第二十六話「メイド服は無駄だったのか」
「あ~~~ほんっと悔しい!あと少しで聞き出せるかもだったのに!」
事があるごとに、私はこの言葉ばかり叫んでいた。「あと少しで」と言うのは、あの居酒屋で貿易船の乗組員達から聞き出そうとしていた有力な情報の事だ。なんであと少しのところで邪魔ばっか入ってたんだろ!
「何度同じ事を垂らせば気が済む?なんの解決にもならない無駄な叫びはやめろ」
キィ~!こんっのムカツク言葉を投げてきやがったのは当然アイツだ!女潔癖騎士、ザクロだ!私は瞬時にキッと睨みつけるがヤツは私に腫物を見るような視線を向けた後、すぐに逸らした。相変わらず…いや、日を重ねるごとにムカツク野郎だ!
「頑張った彼女にそんな言葉を投げるな」
そんなザクロの言葉に透かさず注意をしてきてくれたのはクローバーさんだ。
「クローバーさん…」
私は彼の言葉に感動をする……が!
「オレも客に紛れて触りたかった。スターリーの尻は客達の間ではかなりの評判だったからな」
と、クローバーさんの言葉を耳にして即前言撤回だ!本当にこの人も一見硬派に見えて女なんて興味ありませ~んっていうオーラの内側で、とんだセクハラ心を宿した猛獣だよ!私はクローバーさんに白い目を向ける。
「クローバー、オレのスターリーには手を出すなと言っているだろ?スターリーはオレじゃないと、感じられない躯なんだ」
「シャークス!!」
一番厄介なのがやっぱコイツだ!また問題発言をしやがって!私とアンタとはそんな仲じゃないっての!将来こんなのの下で働くと思うと、騎士になる夢を諦めたくなってくるよ。
「逆に感じれないのはシャークスの方だろ?こんな女の何処に欲情するのか全くわからん」
ガァー!またザクロが口を挟んできやがった!
「スターリーの魅力は簡単には語れないよ。でも一番の魅力はやっぱ“死ねー”って罵る姿がたまらないんだよね❤」
「キッモーイからやめろ!!」
無駄に頬を紅潮させて噛み締めながら答えるシャークスに、私はまたもや突っ込みを入れてしまう。あ~、シャークスの頬の色味がさらに深まってキショイ!このド変態ドM体質なんとかならんのか!今更だけど、いつも切望に願ってしまう。
こんな疲れるやりとりをしているけれど、実は今シャークス達と例の調査についてのミーティングを行っていたのだ。今日はあの初めて王とお会いした地下牢の部屋に集結して、話し合いをしていた。実はこの後、王に報告を上げなくちゃならなくて(気が重い)。
だから真面目に話をまとめて欲しいのに、なんでこう変な方向にいくんだっての!というか、王はこの変人騎士達の素性をご存じなのかな。……いや、こんな変ちくりんだって知っていたら、黒の騎士様の位を与えるわけないか!私は深い溜め息を吐いた。
「スターリー、そんなに落ち込まなくてもいいんだよ」
落ち込んでいるのもあるけど、今の溜め息は貴様に呆れて出たんじゃって!私は再び突っ込みそうになったけど、
「もし彼等が有力な情報を漏らしていたとしても、どうせ酒の席だ。アルコールのせいにして狂言したと言い張っただろうしね」
シャークスは私をフォローするつもりで言ってくれたとは思うけど、それじゃ…。
「証言させる意味が?」
ないよね?私は今更ながら、あのメイド服を着て酒臭い店の中で、お触りバー状態を耐えに耐えた調査がすべて無意味であったのかと、一気にどん底へと突き落とされる思いに陥った。
「素面だと吐かないだろう?」
「そうだけど…」
私の思いを知ってか知らずかシャークスは淡々と答えるけど、私は腑に落ちない。そんな私の不満な表情の意味を悟ったのかシャークスは微笑み、言葉を続ける。
「いいんだよ。酒を飲んでいる時には素が出る。彼等達が黒幕と関わっているとわかっただけで、大きな収穫だったよ」
「そう…」
確かにそう言われればそうだよね!
「あぁ。だから、スターリーには頑張ってくれたから、感謝しているよ。有難う」
「そ、そう?」
改めてお礼を言われると、なんかくすぐったいな。私は素直に照れてしまう。
「お礼は後でオレの躯で払うからね」
「いらないって!」
ちょっとイイ空気をブチ壊すなって!シャークスはどさくさに紛れて自分の欲望を押し付けてきた。
「じゃぁ、オレので」
シャークスの言葉を断ると、今度はクローバーさんがここぞとばかりに間に入ってきた。
「どっちもいらないから!」
ったく、シャークスもクローバーさんもちゃっかりしているからな!
「礼なんていらないだろう?その女には交換条件を出しているんだろ?」
ザクロは女騎士の話って言いたいのか!確かにこの調査を成功させたら、女騎士への道を開いてもらう約束をしているからね。でもザクロが言うと、嫌味にしか聞こえてならない。
「とにかく王には昨日の夜の出来事を偽りなく、すべて話をする。スターリー、お願いするよ」
「う、うん」
王と話をするのって今からでも緊張するよ~。
「そんなに緊張しないで。オレ達がついているし」
「う、うん」
心強い言葉で有難いけど、なんか心配なんだって。
「そういえば、シャークス達って結局、昨日は何処で私と乗組員達を監視していたの?」
「オレ達はちゃんと客としていたよ」
「え?」
こんな美形が揃いも揃っていたら、いくらなんでも目立つって。
「けっこうな変装はしていたな。一見オヤジ達と交えても違和感をないようにしていたからな」
そう応えてくれたのはクローバーさんだった。
「そうだったんだ」
「ただ傍観しているだけかと思いきや、最後にとんだ手間があって苦労だったな」
不満げに吐露したのはザクロだ。なんの話をしてんだ、コイツは?私は眉を顰めてヤツを見ていると、その隣で満面の笑顔で応えるシャークスの姿があった。
「そうそう!ちゃんと制裁を与えておいたからね」
「は?なんの話よ?」
「だからスターリー、君に好き勝手にセクシャルハラスメントをしていた罪深い重罪人達をボッコボコにしてやっておいたからね♪」
「!?」
私は絶句した…。何故ならシャークスの眩しいくらいの満面の笑顔の裏側には殺人鬼のような恐ろしい顔が隠れている事に気付いてしまったからだ…。