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俺の生き方 ―学園編―  作者: 冬野灯
学園―玉響―
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ポップノッパ

 ライトとエントランスで落ち合い、正門まで長いとか遠いとか長いとか遠いとかぐだぐだ言いながらも到着し、坂を全力疾走で駆けおりる。


 白っぽいアーチをくぐるとそこは、学生の街、ポップノッパ。


 俺の眼に多彩な色が飛び込んでくる。いくつもの個性的な店が所狭しと並び建ち、服屋、帽子屋、文房具屋、薬屋、本屋、雑貨屋、魔法道具屋、料理屋、肉に野菜に魚屋……挙げていくと切りがない。

 石畳はところどころ色の違う石がはめ込まれていて、緑、ピンク、水色、紫、青……等々数えきれない。

 魔石灯もそれぞれ違う色が塗られていて、歩くのが楽しくなるような道だ。


 そしてずっと向こうに大きな噴水、そして、巨大な壁と、城。

 あの壁まで歩いたら、いや、たとえ走ったとしても何時間かかかりそうだ。

 城はここから見る限りでは白い外壁に空色の屋根、3つの塔と見張り台のようなものが1つある。


 俺が目の前の景色に釘付けになっていると、肩を叩かれた。びっくりして隣を見るとライトが立っていた。……そうだった、ライトがいたんだった。


「分かるぜ? その気持ち。おれも昨日はそんなだった。でもよ、早く飯食わねーとおれは、おれはっ、」

ぐるるっぽぐうぅぅとライトのお腹から凄まじい音が鳴り、頼りない足取りで勝手に店に入っていった。料理屋だ。俺も店に入ると香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。 ライトは窓際の席に座ってすでに注文している。

「なんでもいいから早く持ってきて」

「なんて無茶な注文だ」

ウエイトレスさんが困っている。

「野菜炒め、大盛りで2つ先に持ってきて。それと、レピとチーリンの炙り焼き。コルド飯。お前は?」

「おれもそれで」

ライトはテーブルに突っ伏した。


 5分ほど待つと、先に野菜炒めだけがやってきた。

「うまーうまーほはへほっほはんっまうぉ」

「うまい以外解読不能だ」

「ふふん」

 随分機嫌が良さそうだ。

 俺は窓の外の店をじっくり見渡す。この通りだけでも気になる店がありすぎた。どの店から入るかを考えるだけでも楽しい。ポップノッパは広そうなので1日では当然見切れないだろう。気になって仕方ないが、1日で全部見てしまえるのも、それはそれでつまらない。

「おれペン買う」

「あ? ああ、じゃあ文房具屋だな」

「部屋にソファー欲しい」

「インテリアだな」

「猫欲しい」

「そうだな」

「お前猫好き?」

「……可愛いとは思う。けど、動物全般苦手だから」

「ネズミは?」

「……種類によるかな。ハムスターはかわいいと思う」

「? ハムスターって何? どんなやつ?」


 残りの料理が運ばれてきた。ライトは料理に食いついて、今の話は頭からすっ飛んだようだ。それでいい。どうやらこの世界にはハムスターという名前の生物は存在しないらしいから。この料理だって、チーリンはぷりぷりしてて海老みたいなのに、見た目は全く違う。魚だ。この世界にエビに似た生物は存在しない。


 俺はチーリンを突き刺して口に運んだ。次にコルド飯を頬張りながら考える。

 ……あまり、動物の話題は出さない方がいい。

 ふっと、レイの嬉しそうな顔が脳裏をかすめた。レイは俺の世界の話を毎日しつこくせがんできていた。俺が飛行機の話をした日には泡を吹いて倒れてしまった。……ライトは、俺が異世界から来たと知ったら、どう思うんだろうか。


「シュウ?」

ライトに呼び掛けられ、顔を上げる。

「わ、わりぃ、聞いてなかった」

「いや? 何も言ってねぇよ。大丈夫か」

「うん、大丈夫」

俺は笑ってみせる。


――シュウ、大丈夫かって聞かれて大丈夫なんて言ったら、何かあること間違いなしじゃん。

「そっか。大丈夫ならいいけど。じゃ、食べ終わったことだし店回るかー」

――……でも、今日会ったばっかのおれには、話せないのかな。


 ライトはぐぐっと伸びをしてから飯代をテーブルに置いた。

 俺もそれに倣って金を置く。



 俺たちはまず、インテリア雑貨の店に突撃した。

「おいシュウ、買い漁るぞ、まとめ買いだ!」

「家具をまとめ買い? そんなに金あんのか?」

「おいシュウ、思ったより高いぞ、撤退だ」

「そうだろうな」

俺たちは30秒で店を出た。2人で顔を見合わせる。

「ソファーが80万アルした……」

ライトが信じられないという顔で俺を見つめる。


 アルはこの世界――クリア――の通貨だ。


「うん。ここブランド店だから」

「な、お前知ってたのか! 先に言えコノヤロ」

「ライトが先に行くからだろー」

俺は悪くないと主張する。

「よし、次はお前の助言もちゃんと聞くから、行くぞ!」

「へーい」


 俺たちはいろんな店に目移りしながらも、まずはインテリアだと店を探す。

「シュウ! この指輪かっけーぞ、あ、腕輪もいい! 早く来いよ!」

インテリアを探してたのは俺だけか!

