第四十七話「姫君がまさかの婚約者!?」
意外な人物から意外な名前が。しかもよりによって、あのシャークスの名だ!
「シャークスの婚約者さんね」
「違います!!」
即答してしまった。しかも変に力んで!なんでなんで、こんな王族の方にもシャークスの婚約者だという話になってんのよ!それ一番私が知らない話ですから!
「え?え?そうなの?でもそう聞いていたのだけれど」
「真っ赤な嘘です!なにかの間違いです!こんな一般市民の娘が、あの騎士様の、しかも長の婚約の筈がありません!」
一応シャークスを立ててみたものの、次に会ったらガチ締め上げる!あ~それじゃ、却ってヤツは喜んじゃうか。面倒なやっちゃ!
「そうだったのね」
まだ腑に落ちない表情をされているアンティール様だけど、私の答えは間違っておりませんから!
「あら?」
なにかを思い出されたかのように、アンティール様は呟かれた。
「そろそろ午後のお茶会の時間だわ。それじゃ、私はこの辺で失礼させて頂くわね」
「あ、はい」
「またパーティでお会いしましょうね」
「はい」
私はパーティに出席出来るのかな?でもまたアンティール様にはお目にかかりたいかも。すんごい綺麗な人だもん。そして彼女は私に背を向け去って行った。
―――後ろ姿まで絵になる方だな。まさに神に選ばれし人だね。
「スターリー」
「え?」
アンティール様の姿が見えなくなるまで見送ると、背後から名を呼ばれた。振り返ってみると、
「あ!」
聞き覚えのある声だと思ったら、クローバーさんだ!精悍な顔つきで硬派なイメージの人だと思いきや、実際は女たらしの最低な人だったりする。
「今、君と話をしていた女性って、アンティール様だよね?」
「そうですよ」
私が答えると、クローバーさんは目を細め、感慨深い表情を見せた。
「へ~、なんか複雑だね」
「なにがですか?」
「いや元シャークスの婚約者が、今の婚約者の君と話をしているなんてさ」
「は?」
私は目ん玉が飛び出しそうなぐらいおったまげた。だってだってだってだよ!あの王族の姫君様がなんと、シャークスの婚約者だったなんて(その後の私が今の婚約者だとかいう言葉も問題だったが!)。
「あんな美女があのド変態ドM男シャークスの婚約者だったの!?信じらんない!!」
「え?そんなド変態ドM男は君の愛するシャークスだけど?」
「勝手に愛するとか言わないで下さい!てか、私は根本的に彼の婚約者ではありませんから!」
「もしかして照れ?恥ずかしがっている?君は素直じゃないみたいだけど、シャークスと二人の時は熱いって聞いているよ」
「なんの話をしているんですか!それは私とシャークスの話ではないですから!さっきのアンティール様とシャークスの事ですけど、元婚約って過去の話になったのも、シャークスがあんな妄想を捏造するド変態だから、アンティール様から逃げられたんじゃないですか!?」
「それは違う。シャークスは彼女の幸せを願って身を引いたんだ。スターリー、いくらアンティール様に嫉妬したからといって、そんな暴言を吐いてはいけないよ」
「さっきから、クローバーさんの発言の方が暴言ですけど!?」
もうヤダ!なんでみんなして埋め込まれているのよ!シャークスの虚言に!ザクロといい、アンティール様といい、クローバーさんまで!
「まぁ、確かにアンティール様から、別れを告げたみたいだけどね」
「やっぱそうなんじゃん!」
だろうと思った!私が奮起していると、クローバーさんは宥めるような優しい口調をして、こう告げてきた。
「スターリー、心配する事はない。アンティール様はもうカーマイン国フォールン王子の婚約者だ」
*★*――――*★* *★*――――*★*
―――アンティール様はシャークスのあのド変態ドMの正体をご存じだったのかな?……いや、知っていたら、婚約なんかしないか。
私もゴメンだもん。度の過ぎた偏執病だからね!
―――私と話をしていた時、どう思われていたんだろう?
私は恋愛に疎いから、男女の複雑な想いを悟る事が出来ない。とりあえず、アンティール様には今、別の婚約者様がいるもんね。しかも隣国の王子様!やっぱシャークスとは身分の差で?でもシャークスって黒の騎士の長だし、家柄も良さそうなのにな。
仕事を終えた私は部屋で休んでいた。今日は外出する事はなかったけど、明日はあるかも。そしたら例の調査もしなきゃだし、上手く聞き出せるように、会話のシュミレーションもしておかないと。
―――コンコンコンッ。
物思いに耽っていたら、扉がノックされる音が耳に入った。
―――誰だろう?
「はぁぁい!」
私はそそくさ扉の前まで行き、開けてみると、
「シャークス?」
「やぁ、スターリー」
現れた人物はシャークスだった。あれ?今日は打ち合わせはなかったと思うけど、なにかあったのかな?
「どうしたの?今日話し合いはなかったよね?」
「うん、用がなくても愛しの君の顔は毎日見ないと。それに君にも淋しい思いさせたくないしね」
「……………………………」
用ないんかい!切なる表情をしてリアルッぽく言うなっての!
「少なくても私は淋しくないから安心して!」
「そんな強がりなところも可愛いよね」
もうヤダ!あ、でもちょうどいいや!あの事を聞いてみようかな?
「シャークス」
「なんだい?夜のお誘いかい?」
「んっなわけあるか!私はさすがにアンティール様のパーティには出席出来ないよね?」
「え?」
シャークスの透き通るマリーンブルー色の瞳が大きく揺らいだ。ん?なんか予想外の反応だ。
「あ、ごめん!もしかして失言だった?そうだよね?図々しいよね!」
「あ、いや。そうじゃない。意外な質問で。スターリーは王族や貴族が集まるパーティには興味がないかと思っていたからさ」
「そうだったんだけど、今日アンティール様に会って話をしたら、また彼女に会いたくなってさ」
「え?アンティール様?」
シャークスはさっきより大きな反応を示した。もしかして、アンティール様の話題は禁句だったのかも。
「シャークス?」
「あー、ごめん。そうだね、エクストラ国王に話をしてみるよ」
「本当!?有難う!」
「ん、でもスターリーがアンティールとね…」
ん?シャークスは独り言のように、アンティール様の名を漏らした。それに感慨深い表情をしている。なんだかそれがとても親しみが込められているように思えて、この時、自分の胸がチクンとしたのは…なんでだったんだろう?