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俺の生き方 ―学園編―  作者: 冬野灯
学園―玉響―
6/29

授業開始

 始業の鐘が鳴る。1限目は歴史。


 清楚なお姉さんが教卓に立っていた。


「教科書12ページを開けろおおお!!」

一斉に紙をめくる。少しの遅れも許されない。

「そこのお前! 教科書はどうした!」

「ひっ忘れました」

「今すぐ取りに行って来い! 走れ!」

ああかわいそう、いや自業自得だな。


「クズリ・ルート、読め」

「はい。この国の」

「立たんかい!」

「ははいっ、 こっこの国の誕生は、約500年前です」

「声が小さい!」

「はい! この国の誕生は! 約500年前です!!」


 なんて残念なんだ。綺麗なのに。清楚なのに。その服装は一体何を目的としたカムフラージュですか。


「次、ラズ・シェリー。8行目から」

「はい。私たちの住む世界はクリアと呼ばれ! 2つの大陸があります! 西大陸と東大陸があり! 私たちの国、エノンタール王国は東大陸に建国されました!」

「良い声だ」

この授業が終わったら誰かの喉がお亡くなりになっているかもしれない。

「エノンタール王国は海に面した国であり! 貿易港が栄えています! 

 ノルジック王国は雪国であり! 魔石加工技術が発展しています!

 フレーバル王国は! 自然豊かな土地を生かして農業が発展しています!」

「よろしい」

どうしよう。内容が全く頭に入ってこない。

「フォリア・ニース、13ページだ」

「エノンタール王国とノルジック」

「おい」


 もう怖くて顔を上げられない。

「エノンタール王国と! ノルジック王国は! 1096年に! 後に10年戦争と呼ばれる戦争を勃発し! っごほ、1106年に休戦協定を結びました!」

フォリアもプライドを捨て去ったようだ。昨日はあんなにクールな感じだったのに。

「それ以降の東大陸は! 長きに渡り平和を維持しています!」

「よろしい」


 ドアの開く音がして、さっき教室を出て行った男子生徒が戻ってきた。えらく息が乱れている。


「なんだ、教科書を借りたのか。その友人に感謝して、席に着け」

「っ……はい……はぁ」

「アリミヤ・シュウ、7行目から」

うわぁ……

「西大陸は!!」

「へっっぶし!!」

ライトがくしゃみしやがった! くすっと耐えきれなかった笑い声が聞こえる。


「にっ西大陸は、ルードリア帝国があり! 砂漠地帯でありながら! オアシスリゾートとしての観光業が盛んです!」

「よろしい」

あぁ、1行で済んだ……。


「このクラス内に、ルードリア帝国へ行ったことのあるものはいるか」

先生は腹から声を出してるから、張り上げなくても充分声は大きい。

「いないのか」

いたとしても手挙げないだろ。怖いから。


「ルードリア帝国は、確かに観光地としては楽しめる場所だ。しかし同時に気を付けなければならないことがある。フォリア・ニース。手を挙げてはいなかったが、君は貴族だ。何度か行ったことがあるんじゃないか?」

「……はい。あります」

「君はそこで奴隷を見たか」

「はい、見ました」

奴隷……? ふうん。オアシスリゾートなんて呼ばれてるのに、その裏で奴隷市場か。


「奴隷にされたものは当然ながら、人としての扱いは受けられない。その奴隷たちはおそらく、東大陸から西大陸へ連れ去られた者たちだろう。

 お前たちに出来ることは、自己防衛を徹底することだ。いいか、船や馬車に乗せられそうになったら、大声で叫べ。この授業で出した声よりももっと大きな声だ。魔法でもなんでもぶっ放せ。なんなら学園に向けて攻撃魔法を放ってもいい。幾人かの教師が駆けつけるだろう。学園は、君たち生徒を守る。

 だが安心しろ、魔法を扱える者を捕まえるのは難度が高いのでな、奴隷商人もめったに手を出さない」


 先生は腕時計に目を落とした。全員が先生の話に集中している。

「最後に、ポップノッパは学園の教師、事務員などが定期的に巡回しているが、それでも気を付けるに越したことはない。ポップノッパを出る際は、必ず4人以上で行動することだ」


 静かな教室に鐘の音が響いた。

「今日は以上だ」

 先生は軽快な動作で教室を出ていった。


す……すげぇ……あの先生かっこいい。

「かっけえ……」

 横でライトが口にしたのを皮切りに、教室が一気にざわついた。皆口々に恐かったやら、格好いいやら、綺麗やら疲れたやら話している。


 俺はあの先生気に入った。


「なぁライト、すごくね? あの先生。最初ビビったけどさ」

「おお、……んん゛、学園は、君たち生徒を守る」

「いや似てない。びっくりするほど低クオリティ」

「学園は……君たち生徒を守る」

「もういいよ。似てないつってんだろめんどくせーな」

「シュウってたまに辛辣だよな」

「そうか? 本音を言ってるだけだ」

「……辛辣だ」



 2限目は魔方陣学だった。


 腰の曲がったおじいちゃん先生が、杖を左手に教室へ入ってくる。思わず手を差し伸べたくなる光景だ。白髪も白髭も長く、腰辺りまである。紺のローブをまとっていて、懐から小さなケースを取り出すと中からMyチョークを手に取った。


