第三十六話「ファーストゲームの行方」
「22」番だった!という事は…勝者プレーヤーは見事にジョーカーの条件にビンゴとなり「仮の勝ち」は取り消しとなった。さらに賭け金はディーラーの元へと渡される。ギャラリーから大きな歓声が上がった!
ザクロの賭け金はノーカウントで彼の元へと戻ってきた!私はホッと安堵の溜め息を吐いた。もうっ、初っ端からヒヤヒヤもんだったよ!
「ッキショー!」
勝つ気満々でいた漁師のおっさんは舌打ちをし、文句の言葉を漏らした。確かにその気持ちはわかるけど、これはこういうゲームだからね。と、ザクロに被害がなかったもんだから、ちゃっかり辛口になってしまう。
そしてこの後、ゲームは10セットまで行われた。結果は以下の通りだった。
2セット目:ザクロの勝利
3セット目:ジョーカーの勝利
4セット目:おっさんの勝利
5セット目:ザクロの勝利
6セット目:ジョーカーの勝利
7セット目:おっさんの勝利
8セット目:ザクロの勝利
9セット目:ザクロの勝利
10セット目:ザクロの勝利
―――やった!このゲームは勝ち越した!
私は満面の笑みを浮かべて、心の中でガッツポーズをした!ザクロは賭け金よりも手元に入ったきた金額の方が多かった。反対に相手のおっさんは悲惨と言わんばかりの苦痛の表情を浮かべていた。
おっさんは残り3セットの頃から、焦っていたのか賭けの金額を上げていたのだ。しかし思いは叶わず、ラストはすべてザクロの勝利で終わった。
「ハハッ、ざまぁーねーな!いきなり現れたキラキラの兄ちゃんに負けたら~」
「ただでさえ見た目が悪いのに、格好まで悪いなんぞ様になんねーな~」
負けたおっさんは仲間内から慰めならず、追い打ちの言葉を投げられていた。
「うるせー!だったらテメェー等もやってみろってんだい!」
おっさんは負け惜しみに罵声を上げた。それが余計面白く小バカにしていた仲間の一人がしゃしゃり出てきた。つぶらな瞳の天然パーマのおっさんだ。金色のキラキラシャツを本人は決まっていると自慢げな様子に見えるが、実際は全くの不似合いだ。
「次はオレを相手にして貰おうかね~♪」
くるくるのおっさんはザクロにニヤリとた表情を見せながら、挑戦をぶつけてきた。この表情からして余裕に思えた。
「おい!あのおっさん、このゲームに関しては強者だよな?」
「さすがにあのおっさんは相手にしない方がいいわよね」
なんと、くるくるのおっさんは見かけによらず、ゲームの強者のようだった。これはギャラリーの声を鵜呑みにした方がいいよね。ザクロはチラリと目線だけ、おっさんに向け、すぐに逸らした。
「受けてくれるみてーだな」
―――なんですと!?
なにも応えてないザクロなのに、おっさんは勝手に事を進めようとしているではないか。さすがに私はヤバイと思ってザクロの元へゲームを降りるよう伝えようとした。が!私を押し退けるように、くるくるのおっさんが前へとしゃしゃり出てきて、そのまま彼はプレイヤー席へと着いてしまった。
―――おいおいっ、ゲームが始まっちゃうじゃん!
「よろしくな、兄ちゃん」
くるくるのおっさんは明らかに余裕の笑みを浮かべ、ザクロへと挨拶をした。ザクロは反応せず、無表情でいた。おっさんは少しばかりイケかないという不満の顔を見せたが、ディーラーがゲームの準備を始めると、気にしなくなったようだ。
―――あ~、どうしよう!止める余裕がなくなってしまった!
私はファーストゲームが始まる前の時のように、心臓がドキドキとし始めた。あれよあれよと準備は進み、ザクロとくるくるのおっさん両者が賭け金を置き、ゲームは始まってしまった。
ジョーカーの条件となる色をくるくるのおっさんが選ぶ。おっさんは「赤」を選んだ。太っ腹なのか見栄なのか、おっさんの賭け金はザクロの倍だった!
第1セットの玉が投げられた。くるくるのおっさんの回、ザクロの回と玉が投げられ、最終的な数字はおっさんが「6」の偶数、ザクロが「15」奇数とこの時点ではザクロが仮の勝者だ。
そして運命のジョーカーの玉が投げられる。赤い玉は……なんと!赤の「7」番のポケットに入り、ザクロの勝ちは取り消しとなってしまい、ディーラーの懐に行ってしまった!私は「あぁ~」と唸り声を上げそうになったけど、まだ1セットが始まったばかりだ。
これからこれから!と、少しばかり楽観視してしまっていた。ゲームは2セット目と続き、ラスト手前の9セットまで行われ、結果は以下の通りだった!
2セット目:おっさんの勝利
3セット目:おっさんの勝利
4セット目:おっさんの勝利
5セット目:ジョーカーの勝利
6セット目:おっさんの勝利
7セット目:おっさんの勝利
8セット目:ジョーカーの勝利
9セット目:おっさんの勝利
私は茫然となった。だって9セットまで進んで、一度もザクロの勝利がない。これはまさに勝利の神様が彼を見捨てたとしか言いようがないではないか!ギャラリーやザクロファンから悲鳴の声が上がる中、くるくるのおっさん仲間達からは歓声が上がり、相反した声が飛び回っていた。
そんな中でも至ってザクロは無表情だ。その様子はとても焦っているようには見えない。いや、もしかしたら、そう見せないよう強がっているだけかもしれなかった。なにせプライド高いし!
普段ならざま~とか思う私でさえも、さすがにこの状況にはザクロを助けたいと思うけど、ろくに賭け事の知識もない私にはどうする事も出来なく、もどかしさと焦燥感に駆られていた。
そんな中、完全に余裕に浸っている、くるくるのおっさんが優雅な姿勢を取りながら、不敵な笑みを浮かべ、ザクロへと話しかける。
「あと1セットで終了だ。結果の見えている勝負だがな。まだ続けるか?」
「…………………………」
「かわいげのない兄ちゃんだ」
リタイアを促したおっさんの言葉に、ザクロはフルシカトしたもんだから、おっさんからイチャもんが投げられた。でもすぐにニヤッと笑みを深められる。
「さてここは最後のショーとして盛り上がりを見せようではないか。これまでのオマエさんの賭け金とオレが賭けた分の金額を最後のセットで賭けてやろうか」