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第四十九話「成功の糸口を探ります」

 最初の病室へと足を踏み入れる。

 

 ―――ん?

 

 私は瞬時に異変に気が付いた。

 

 ―――♪♪♪♪~♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪~♪♪~♪♪♪♪♪

 

「へいっ♪へいっ♪へいっ♪」

「ひゅ~♪、ひゅ~♪」

「ロールつぁ~~~ん!!投げキッスプリーズ❤」

 

 ―――はい?

 

 なんとも不快な騒音が響いていた。というのも室内には、あるおっさんがベッドの上で、お尻フリフリにして踊りまくり、歌とは言えないフル音痴な歌声を披露していた。そんなおっさんの周りには別のおっさん達が集まり、声援を送りながら場を盛り上げている。

 

 ―――なにこれ?なんの騒ぎ?てか病室なのに?

 

 私がポッカ~ンとしていると、

 

「なにやっているんですか!ここは病室なんですよ!他の患者さん達のご迷惑になりますから、今すぐにおやめ下さい!」

 

 と、私の背後から医師の助手さんが現れ、叱咤のお言葉を投げた。

 

「え~、だってさ~、やる事なくて、なぁーんも潤いがないんすよ~?」

「そーそー、今回の助手さんも外れだし、前は若くてピチピチのキャワユイ子だったのにさ~」

 

 うっわぁ~、おっさん達は目の前の助手さんを遠回しに非難しているよね。助手さん、ワナワナと震えて怒ってますけど。つぅか、この病室での聞き込みはしたくないわ。次行こうっと!

 

 ……………………………。

 

 ところが、行くところ行くところ、入りづらい雰囲気の病室ばかりだった。

 

 ―――どうしてこう変な患者ばかり集まってんのさ!もしかして、そういう奇特な人達の病棟なの?なんか農夫の人達って、イメージからして穏やかな感じがしていたのに~。

 

「はぁー」

 

 思わず深い溜め息を吐いてしまった。そんな時だ。

 

「家族に会いたいな」

「そうだな。オレ等がこんなんなったから、カミさんが大忙しになって、見舞いどころじゃないもんな」

「オレんところは小せぇガキが3人もいる。女房が倒れてなきゃいいんだが」

「まさかこんな怪我を負うとはな。家族を楽にするどころか却って苦労をかけちまっている。オレ等のした事は間違いだったのか」

 

 ―――あれ?もしかして…この人達って?

 

 ピンッときた!デモを起こした農夫達ではないかと。私は会話が聞こえてきた病室へと足を踏み入れた。すると、手前のベッドにおっさん3人が集まっていた。その人達は躯全体的が包帯で巻かれ、湿布の貼りも目立っていた。けっこうな痛手の様子だ。それに中にはベッドで横たわっている患者もいるようだ。

 

「あ…」

 

 様子に驚いて突っ立っていると、おっさんの一人が私の存在に気付いた。

 

「あ、あの…」

 

 意気込みと気合いはあったものの、いざ現場に直面すると、思うように口が回らない。それが変に緊張して汗が出てきそうだよ、嫌だぁ~!

 

「誰の見舞いだい?」

 

 私の様子を気遣ってか、別のおっさんが声をかけてきてくれた。

 

「私は…そのデモンストレーターの方々のお見舞いに上がりました」

「なんだって?」

 

 声をかけてきた満月のように真ん丸な顔のおっさんはしかめっ面に変わった。他の2人も眉間にしわを寄せている。そりゃ本人達ならドッキリと緊張するよね。

 

「デモの連中になんで見舞いだ?」

 

 真ん丸顔でおっさんは完全に警戒、いや殺気立て私を注視している。

 

「命を張って怪我を負った彼等に、激励の言葉をと思いまして」

「激励?」

 

 おっさん達の表情が緩んだけど、今度は大きく首を傾げていた。そういう顔するわな。これは独自の捏造話だ。私は腹をくくって話を続けた。

 

「実は私の家は農家なんですが、ここ最近領主から不当な税金や女神へのお供え物の増税が課せられ、苦しんでおりました。相手はお偉い領主様や司教様、父も母もどうする事も出来ぬと嘆く他ありませんでした」

 

 私は出来るだけ話に信憑性を強める為に、目を潤ませた切ない表情を見せ、沈んだ声の口調で話をした。

 

「生活が苦しくなる一方、父は無理に仕事を増やし……そして」


 ここが迫真の演技の見せどころだ!私は顔を伏せ、そして震えた声で、こう続けた。


「最期には過労死しました…」


 ―――シ――――――ン。


 重い空気が流れる。さすがにおっさん達も言葉を失っていた。私は尚も言葉を続け、


「話を突き詰めていくと、領主や司教様によるものではなく、国王様のご命令と言うではありませんか。そんな手も足も出せない状況の中、デモンストレーションが起こりました。私達家族のように苦しむ方々が奮闘をし、その彼等は大きな負傷を追いました。いわば命を張って訴えてくれました。その姿に感嘆しまして、ささやかですが、お見舞いのお花を持って参りました」

「嬢ちゃん…」

 

 おっさん達は感涙している様子だった。おぉ~、今の嘘っぱちを信じてくれたみたい!

 

「実はな…、オレ達がそのデモンストレーターなんだ」

 

 真ん丸のおっさんが思い切ったように暴露してくれた!よっしゃ!やっぱデモンストレーター達だったか!後は有力な情報を聞き出せれば万々歳だ!

 

「え?オジ様達がですか!」

 

 私はわざとらしく、大きなリアクションを見せた。

 

「「そうなんだ」」

 

 と、他のおっさん達も頷いていた。

 

「今、寝ている奴等も仲間さ。怪我の具合は人それぞれだが、かなり重症な奴等もいる。予想外の爆発事故も起きちまったからな」

「そうですよね!あれはお気の毒でした」

 

 私は同情した感慨深い表情を作る。

 

「あの、ずっと疑問に思っていた事があったのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なんだい?」

「徴収を行っている当事者が国王様だと、どうしておわかりになったんでしょう?」

「それはな…」

「それは…?」

 

 私は食い入るように、真ん丸のおっさんの表情を見つめる。これはかなめとなる人物の名が上がるんじゃ!?


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