵がかかっていたら、これまた壊すところまでやらなきゃいけなかったから、うっかりに感謝かな?外観の装飾品に足をつけて、さらに鍵を壊すなんて…いくらジョンブリアンやエクストラ王の為とはいえ、罰当たりすぎて怖いもん。私は急いで、クローバーさんとシャークスの二人に続いて、扉の中へと入って行った。

 

 ――ギィ――――。

 

 小さな扉とはいえ、ブロンズ製の美しい彫刻が施されている豪華な扉をくぐると、

 

 ―――わぁっ!

 

 左右一面の色鮮やかで美しいステンドグラスに迎えられ、思わず感動を覚える。今日は陽射しがよく行き届いていて、内部全体が赫々たる姿を見せていた。私達はどうやら二階(?)にいるようで、ここは周りの回廊以外空洞となっている為、一階の様子が筒抜けであった。やっぱり人がいる様子はない。


「ここにパナシェさんいるのかな?」

 

 大聖堂は閉館されている。もしかしたら、ここにはいない可能性もある?

 

「いる筈だよ。大司教様と大司祭殿はここに住んでいるからね」

「そうなの?」

 

 知らなかった。てっきり住まいは別かと思ってた。それでパナシェさんもいないのではないかと思っていたけど、その心配はないようだ。

 

「最上階へと上がろう。きっと自室にでもいる事だろう」

 

 *★*――――*★* *★*――――*★*

 

 ―――ドンドンドンドン!

 

 最上階までやって来た私達は片っ端から、各部屋の扉をノックし、訪ねていた。しかし…。


 ―――シ――――――ン。

 

「また誰もいない?」

 

 どの部屋を当たっても、誰も姿を現さないのだ。

 

「本当に今ここに人がいるの?実はいないんじゃ?」

 

 思わず私は不安を吐露してしまう。不思議なくらい気配すら感じないんだもん。

 

「それはない。聖なる場所に守護者がいないなんて有り得ないよ」

「大司教様と大司祭殿はよっぽどの事がない限り、離れる事を許されていないからな」

 

 シャークスとクローバーさんは否定した。そういうものなのか。それならパナシェさんはいるんだよね?何処にいるの?

 

「この大聖堂の何処かに雲隠れしているのは間違いないな。どうする?シャークス」

「見つけ出す他ない。なんとしてでも」

 

 クローバーさんの言葉にシャークスは決然と言い放った。まるで重罪人を逃さんとばかりの力強い口調だった。その直後…。

 

 ―――ガランゴロンガランゴロンッ!!

   

「「「え?」」」

 

 ―――なにこの鐘の音は!?

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