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第四十話「彼等の目論見」

 このポーカーゲームには特別なカードを使用している。プレーヤー達ぐらいの距離からでなければ、カードの絵柄が映し出されない。それは周りのギャラリー達からの表情で予測をつけさせない為だ。代わりにディーラーがハンドを読み上げる。

 

 ザクロはこのポーカーゲームでは確実にチップを手にしていた。物語のように「ロイヤルストレートフラッシュ!」というカッコイイ決め方をしているわけではないけれど。

 

 ヤツはプレーヤー達の心理を読み取り、ちょっとした仕草も見落とさず、勝負に出る時には賭け金を上げ、状況によっては潔く降りたりもする。要は無駄な負け方をしていないというわけだ。その分、チップの減りは殆どなく、また手に入れる金額が大きい為、結果大きな黒字となっている。

 

 このポーカーゲームは一見、運任せのように思えて、これがけっこう頭を使っているようだ。例えば、カードを何枚変えたかで相手のハンドが予想出来る。

 

 1枚ならツーペアをもっていた。ストレートを狙った。フラッシュを狙った。2枚ならスリーカードを持っていた。または低いカードのペアにエースを一枚くっつけた。3枚ならワンペアをもっている。0枚ならストレートやフルハウスが既に出来ているか、またはブラフはったりといった具合だ。


 またその後の張り方でハンドの予想が出来る。1枚変えた人が大きく張れば、役が入ったか、ブラフのいずれか。2枚変えた人が大きく張れば、フルハウスかフォーカード。3枚変えた人が適度に張れば、スリーカードが出来たといったように読める。


 張る時のわずかな仕草も重要だ。ためらい、表情でブラフかどうかを分析する。自分からのチップの張り方にも気を遣う。自分が大きいハンドを持っている時、大きく張りすぎると相手は降りてしまう。欲をかいてはいけないのだ。相手を適度に泳がせ、ゲームに参加させておいて、最終的にはチップを手にする。

 

 今のプレイも見ている限り、ザクロはまずまずかな。大きな損害もなくてホッとする。だけど…なんとなくなんだけど、なにか「違和感」がある。それがなんなのか気付けなくて悶々だ。そんな思いを抱いたまま、ゲームは進行していった。そして…。

 

「レイズ」

 

 賭け金を上げるザクロの声が耳に入った。

 

 ―――お!自信のあるカードが揃ったんだな。

 

 私は大きな期待を胸に膨らませた!それに他のプレーヤー達が乗るか乗らないか。すると、

 

「リレイズ」

 

 ―――ほぇ?

 

 次のプレーヤーがさらに金額を上げてきた。おっと、強豪がいるのか!

 

「リレイズ」

 

 と、またもや次のプレーヤーによって金額が吊り上がった。なに?殆どのプレーヤーが自信満々のカードを持っているの?中には賭け金すべてオールインのプレーヤーもいますけど!?

 

 ギャラリー達からも驚嘆の声が上がり、緊迫した空気が流れ始める。その雰囲気に私も妙に心臓がバクバクと速まり、緊張が高まった。食いるように見つめていると…。

 

「なるほど、やっぱそうだったのか」

「ん?」

 

 いつの間にか隣にある人物が並んでいた。それはあの「ボーイ」だった。初日からなにかと私の前に現れ、ゲームの細い説明をしてくれる彼だ。

 

「気が付かない?」

「え?」

 

 ボーイから確認を求めるように問われる。

 

「今日の彼等のプレイしている時の様子、まるで緊張感がない」

「あ、そうだ!」

 

 違和感はそれだ!今までチップを取られていたにも関わらず、彼等には緊張感がないのだ。まるで初めから勝つ勝負をしているようなそんな様子に見える。でもなんで?

 

「個々でプレイしているように思えて、実はあれは共有チップとしているね」

「え?」

「プレーヤーは6人。君の連れ以外がグルとして、単純に考えてみて勝利の確率は6分の5。誰かしらが勝てばチップは手に入るし、最終的には均等に分けるつもりなんだろうね。だから多少の損害も痛手に感じないし、緊張感がなくプレイが出来るってわけだよ」

「そうだったの!」

「それに今のプレイ、誰かしらがストレートフラッシュかロイヤルストレートフラッシュのカードを持っている可能性が高い」

「え?」

「だから強気に出てリレイズを出している」

「じゃぁ、ここは素直に降りた方が…」

 

 とは言ってもある程度、捨て銭になってしまうのが痛い。なにせ今のプレイは始めから賭け金が高額だった。最初に賭けに出たプレイヤーがそれなりに自信があったのだろう。そこからさらにザクロが金額を上げた。

 

 しかし、今の賭け金は見事にザクロの持ち金を超えてしまっている。という事は勝負に出て負けたら、全額とオサラバになり、さらに借金を抱える事になる!ここは素直に降りた方がまだマシだ。

 

「コール」

 

 ―――へ?

 

 おぉ~と、ギャラリーから大きなどよめきが起こった!なんと私の懸念をよそに、ザクロが賭けに乗ってしまったぁぁああ!!

 

 ―――一体、なにを考えているんだ、ヤツは!

 

 ザクロの「コール」の声に他のプレイヤーから大きな笑みが零れた。なんか大きな罠に嵌められた気分だよ!私は瞬時に青ざめる。

 

 ―――ザクロ!全額を賭けるってロイヤルストレートフラッシュをもっているって事!?でも60万分の1と言われているハンドって、そう運良く出る!?

 

 そしてプレイヤー達のカードが表へと姿を現す。ハンドの種類をディーラーが読み上げていく。ん?ザクロ以外のプレイヤーのカードはノーペアかワンペアといった弱ハンドだったようだ。張るだけ張ってたのも、やっぱグルだから出来たんだ!

 

 肝心なザクロのハンドは?

 

「5番プレーヤー、7フォーカード」

 

 数字7のフォーカードだ!ストレートフラッシュやロイヤルストレートフラッシュには劣るものの、それでも十分に強いカードだ!私は目をキラキラさせて歓喜に溢れていた……けど、

 

「え?」

 

 最後の一人のカードが表へと出され、

 

「6番プレーヤー、スペード10、J、Q、K、Aのロイヤルストレートフラッシュ」

 

 ディーラーの言葉に私は一瞬にして頭が真っ白となった。あのつぶらな瞳をしたおっさんが、60万の1の確率の「ロイヤルストレートフラッシュ」を出しただとぉおお!!


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