第五十二話「ヤツ等の目的とは?」
キモオタ、チャールズの手が私の頬に触れようとした瞬間!
―――バッタ――――ン!!
部屋中に劈くような爆砕した音が鳴り響いた。その直後、出入口扉が部屋の中央へと吹き飛ばされていて?
―――なに!?
呆気に捉われた私とチャールズは扉の方へ視線を移す。すると…?
「うぁ~!やめろぉぉおおお!!」
突然に叫びながら姿を現したのはチャラ男のウィリアムだった。しかも彼は押し出されたかのように、部屋へとせり出され、そのまま勢い余って床に倒れ込んでしまった!
「いってぇええ!」
無様に転げ落ちたウィリアムは顔を思いっきししかめ叫んでいた。
「ウ、ウィリアム!どうしたの!?」
チャールズが驚き、ウィリアムの方へと近寄ろうとすると、
「ひょぇええ!!」
気持ち悪い叫び声を上げた。突如現れた人物に恐縮したようだ。その人物とは……。
「シャークス!?」
黒の騎士様の制服を身に纏った眉目秀麗のシャークスの姿があった。いきなり騎士様が剣を持って現れたらビビるよね!
―――でもなんで彼がここに!?
シャークスは私の姿を目にすると、すぐに駆け寄って来て、縄の解きにかかってくれた。
「大丈夫かい?スターリー?」
「シャークス、なんでここに?」
「なんでって助けに来たんだよ」
あっけらかんと答えたシャークスは状況に全く物の動じを感じさせない冷静な様子だった。それに私はなにか違和感を覚えた。
―――あれ?
その答えを出そうとした時には、完全に縄が解かれて、私は自由の身となっていた。
「怪我はしてないかい?大丈夫?」
「なんとか」
「良かった」
シャークスから抱き寄せられ、優しく抱擁される。口調からして、とても心配してくれているのがわかる。だけど、シャークスとやりとりしている間にも、ダダダッという足音が耳に入り、ウィリアムが出入口へと疾走して行く姿を目にする。
「あぁ~ん、待ってよぉ~」
それを追いかけるチャールズ!明らかにずらかろうとしているではないか!
―――ビュッ!
なにか目の前を通ったと思いきや、
「ぎゃぁああ!!」
部屋から出ようとしたウィリアムから悲鳴が上がった。なんと扉のあった横の壁に長剣がぶっ刺さっており、ブルブル大きく振動していた!剣はシャークスがウィリアム目掛けて飛ばしたものだった。やり方がめっさ豪快だ!
あまりの吃驚にウィリアムはその場にヘナヘナと尻もちをついてしまい、それによって行き場を妨げられたチャールズが無様にすっ転んだ!
「あぁ~ん!痛いの痛いの痛いのぉぉおお!!」
あぁ~、また始まった、ウザイ喚きが。私はもう呆れて冷めた表情をして、チャールズを見下ろす。
「…さて」
いつの間にかシャークスが縄を持っていて?それって、さっき私が縛られていた縄だよね?その縄で放心状態のウィリアムと喚いているチャールズの二人をグルグルに縛り上げた。彼等は背中合わせの体勢へとなった。
「あぁ~ん!やめてよぉぉおお!ボク縛るのは好きだけど、逆は嫌いなのぉぉおお!!」
んっなオマエの趣味なんかどうでもいいっての!チャールズの喚きが響く中、シャークスは壁にぶっ刺さっている剣を抜き取り、腰へと戻した。そして鋭い眼差しをウィリアム達に落とす。シャクスの無表情は凄味があって怖い。ウィリアム達もその気迫に押されてか視線を落としていた。
………………………………。
閑散とした空気が流れる中、
「アンタ達!どうして私をさらったのよ!いつぞやの仕返しのつもりだったの!?」
私は抑えていた感情を爆発させ、詰問体勢に入った。
「違…「違うの違うの違うのぉぉおお!!」」
ウィリアムとチャールズが同時に答えた……が!チャールズが入ると、話がややこしくなりそうだから、黙ってもらわんと!
「アンタは黙ってて!」
私はチャールズに指示をする。
「ウィリアムは黙っててって!」
チャールズは自分の事だと気付かず、ウィリアムを促した。
「アンタの事だ!チャールズ!!」
「え~!このコ、なんでボクの名前を?もしかしてボクのストーカー!?いっやぁ~ん!」
―――ぶっ殺す!!
顔をフルフルと振って本気で怖がっている様子のチャールズに、私は殺意に似た感情が芽生えた。なんで、コイツはこんなにアホなんだ!
「なんの目的でオレのスターリーに手を出した?」
「オレの」はいらないだろう!なにどさくさに紛れて言ってやがるんだ!私はシャークスをキッと睨むけど、彼の表情が真剣そのもので、却って萎縮してしまう。人さらいなんて大罪だもんね。
「交換条件を出されたんだ」
「交換条件?」
ウィリアムから意想外の言葉が出され、私とシャークスは眉を顰めた。
「金に目がくらんで…。ローブを頭までスッポリ被ったヤツに声をかけられたんだ。お嬢ちゃんをここまで連れて来れたら、褒美に金をやると」
「は?知らない人にって事だよね!」
「そうだ」
「そんなガチかどうかわからない相手の要望を呑んだわけ!」
「最近、金に困っていて必要だったんだよ」
「真面目に働けっての!」
「生憎無職だ」
「だからといって犯罪に走るな!」
―――あれ?こんな会話前にも…?
「引き受けてから、いつぞやお嬢ちゃんだってわかったんだ。だから初めから報復目的じゃねぇ」
言葉を続けたウィリアムの表情からして、嘘を言っているようには思えなかった。それは信じるとしても、まずなによりも!
「ちょっとさっきの声をかけてきた相手の事、もっと詳しく話してよ!」
「だから知らねーヤツで、ローブを頭までスッポリ被っていたから、わからねーって」
「何処で話しかけられた?」
手の施しようがない話に、シャークスが視点を変えてウィリアムに問いた。
「大聖堂前だ」
「なるほど。金を受け取る場所はここだったのか?」
「そうだ」
「という事はソイツはここに来る可能性があるのか…」