第三十三話「マンモスカジノは異国の地です」
おったまげとはこういう場面を目にして言うのね。私は開いた口が塞がらず、なんちゃって風成金騎士ザクロの後ろに続いて歩いていた。なにがおったまげかというと、今、私はマンモスカジノ「トパーズ」の館内を歩いていた。
ここがなんのって!エントランスホールから、赤いカーペットが敷かれ(どこの王族様をお迎えで?)、中央にはなんですか?この無駄に巨大な金色の物体は!翼を広げた大鳥のオブジェはまさにリアル「金」で作られたものだ。
そしてキラキラの螺旋階段と目潰しをさせられそうな豪華絢爛なシャンデリアが飾られていた。さらに奥へと進むと、歩いても歩いてもハイレリーフな天井画と貴金属と宝石に埋め込まれた像が立ち並んでいた。何気にセクシーな髪の長いボインな女性像が多い。ったく。
極めつけは建物内なのに、川が流れていてゴンドラがの舟が通ってますよ。そこには優雅に客人が乗っていた。カジノというよりは何処か異国の地へと訪れた気分にさせられていた。そんな驚愕している私をよそに、ザクロは優々たる足取りでカジノの場へと足を進める。
―――少しぐらいレディの歩調に合わせろっての!
こういう女性に気を遣えない男はいくら顔が良くても評価は出来ないっての!男性の諸君、お見知りおきを!そんなイケてないザクロは……妙に目立っていた。
そりゃそうだ、煌びやかなゴールド一色の格好が格好ってのもあるけど、優美にワインレッドの髪を靡かせながら、無駄に際立たせている美顔に、みな注目しているようだった。
そしてコブ付きと言わんばかりに、痛い視線を向けられる私の存在。なんか前もシルビア大聖堂へシャークスと一緒の時に良からぬイチャモンを言われて嫌な思いしたけど、あの不快な経験をここでも味わうのか!しかも相手はこのザクロだ!シャークスの時以上に腹立たしいっての!
………………………………。
―――数十分後。
カジノメインのホールへとやって来た。畏まったノーブルな制服を着たボーイに扉を開いてもらうと……。
―――うっわぁ~!
目に映ったのはまさに「キラキラ」の光景だ!これまたゴージャスなシャンデリアの下に、いくつものテーブルが並び、各場所にディーラーが立ち、客人達はゲームを行っていた。ここはお決まりのみな煌びやかな正装をしている。
お客とディーラー以外にも各テーブルを回るボーイがお酒を運んでいた。私はザクロに続いてホール内を歩く。ゲームの様子を窺っていると、ダイス、ルーレット、トランプといった駒が使用され、プレイされていた。ディーラーとの対決もあれば、お客同士が競う姿も見える。
―――お、チップが!
赤、黄色、緑、青、ピンクといった色鮮やかなチップを目にすると、生々しさを感じる。チップは実際の金貨ではない。イミテーションのものを使用している。あのチップは金貨と交換して手に入れるものだろう。
―――なんか本当にアダルティ~な世界だな。
想像していたよりもずっと煌びやかで大人の世界だ。あと一年若かったら、ここに足を踏み入れる事は禁じられていたから、ある意味、貴重な体験だよね。賭け事の場は法律で成人を迎えてからではないと、足を踏み入れる事は出来ないのだ。
私は周りに圧巻し過ぎていて、すっかり前を歩くザクロの存在を忘れかけていたけど、ヤツはなにかを探すように視線を巡らせながら、前へ前へと進んでいるようだった。
「なに探してんの?」
「オマエ、バカか?」
「は?」
声をかけた途端バカ呼ばわり!どうしてこう喧嘩ばっかり吹っかけてくんだろ、コイツは!私は瞬時にヤツを睨み上げる。
「ここに来た目的はなんだ?それを見つけず、なんの為に来た?」
ザクロは私よりも鋭くキツイ表情を見せ、言葉を投げツつけてきた。た、確かにそうだ。ここには調査に来たんだ。まずはいち早く例の商人と漁師達を見つけ出さないとならない。
「わ、わかっているわよ!」
「言われて気付いたくせに、わかっているように言うな」
「ウッザー!」
完全に私の方が悪いんだけど、思わず逆切れをしてしまった。だって物の言い方が人をカチンとさせるでしょ!人として最低限の言葉を選んで物を言えっての!
「オマエの脳みそは不慣れの場に目を奪われているだけの短絡的思考だな」
「はぁ?そんなわけないでしょ!」
「それともシャークスとの夜な夜なの事が出来ず、気が落ちて調査を失念していたのか?」
「それは絶対に違うっての!んな考えに至るアンタの方がオカシイッての!」
コイツ、どうして最後にはシャークスに結び付けるんだろう!……ハッ、まさかコイツ…本当はシャークスの事?そういえば大の女嫌いだし、変に私に突っかかってくるのも、シャークスの事が好……。
「てっめー、ふざけんな!マジぶっ殺すっ」
「は?」
いきなりザクロがさらに恐ろしい形相をして、私に暴言を吐いてきた。な、なんでそんなに怒ってんのよ!私は意味わからず、ザクロと視線を合わせていたが、それが不快に思ったヤツが先に視線を逸らし、そしてそそくさと歩き出した。
―――さっきのなんだったのよ!
なんか一方的に罵声を浴びせられて、超不快なんですけぉぉおお!もう早く調査終わらせてコイツと離れたいぃぃ!私はザクロの背中を睨み上げながら、心底願いを込めた。
―――数分後。
ふとザクロが足を止めた。
「?」
どうやらあるテーブルへと視線を留めているようだった。プレイヤーが数人とその後ろには何人かのギャラリーが集まっていた。
「あの連中は例のヤツ等だな」
「え?」
「例のヤツ等」という言葉を耳にして、私は真っ先に目的の人物達だと気付いた。