「ぅおっほん、えー、えー……2ページを開きなさい」

駄目だこの授業。絶対に寝る自信がある。


 血管の浮き出た手でチョークを握り円を描いているが、歪だ。なぜなら、おじいちゃん先生は黒板を見ていないから。隣でライトが「ブホッ」と吹きだしている。


 おじいちゃん先生はおそらく60度くらい腰が曲がっているので、上を見上げることが出来ない。だが器用なことに右手だけ上に挙げて陣を描いていた。おそらく教師歴50年以上のベテランだ。陣など頭の中に入っているのだろう。しかし、そんな歪な陣は2ページの何処にも載っていなかった。


 ライトの笑い上戸が伝染し、誰かが吹きだしたり、どうにかして抑え込もうとした笑い声が漏れている。前に座っているシェリーという女の子も顔を覆って肩を震わせている。俺も笑いそうだけど。俺も笑いそうだけどやめてあげて。おじいちゃん先生の耳が遠いことを祈ろう。


 おじいちゃん先生は動かしていた手を止め、チョークを置いた。どうやら書き終えたみたいだ。休憩するように手で腰をさすると、頑張って黒板を見上げる。頑張れ……!

「うむ……」

おじいちゃん先生は俺たちの方を見た。そして教科書を開きながら説明し始める。

「えー……2ページを開きなさい」

はい、開いてます。

「図の3を見なさい。えー……まず陣の基本となるのは、えー……」

 おじいちゃん先生は最後まで自分が描いた陣を使わずに授業を終えた。



 ライトは昼飯を食いながらずっとゲラゲラ笑っている。

 今は昼の休憩時間で俺たちは食堂にいた。

 4人掛けのテーブルに俺とライト、金髪女子リニア・ベルと黒髪女子ラズ・シェリーが座っている。


「あんた笑い過ぎなのよ。ほんとやめてくれない? あたし必死だったんだから、こらえるの」

シェリーが呆れたように笑いながらライトに言うが、ライトの笑いは止まらない。

「ふは、はははははは! あっははははははひー」

笑い袋か。

ライトのせいで俺もつられて笑ってしまい、全く食事が進まない。


「もーライトいい加減にしろよ」

「あんただって笑ってたでしょう」

「そんなに笑ってねーよ」

「いえ、けっこう笑ってたわよ。あたし耳がいいもの」

得意げに三角のような丸っこいような耳を動かす。

「シェリーだって肩震えてただろ」

「あたしは声は漏らしてないわ」

「声の問題じゃねぇよ! 教壇の上からこっち見たら丸わかりだぞ、顔覆ってんだから」

「大丈夫よばれてないわ」

「何その自信。ああ、お前ばれてても気にしないだけだろ」

「そうとも言うわね」


 ベルも俺たちの会話を笑いながら聞いている。

 あまり喋らないが、人見知りらしい。


「おい、ライト、いい加減食べろって。つぎ魔法演習だろ」

「……後20分あるから、大丈夫じゃないですか?」

お、喋ってくれた。

「そうね。でも遅刻するなら置いていくわよ」

 ライトはその言葉に急かされフォークを掴んだ。それでも笑いは止まらないようで、だらしなく口を緩めながら麺を啜ススるが、途中で笑いに負けて吐きだしてしまった。

「っははは! きったねぇよ」

俺がライトの背中をどんと叩くと、気管に入ったのか物凄く咽た。

「っははははは」

だめだ、俺まで笑い上戸が感染してきている。

「だっ大丈夫ですか!?」

 ベルはライトに水を渡して心配そうにしている。いい子だ。


 シェリーは呆れたと言わんばかりの表情で、自分の空になった食器を重ね始めた。

「後10分で食べきらなかったら先に行くわよ」

「んぐっ」

 ライトが食べ物を飲み込んだ。そうだ、その調子だ。

 俺もライトが笑っていないうちにと、猛スピードで胃にかき込んだ。



 なんとか鐘がなる前に4人とも体育館に着いた。

 真ん中あたりで俺たちの担任、ヴォルク・カイ先生が待っている。

「うおーい急げ―」

先生が俺たちの後ろに向けて声を放つ。振り返ると何人かが走ってきていた。


 授業開始の鐘が鳴る。

「集合! 適当に座れ」

全員ヴォルク先生の前辺りに集まって座る。


「この授業では魔法を習得してもらう。今日はお前らの実力を測るから、一人ずつ前に出てこい」


 一人の男子生徒が先生に呼ばれ俺たちの前に出る。


「いいか、お前らが自分で一番得意だと思う魔法を俺にぶつけろ」


 先生はいつでも来いというように構えた。男子生徒はそれを見止め、手を空にかざすと呟く。


電球サンダーボール

雷の弾がバチバチと激しく唸ウナりながら先生へ迫る。しかし先生は手を払っただけでそれを消した。

「もっと全力で来い。俺を舐めるな」

男子生徒は表情を引き締め、叫んだ。


雷球サンダーボール!」

