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第十六話「大司教と大司祭」

「シャークス、これからどうするの?」


 大司祭のパナシェさんが去った後、私はシャークスに問いた。すると、彼はニコリとして答える。


「少し館内を回ろうか?」

「わかった」


 やっぱそうですか!いつも通り館内を見て回って、はい終わりのお決まりコース。私はシャークスの後に続いた。


 主祭壇の周りには信仰者の方が祈りを捧げていて静粛な空気が流れているけど、それ以外の周りは観光客が興味深げに回っていた。首都のシンボルの大聖堂なだけあって、他国からも一目見ようと多くの人が訪れるのだ。


 私とシャークスは観光客に混じりながら、館内を回っていた。しっかし、本当におったまげな装飾の数々!ステンドグラスも天井画も壁画もローゼンカバリア女神と彼女を守る天使達が描かれ、油絵は彼女達の歴史が物語られていた。


 彫刻品はリアルな女神や天使達の像で、キラキラの宝石が埋め込まれていた。床は大理石だし、気を付けないと、すっ転びそうだよ。恐々こわごわと歩く私とは違って、軽やかな足取りで歩くシャークスは……周りからの視線を集めていた。


「うっわぁ~、黒の騎士様よね!超カッコ良くない?」

「大司祭様も素敵だったけど、また違うあんな美形に会えるなんて~❤」


 と、女性陣から黄色い声を上げられていた。


「後ろの平凡な女はなにもん?」

「ただのストーカーじゃない?」


 はぁああ!?な・ん・で、私がヤツのストーカー呼ばわりされなきゃアカンのよ!超最悪!せっかくの由緒ある大聖堂なのに、イメージが落ちるんですけどぉ!私が憤りを感じていると、いきなりスッと左手に温もりを感じて?


 ―――はい?


 気が付いた時にはシャークスが私の左手を手に取って、そのまま手を繋いでいた。彼は嬉しそうに微笑んで私を見ている。


 ―――なに勝手に繋いどるんじゃ!


 でも不覚にも、その手が温かくて心地良く思えてしまっていた。手を繋いだまま歩いていると、


「今日は大司教様を見る事が出来て、遠方から来た甲斐があったな」

「そうね。やっぱり噂は本当みたいよ。さっき司祭様と信仰者の方々の話を聞いたんだけど、ずっと不治の病で寝たきりの方が大司教様のおっしゃる通り、女神様へお祈りを続けたら、病が治ったんですって。それに貧困に悩む農夫が大司教様に相談して、助言通りの行いをしたら、畑に豊富な食物が育つようになったって言うのよ。他にも数えきれない奇跡が起こっているみたい」

「やっぱり、女神様の使いの方達だけあるな」

「大司教様を崇められるだけでも、女神様のご加護が受けられるわ」


 ―――ひょぇ、凄い!まさに神業じゃない?


 観光客の中に、ヤケに興奮しながら話をする男女の声を耳にして、思わず私は大きく反応をしてしまった。実はこの手の話しはこれが初めて聞くわけではない。大聖堂に来てからもチラホラ耳にしていたし、他の礼拝堂や修道院を訪れた時にも聞いていた。


 噂に過ぎないと思って、あまり本気に受け入れてはなかったんだけど、改めて耳にすると、信憑性を感じてきた。そんな人の手を超えた力って本当にあるのかな?って、まだ半信半疑の自分がいた。


 一通り館内を見終えてた後、シャークスは出口の扉へと向かい、そのまま外へ出てしまい、おのずと私も彼に続いた。やっぱグルリと回って終了だったな。今日の収穫は大司教様と美形の大司祭様に会えた事かな?そう言えば…。私はここに来る前のシャークスが言っていた言葉を思い出して声をかけた。


「シャークス、目的の人には会ってなくない?会いたい人がいるって言ってたじゃん?」

「心配しなくても会えたよ」


 真顔で答えたシャークスは繋いでいた手を放した。


「え?そうだっけ?」


 私はキョトンして首を傾げる。大聖堂の出入り口の扉から数メートル離れた場所で、シャークスは私の方へと振り返って答えた。


 ―――誰だったんだろう?


 私が考えていると、


「スターリー、今まで礼拝堂や修道院を回って得られた情報はなんだい?」


 いきなり問われて面食らった。


「え?得られた情報って言われても、お祈りの場を見て回っただけじゃん?」

「じゃぁ、なにも気付いた点はなかった?」

「それは…」


 目を細めて真剣な表情をするシャークスを見ると、なにか気付いた点を言わないと気まずいような?……そう言えば?


「みんな大司教様を大絶賛されていたよね。祈りが効いたって。女神様の力を下さったって感謝しまくってたよね。女神様の力と言いつつも、まる大司教様を崇めているような感じだったかな」

「そう、よく大司教様が崇高な方だと耳にしたね」


 私の答えに満足したようにシャークスが笑みを見せた。私にはその笑みの意味がわからずポカンとなる。


「それがどうかしたの?」

「スターリー、この大木の上に目を向けてごらん?なにが見える?」

「え?」

「いいからすぐに見てみて」


 もう!さっきから訳がわからない!と、心の中で文句を垂らしながらも言われた通りに、顔を上へと向けた。


「あれは?」


 大聖堂の上部にある窓から一つの人影が見えた。その人物とは…?


「!?」


 確か……さっきお会いした大司祭のパナシェさん?でもさっきとは違って、殺気立てたような冷然とした表情をされていて、私は思わず背筋が凍りつき、大きく身震いをしてしまった。


「パナシェ…さ……ん?」


 私は震えた声で名を呼んでいた。彼は私と目を合わせると、すぐに姿を消して去った。そして私の言葉にシャークスは無表情で、こう言葉を落としたのだ。


「今のはきっと大きな手がかりになるだろう」


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