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第二十話「そんな謂れありませんから!」

 デモの騒ぎが一先ず落ち着いた3日目。今日からまた首都の不穏な事件の再調査が始まる。一緒に調査するシャークスは朝から騎士様全体の大会議に出席の為、それを終えてからの開始だった。


 私はそれまでの間、もう部屋で待っているのには飽きてしまったから(ここ暫くは自室での待機が続いていた)、お気に入りの場所へと足を運ぶ事にした。最近、度々そこを訪れているのだ。


 その場所へと着くと、私は心が晴れやかになった。そこは大きな中庭となっていて、バルコニーから中庭へと通じる白い階段があり、瑞々しい芝生の中には大きな噴水があった。その噴水がまた美しい造りで、そりゃね~、大理石で作られた豪華な物だから当たり前なんだけどね。


 とにかく今日はすこぶるお天気も良いし、ここで日向ぼっこするのには最適日和だ。私はちょこんと(恐れ多くもだけど)噴水の石の上へと腰をかけた。空高く伸びる水の飛沫が肌に当たると、これまた気持ちが良いのだ。


 ―――今日から久々の調査の始まりだな。今日こそは大きな収穫が得られればいいんだけど。


 私は物思いに耽るようにポケ~と考えに没頭していた。今日もまた礼拝堂や修道院といった所を回るのだろうか。それらの場所に大きな手掛かり隠されているんだろうけど……それと、シルビア大聖堂大司祭のパナシェさんの存在…。


 シャークス、いつになったら事件の全貌を私に話してくれるのか。きっと、その思いが叶うのはまだ先ではないかと思った私は深~い溜め息を吐いた。その時だった。二階のバルコニーの階段から下りる靴音が耳に入って、私は反射的に階段へと視線を泳がせた。


 すると?


 ―――うわっ、なにあのキラキラ!?


 この表現だと語弊があるけど、とりあえず私が目にしたモノは人だった。腰より長いキラキラに光るワインレッドの髪は絵になるように舞っていて、思わず目を奪われるほどだ!あんまりにも美しい髪だから、一瞬女性かと思ったけど、背が高くなにより黒の騎士様の制服を身に纏っている歴とした男性のようだった。


 私はこちらに向かって来る、その黒の騎士様に惚け~として見つめていると、相手が私の存在に気付いて、視線が合わさった。


 ―――ひょぇ~!


 思わず心の中で叫んでしまったよ。だって目に映った騎士様ってば、めっちゃ美形なんだもん!シャープなフェイスラインに顔の中のパーツがくっきりとしていて「人間ですか?」って突っ込みたくなる美貌の持ち主だった。


 肌も綺麗だし、なにより髪色と同じワインレッド色の大きな瞳が印象的だった。が、完璧な容姿風格にはあっぱれだと言いたいけど…、正直あの流し垂れ目と無駄に着けているキラキラのピアスからして、


 ―――女タラシに違いない。


 いや、違ったら大変罪深い(なにせ相手はあの黒の騎士様だし)けど、なんか騎士様というと、ワイルドなタイプが多いもんね。短髪でイカツイっていうのかな。まぁ、シャークスも稀な貴公子タイプだから一概には言えないけど、この目の前の騎士様は明らかにチャライのだ!


 キラキラさに惚けてしまっていたけど、私は清い兄達の中で育ったウブな女のコだ。タラシさんは苦手人物の一人だしな。私は急に気まずい気持ちが生じて、目の前の騎士様から視線を逸らそうとした……その時だった。


「いつまでジロジロと見てんだ、キショイんだよ!」


 ―――はぃ?


 今の声はどちら様で?私の見間違いではなければ……目の前のタラシ騎士様が口を開いたような気がしたんですが?


「これだから低俗な女は!虫唾が走る、早く目の前から消えろ!」


 さらに騎士様は罵声を上げた……間違いなく私に向かって。その瞬間、私はプッツーンときた!なんで初対面なのに、しかも女のコに向かって、なんて口の聞き方してんだ!このタラシ騎士め!相手が上位の騎士様だという事を一瞬にして忘れた私は噴火し、タラシ騎士へと突進しようとした時だった。


「ザクロ、初対面の女のコに対して失礼だぞ?」


 私がタラシ騎士に食ってかかろうとする前に、めちゃめちゃ低くワイルドな声が耳に入った。その声にタラシ騎士は背後へと振り返った。私も思わずヤツの後ろへと目を向けると?


 ―――わぉ!


 黒の短髪でガタイも良く、一見クールそうで硬派なこれまた美形騎士様が立っていた。彼もまた黒の騎士様のようだ。


「クローバー、オマエいたのか?」

「今のは暴言だったぞ。そのコ、まだ女のコだ」


 硬派な騎士様の淡々とした指摘は重みがある。


「ソイツが無駄にオレを見てオゾマシイ気持ちにさせるからだ。オレは触れられるのはおろか目が合うだけでも蕁麻疹じんましんが出るほど、女が大っ嫌いなんだ。オマエならわかってるだろ?」


 はぁぁあああ?確かに少しばかり見ていたのは認めるけど、そこまで暴言を吐かれるほど見てないっての、これだから顔のイイヤツは!しかも女嫌いというか完全な潔癖じゃん!私はしぼんでいた怒りがまた沸騰してきた。


「オマエなー、いくら姉が7人いるからって、その根っからの女嫌い直せ」


 うぁ、姉が7人か!っていっても私も兄が9人いるけど、男嫌いじゃないし。潔癖騎士は注意をされて、ふて腐れたのか煩わしそうに目を細めて、そっぽを向いていた。その様子に硬派な騎士様は呆れた表情をして溜め息を吐く。


 はぁ~わかるな、その気持ち。この潔癖騎士、手の施しようがなさそうですもんね。さらさら私に謝る様子のない潔癖騎士に見兼ねた硬派な騎士様は私の前へとやって来た。私は変に緊張をして彼を見上げる。


 ―――背がめっちゃ高い!ガタイもいいし、威圧感に緊張しちゃうよ。


「彼の代わりに謝っておく。済まなかった」

「い、いえ」


 硬派な騎士様は見た目に似合わず、私に恐れ多くも頭を下げて来てくれた。ちょっと仲間が自分の代わりに頭を下げているのに、潔癖騎士はなにも言わずかよ!キッと睨みたい気持ちを抑え、私は目の前の硬派な騎士様に応える。


「いえ、そんな頭を上げて下さい!貴方が悪いわけではないので」


 チラッとわざと潔癖騎士を見て言った。


「いや、しかし傷ついたのは確かだろう?」

「それは…」


 確かにね、少しは…。「キショイ」に「虫唾が走る」に「消えろ」とまで言われたもんね。私がちょっと言葉に詰まっていると、


「それならその傷をオレの中で癒してやろう」


 そう言った硬派な騎士様はニヤリと怪しい表情をして、私を自分の方へと引き寄せてきた。

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