第三十七話「名の通り運命線上にヒヤヒヤです」
くるくるのおっさんは調子づいて大胆な発言をしてきた!ほぼ自分が勝利しているから、ツキが自分に向いているのだと余裕なんだろう。
「勝手にしろ」
おっさんの言葉に初めてザクロが応えた!周りのギャラリー達からも感嘆の声が上がる。おっさんも満足そうにニヤついていた。さらに…。
「ただし条件がある」
「なんだ?」
これみよがしに、おっさんがまたとんでもない事を口走る。
「オマエさんの持ち金も全部賭けてもらおうか。オレもそれなりのリスクがあるからな。フェアにやってもらわんと」
「その条件呑んだぁぁああ!!」
威勢よく叫んだのは……もちザクロではない!じゃぁ、誰?と、一斉に声の主へと注目が集まった。それは…?あ、あれは!さっき見かけた奇抜な衣装を着た=男好き説大の男性じゃん!なんであの人が張り切って応えてんの!?
確かあの人、確かザクロが敗者になったら、負けた分のお金を渡す代わりに、一晩過ごしてもらおうとよこしまな考えをもっていたよね!だからザクロになんとしてでも勝負させて負けさせたいと!キ、キモイィィイイ!!私は刹那、悪寒が走った!
「………………………」
ザクロは奇抜な服装の男性には一瞬たりとも目をくれず、黙然としていた。
―――それにしてもなんちゅー条件なの!
奇抜な男性の存在で雰囲気が違う方向にいっていたけど、今は静まり却って緊迫した空気が流れていた。ギャラリー達が見守る中、ザクロが出した答えとは…。
「いいだろう」
「よっしゃぁああ―――――!!!!」
と、くるくるのおっさんではなく、例の奇抜な男性が一際でかい声を上げて喜んでいた!目をキラキラさせ、心なしか頬を紅潮させている。あの男性なにを考えているんだ!もう既にザクロが負けて自分の元へ来るような想像をしているんだと思うけど、万が一、ザクロが負けたとしても、アンタのとこには行かないっての!
―――あ~、もう!さすがにザクロを止めようと思っていたのに~!
ちょいちょい奇抜な男性が介入して来るから、止めるタイミングを逃しちゃったよ!それにザクロの持ち分ってけっこうな額だったよね。シャークスが余裕をもたせて用意してくれたお金だけど、調査もろくに出来ていない内に、すっからかんにしたら、さすがのシャークスも怒るって!
「ヒュー!これは楽しみだぁー!」
「オマエも人が悪いなぁ~。美形兄ちゃんを泳がすとは~」
「あーん!お兄さん頑張って~❤」
ギャラリー達から歓声が上がる。私の心配をよそにザクロとくるくるのおっさん両者から、持ち金の全部がテーブルの上へと置かれ、さらに歓声が高まった。いよいよ最後のセットが始まり、最初の色を選んだのは当然と言うべきか、くるくるのおっさんだ。選んだ色は「黒」だった。
次に5つの玉が投げられる。最初はおっさんの回、次にザクロの回だ。最終的な結果はザクロが「8」、おっさんも「8」だった。この時点ではどちらが勝者か決まらない!
―――あれ?でもこの場合ってどうなるの?
そういえば、数が同じになる場合もあるよね?
「数が同じ場合、プレイヤー二人がジョーカーの条件に該当した場合、ディーラーは二人から賭け金を貰えるんだ」
「え?」
私の疑問をタイミング良く答えてくれたのが、あのバイオレンス好きなボーイだった。なんか読心術でも使えるのか!突っ込んでしまいそうになったけど、それよりも条件手厳しくないですか!いくら同じ数字になる確率が低いとはいえ、なんてリスクが高いの!
さすがに、この展開にはくるくるのおっさんも舌打ちをしながら、ディーラーが次に投げる赤い玉を睨みつけていた。ザクロは至って無表情でいる。内心はヒヤヒヤしているのかな!
そして……。
結果は「赤」の32だった。この瞬間、くるくるのおっさんは「ふぅ~」と、盛大な溜め息を漏らした。確かに危なかったよね。偶数の黒のポケットに入ったら、おっさんもザクロも共倒れだもん。
―――ん?でも今のセットで最終になるよね?まさかこれで終了!?うっそ―――ん!
私はまたしても口をあんぐりとして焦りまくる。
「延長ゲームに移ります」
―――んん?
ディーラーが淡々とした口調で伝えてきた。「延長」ってなに?
「延長ってのは今みたいに誰の懐にも賭け金が入らなかった場合に、もう一回プレイが行われるんだよ」
「ふぇ?」
またしても私の隣りで、あのボーイが説明を始める……のは有り難いけど!明らかに私の心を読んでませんかね?なんかさっきから私はアナタにヒヤヒヤゾワゾワさせられてばっかなんですけど?私の恐怖心をよそに、ボーイはにこやかな様子でプレイテーブルを見ていた。というかお仕事しなくていいんすか?と、突っ込みたくなる。
「さっきの賭け金と同じにしろよ、兄ちゃん」
くるくるのおっさんが念押しのようにザクロに要求をしてきたが、ザクロはその言葉には応えず、代わりにさっきの賭け金そのままを出した。ギャラリーからも大きな声援が飛び回る。そして延長のゲームがスタートした。
さっきと同じく、おっさんが色を選ぶ。今度は「黒」だった。次に5つの玉が投げられた。最初はおっさんの回、次にはザクロの回だ。
―――ドキドキドキドキドキドキ。
今までの中で一番緊張が高まる中、あれよあれよと進んで行き…、最終的な数字は、おっさんが「6」、ザクロは…。
―――ドキドキドキドキドキドキッ!
このゲームの空間だけ凍り付くような張り詰めた空気が流れる。私の心臓も今にも破裂しそうな思いでいっぱいだ。私は「勝てますように」と、祈りを込め、両手を握る。
結果は……。