第二十七話「いくらなんでも行き過ぎています」
さて、前回のメイド服を着ての調査は成功したとは言えなかったけど、当事者の乗組員達が黒幕と関わりがあるとわかり、ほんの少しの情報を得る事は出来た。昨日はかーなーりー緊張しながらも、エクストラ王に一件の出来事を報告を終えた。
そして今日は調査がお休みだった。シャークス達も本来は騎士様だ。そちらの本業をやりつつ、尚且つ、その合間を縫って調査を行っている。今日は一日彼等が騎士様デーである為、私は一人のんびりと部屋に籠っていた。
―――でもやっぱり部屋にいると、色々と考えが出てくるな。
乗組員のおっちゃん達、虚言をしたと聞いていたから、端っから怪しいとは思ってはいたけど、本当に黒幕と繋がっていたとは。ウェイトレスをしている時は話を聞き出すのに必死だったから、あまり深くは考えてはいなかったけど、なにせ国王様が関わる事柄に偽りを伝えるって…。
まともな人間なら出来ないよね。でも乗組員達はそれを実行した。その大きなリスクを背負って、あの酒浸りな生活を送っているんだもんね。相当なお金を渡されたんだ。となると、黒幕はお金持ちの人って事になるよね?
それとおっさん達、イイ情報も漏らしてくれてたよね。デモを起こした商人達の事も。やっぱ彼等も黒幕の指示の下に動いていたんだね。彼等をいとも簡単に動かせる黒幕って、一体何者なんだろう?
私はふとある人物が浮かんだ。それは……パナシェさんだった。でも彼が乗組員達やデモンストレーター達を動かしているとは考えづらい。あのシルビア大聖堂の大司祭様ではあるけど、そこまでの権力者ではないんだよね。そもそも聖職者が悪事を働こうなんて思わないだろうし。
でもだったら、なんでシャークスは祈りの場へと行っていたんだろう?結局その答えはいつものように闇の中へと入っていくんだけどね。それはさておき、このまま部屋にいても、なんか考えに呑まれて頭がパンクしそうだ。また中庭にでも行ってイイ空気を吸ってこようっと!
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数十分後、私はお気に入りの中庭へとやって来た。
―――今日もイイ天気で良かった。
今日も中庭で過ごすには絶好な日和だった。私は噴水の前まで来ると、ふとバルコニーへと繋がる大きな白い階段へと目を移す。
―――そういえば、この上って二階のバルコニーに繋がっているんだよね?上がってみようかな~。
まさかお偉いさんの部屋へと繋がっていないかと、ドキドキしながら私は恐れ多くも階段を上がって行った。すると…。
「わぁ!」
二階のバルコニーからの眺めは絶景だった。手入れがされた花壇のお花が広がっていて、下から眺めても綺麗だけど、上からは一種のアートようで、これまたとんだ美しさだ。
それに大理石で造られた噴水がまた豪華でキラキラと映えるな。さすが宮殿に相応しい中庭だ。思い切って上がって来て良かったと私は大満足していた。そんな時だった。
「は?」
いきなり後ろから私は包み込まれた。いわば何処のどいつわからぬ者の懐に引き寄せられたのだ。
「スターリー…」
無駄に甘く愛おしむ声が聞こえ、私はゾッとした!この声は間違いない、アイツだ!
「シャークス!ちょっとアンタね!不意打ちになにセクハラしてんのよ!」
私は顔だけ振り返り、一気に抗議へとかかった。黒の騎士様の制服を見事に着こなしたシャークスの姿が目に入る。今の時間は仕事中の筈なのに、なんでヤツはここにいるんだ!
「今、仕事中の筈でしょ!なんでいんのよ!?」
「ちょっとね」
ジタバタとする私を気にもせず、シャークスは微笑みながら曖昧に答えた。
「スターリー…」
また甘い声で名を呼ばれ、さらにきつく抱き締められる!
「ちょ、ちょっと、なに考えているのよ!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「キッモーイ!なんで荒い息になってんのよ!離れろ!!」
言葉が乱暴になりつつ、必死でヤツを引き離さそうとするのに、そうすればするほどシャークスの腕に力が入る。
「後ろ姿も可愛いから、つい抱き締めたくなったんだ。男として本能的な欲望だから止められないんだ。オレの愛を存分に味わってね❤」
「味わえるか、この変態!重罪人め!!」
「今日もその罵声と表情がたまらないな❤はぁはぁ」
―――ぎゃぁああああ!!
もう完全にヤツは暴走している!もう憎悪に近い感情が爆発しそうになる!せっかくここに上がって、疲れていた心を癒しに来ていたのに、今のこのシャークスの行為に腹立って仕方なかった。
「いいかげんに離れろ!」
「ム・リ!どうしてもと言うなら、オレの事殴って離れてよ?」
本気で言っている私の言葉を無下にしたヤツに、完全に頭にきた!あまりの憤りにか自分でも驚きの行動に出てしまう!私はシャークスから渾身の力を出して離れ、そして…。
「シャークス!もう私にこういう行為、二度としないと誓って!じゃなきゃ、私ここから飛び降りて死ぬから!」
シャークスに向かって叫んだ私はバルコニーの白い手すりの上に足を乗せ、そのまま手すりの上へと立ったのだった…。