さっきより2回りも大きな弾を創り出し飛ばすが、その弾は先生のもとへたどり着く前にかき消えた。おそらく防御魔法を使ったんだろう。

「それがお前の本気だな?」

「はい」

「よし、戻れ」

先生は足元に置いていたクリップボードに何事かを書き込む。

「次!」


 あれから何人も魔法を放ったが、全員初級魔法を放っているようだ。俺はリリアたちに魔法を習ったとはいえ、この学園の生徒の実力を知らなかったので人知れず安心していた。少なくとも、俺が魔法の授業についていけないという事態にはならないだろう。


 ……だけど、調整は必要だ。皆が初級魔法を放っているのなら、俺も初級魔法にしておくほうがいい。下手に注目されたら厄介だしフロウさんにも気をつけろと言われたし。

「ベル、次よ」

「お! 次か。頑張れよ」

 ライトがベルを励ます。ベルの表情は真剣そのもので、力みすぎなのか体が縮こまっている。ベルは緊張しやすい性格のようだ。

「はっはい、頑張ります!」

「そんな緊張しなくていいと思うよ。失敗してもいいんだから。いてらー」

「あ……はい。ありがとうございます」

ベルは少し肩の力を抜いて、前へ走って行った。


「うおし、こい」

「い、行きます! 貫け!」

ベルの光魔法は一直線に先生へ向かうが、これも例外なく防御魔法でかき消された。

「戻っていいぞー次!」

「あんた、呼ばれてるわよ」

「え、俺? あ! 俺か!!」


 俺は慌てて前に出る。ベルが不安そうな顔をしていたので、すれ違いざまに上手く出来てたから心配すんなと言っておいた。

「いいすか?」

「おう」


黒い弾丸(ブラックブレッド)

俺は密度を低めにして飛ばす。あっけなく防がれた。


 俺の後も順調に進み、シェリーは鎌鼬カマイタチと叫んで三日月形の闇魔法を放ち、ライトは雷の槍を3本飛ばした。


 後10人ほど残っているが俺はもう待つのに飽きて仕方なくなってしまい、顔を体育座りした膝の上にのっけて、程良い雑音に誘われるようにやってきた眠気を受け入れた。頭をはたかれて目を覚ます。

「シェリー……痛い……」

「起こしてあげたの。感謝しなさい?」

悪戯に笑って、前を見る。


 良く見飽きないな。つか、絶対にワザと起こしただけだろ。

 俺も仕方なく前を見ると、フォリアの取り巻きの男子生徒が前に出ていた。なんか鼻息が荒い。気持ち悪いな。


「切り裂け!!」

直後、歪な風が不安定に空を進んだ。しかしその先は。


 俺は咄嗟にジャンプして皆の頭上を飛び越える。前列の前に着地し暴発した魔法と同じ密度の闇魔法をぶつけて相殺させる。

――範囲が広い! 

焦燥に駆られ右に目をやると、俺が止められなかった風魔法は先生が止めていた。しかし先生は目を見開いて俺の手元を凝視している。ああしまった。これは何か勘付かれたに違いない。まずったな。


 俺は何も言わずに、言われないうちに、ライトたちの座っている所へ歩いていく。皆は今何が起こったのか理解しきれていない顔で先生を見たり俺を見たりしている。


「アドルフ・リーベ!!」


 先生の怒声が響き渡り、俺は思わず足を止めて振り返った。


「俺は一番得意な魔法を放てと言ったはずだ。だが、今のはなんだ!! 練習もろくにしていないような魔法を使うな!! 魔法舐めてんじゃねぇぞ!」

「……すっす、すいませんでした」

男子生徒は弱弱しく震えた声で謝罪した。あれは相当びびってるな。

「お前の安易な選択で怪我人が出るところだった。今後このような事のないように、しっかり鍛えろ」

 先生は男子生徒の頭に手を置く。男子生徒は大きく肩を揺らした。

「魔法を習得するには失敗はつきものだ。暴発したが、途中までは制御できていた。もう少し練習すれば完成させられるだろう。だたお前はコントロールが甘いから、練習するならどこに向かって飛んで行ってもいいような、人のいない場所を選べ」

先生は静かに言って、男子生徒の頭をくしゃりと撫でる。

「戻っていいぞ」

「……はい」

男子生徒はいくらか落ち着きを取り戻せたようだ。


 俺も元の位置に戻ると、俺が魔法を止めた方法についてライトやシェリーに問い詰められた。しかし案の定俺が噛みまくってライトが爆笑し、うやむやになった。ベルは少し納得いかなそうにしていたが。


 先生が何度も俺を見てくるので、必死に眼が合わないように逸らしまくった。 その後は何事もなく無事に終了し、俺は先生に掴まりたくなかったので用事があるからと言って超スピードで体育館を出る。用事があるのは本当だ。

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