第五十四話「バースデーパーティ当日」
―――パーティ当日。
あれよあれよと日が経ち、気が付けばアンティール様お祝いのバースデーパーティの日を迎えていた。でもここ数日、私はなにをしても気が気ではなかった。だって、数日前のあの出来事が…。
数日前、私はシャークスと初めて会った時、彼に絡んでいた輩のウィリアムとチャールズに連れ攫われ、知らない場所で監禁された。それからシャークスが助けに来てくれて、その後ウィリアム達と取引をしようとしていた人物も現れた。
ウィリアム達は私と引き換えに、ある人物から大金をもらう約束をしていたのだ。その相手が黒幕なのか、そうでなくても黒幕に関係する人物だと思い、現れた輩を私達はとっ捕まえた。その男は黒幕ではなかったけれど、無理強いさせ吐かせた言葉から、意外な人物の名が上がった。
まさか「あの人」の名が出るとは思いもよらなかった。意外にも冷静な様子を見せていたシャークスはとっ捕まえた男の保護を考えていた。取引し損ねた男をそのままにしては、きっと黒幕から、なにかしらされる危険性を懸念しての行動だったようだ。
ちなみにウィリアムとチャールズには厳重注意をして、一先ず縄を解いてやり、開放する形を取った。その際のシャールズのキモさが半端なかったというのは言うまでもないだろう。
借りた馬が無事に戻り、私とシャークスは男を連れ、王の元へと走った。王には私の病院での情報と連れさらわれた出来事の一部始終をお伝えした。そして、いよいよ黒幕を捕まえに!……という展開にはならなかった。
事が重大なだけに段取りを組み慎重に行わなければならない。それに今日のアンティール様のお祝いもあり、黒幕に手を掛ければ、間違いなくパーティは中止となるだろうと。せめてパーティが終わる翌日までは乗り込むのを抑える事となった。
だから、あの連れさらわれた事件から今日まで、気持ちがソワソワして落ち着く事が出来ないのだ。……そうそう!あの事件の日、シャークスが助けに来てくれた時、私が感じた違和感だけど……。シャークスが現れたタイミング良すぎたと思わない?
それもそうだ。だって彼、私が病院で連れさらわれる時にはいたんだもん。自分では気付かなかったんだけど、病院でけっこう時間を費やしていたみたいで、宮殿の侍女さんが心配して、シャークスに話を伝えたみたいなの。それで彼は急いで病院にかけつけてくれて……までは感動的ではあるんだけど、問題はその後だ!
シャークスが病院に着いた時、ちょうど私が連れさらわれるグッドタイミングだったにも関わらず、すぐに助けに来なかったんだもん。それは相手が黒幕に関係する者かもしれないから、助けに出るタイミングを見計らっていたらしい。私、すっごい怖い思いしたんだから!
とは言っても、怖いというのはチャールズのキモさがメインだったけどね。シャークスもチャールズが息を荒くして、何度も私をバイブしようとしていたのを目にして、
「腸が煮えくり返る気持ちで、爆発しそうだったよ!」
らしく、チャールズに対しては解放するか否か下すのに躊躇していた。「オマエのしようとした事は大罪だ!串刺しにして火焙りにしてやる!」って、かなり脅していたよね。でもさ、自分はいつもチャールズ以上の事をしようとしているのに、よく言えたもんだと、私は心底呆れて見ていた。
結局、ウィリアムもチャールズも黒幕を暴けるほどの接点はなかったけど、思わぬ人物からの大きな情報を得る事が出来て、今となっては不幸が幸を呼んだと思っている。そして、この後の事を考えると、色々と気が重い。
「ヤバイ!もうパーティ会場に行かないと」
私は急いで部屋を後にした…。
*★*――――*★* *★*――――*★*
「うっわぉ~」
パーティホールへ足を踏み入れると、まずは感嘆の声を上げてしまった。想像以上にホール全体が目の眩むような煌びやかさが舞っているんだもん!
燦然と輝くシャンデリアは三段重ねの光を反射するクリスタル製!高い天井は黄金に縁どられ、その間には王族社交界の様子が物語られた美しい絵画が並ぶ。
どっしりとしたハイレリーフの柱もノーブルなデザインの壁画も豪華絢爛に設えられ圧巻だ。パーティの準備の手伝いはしていたけど、最終的な飾り付けは目にしていなく、まさかここまでゴージャスに装飾されているとは思わなかったよ。
来客者達も華麗なドレススタイルで、本当にここは別世界かって感じ。ちなみに今日の私の衣装は有難くもこのパーティの為に、用意してもらったスカイブルー色のカクテルドレスだ。
華やかなティアードスカートの後ろには大きなリボンがコサージュされ、動きのあるエアリードレスとなっている。また上から下へとグラーデーションになっていて超ファンシーだ!髪型も普段では結わないハーフアップにしてもらって、レリーフが施された髪飾りで留めているよ。
ホールでなにより目を引くのは、やっぱお料理かな。彩り豊かで芸術的!あまりのボリュームに思わずグーとお腹の虫が鳴いてしまった!食欲をそそる豪華さだもんね。
来てすぐにちゃっかりお料理に手をつけようかと思ったんだけど、そうだ!出来れば今日の主役アンティール様に早くお祝いの言葉を伝えたいな。
どちらにいらっしゃるのか視線を巡らせていると……うん、探さなくてもすぐにわかる。一際人だかりが集まっているその中央に、ラベンダー色のドレス姿で対談されるアンティール様が目に入った。
―――うっわ~、今日のアンティール様ヤッバイ!
髪をオールアップにされ、摘み上げたチュール生地のドレスはスパンコールで覆われていて、ビーズやパールで宝飾されている。胸元にはお花の形をしたリボンが可愛らしく目を引く。
また幾種ものオーガンジーがミックスされたバラの花びらのようなフリルはボリューム満点。スッキリとした胸元にはこれまた美しいガーネットのネックレスが飾られ、まさにリアルプリンセス!
―――アンティール様を囲む人達が多すぎて、今はとても話せそうにないな。
とりあえず食を楽しみますか!と、私は嬉々満面の笑顔で、お皿にお料理を盛っている時だ。
「待っていたよ、スーターリー」
突然、背後から男性に呼ばれた。