「確かに。お、財布も売ってる、なぁ……あれ?」

「シュウ! すげーぞ!」

「そっちかい!」

「あ、こっちも! 靴だ!」

「はしゃぎ過ぎだ!」


 なんとかライルの首を掴み、言い聞かせる。

「いいか、すこし落ち着け。てめーは犬か。何処にでもマーキングしてんじゃねーよ」

「すみません」

「ベタベタ指紋つけやがって、お前はそれを買い取るのか、どうなんだ」

「買いません。ごめんなさい」

「むやみに触んな。お前はいつか落として壊す」

「はい、触りません。気を付けます」

「行ってよし」

「はい」

それからはちょっと大人しくなった。


 2件目のインテリア雑貨店に入ったが好みの物は無かったらしく、俺たちは気づけば噴水のある広場まで来ていた。


「でけーなー」

「夏になったら涼しいかな」

ライトが噴水の水に触りながら言う。

「お前が噴水に飛び込んだら、ちょっと考え直すから」

「何を?」

「友達でいていいのかどうか」

「絶対飛び込まない」

ライトは水から手を抜いた。

「そう。これ下のキラキラしたやつ何?」

「魔石じゃね? ほら、魔石灯とかに使われてるやつ。夜になったら光るから綺麗だろ―な」

「ほーう。魔石って燃料だろ? 貴重じゃねーの?」

「何言ってんだよ、今更過ぎるぜ。魔石なんか有り余ってんだろ」

ライトが不思議なものを見る様に俺を覗き込む。

「お、おおおう、そうじゃったそうじゃった」

「っははは! そうじゃったってなんだよっははは」


 こいつが笑い上戸でよかった。俺が焦って噛みまくっても笑って済ませてくれる。あまり深く突っ込んでこない。


 3件目のインテリア専門店で、こいつはやっとソファーを決めた。黒いソファーだ。それと黒いテーブルに灰色のカーペット。


 俺は学園に来る前にドズとリリアと一緒に出掛け、家具は一通り揃えている。 ライト御所望のペンも買ってあるし、夕飯も食ったし、あとは帰って部屋を整理するだけだ。



 街を満喫した俺たちは白いアーチをくぐり寮へ歩いていた。


 夕日が世界を赤く照らし、黒い影を伸ばす。直に夜だ。


「俺の隣の部屋、フォリアなんだよね」

「まじかよ。教室で偉そうにしてた奴? ま、あいつに限らず貴族は皆偉そうに見えるけどさ」

「それがさ、普通に挨拶返されて。そんなに悪くない奴かもって思って」

「なに? お前、普通に挨拶するとか当たり前のことじゃん。それすらもできない奴なんて今まで何の苦労もしてこなかった……頭……空っぽの奴」


 ライトの声が急に不安げに揺れた。何事かと隣を見ると、態となのか無意識なのか顔を背けていて表情が見えない。なんだ、急に。どうしたんだ?……頭……空っぽ? 

「頭空っぽが何なんだ?」

「! そっその、ちが!……」

ライトは慌てて振り返り、目をせわしなく動かしながら口をパクパクさせている。何か言いたいようだが出てこないらしい。 

「そのっ、なんでもなくてっ!」

ライトの目に恐怖の色が宿り、顔がひきつっていく。言葉を紡ごうとした唇が震え、その震えを隠すように口を閉じてしまった。……何か怖いのか。

……俺は地雷を踏んだかもしれない。  


 どういうことだ……頭空っぽという言葉で、何故か怖がり出した。ちが……って、ちがうと言おうとしたのか? 空っぽという言葉を咄嗟に否定。……うん? 空っぽと思われたくないのか? ……どういう事かは分からんが、……たぶん、空っぽと思われたくないのかも。


「空っぽ……空っぽなぁ」

 ライトは俺の言葉にびくつき両手を強く握った。そのライトの怯えようを見て思った。

「……空っぽとは思えないけど」

「……え?」

「だってお前今、すげぇ怖がってる。何を怖がってんのかしらねーけど、お前にも何かがあるってことじゃね? 隠したい何か。知られたら怖い何か。だから、空っぽじゃねーよ」


 ライトは目を見開いて、口をだらしなく開けたまま立ち止まっている。

 俺はライトを観察してみる。今日会ったばかりだが、俺に言えることはないだろうか。ライトが何に恐怖しているのかはわからない。それでも……どんな言葉を掛けたなら、こいつは安心できるんだろうか。


 俺の顔を凝視したまま動かないので、ライトの目の前で手を左右に振る。と、瞬き1つして帰ってきた。

「お、おれ……空っぽじゃ、ない……?」

呟いくような声は震えている。答えた方がいい、か。

「ああ、ライトは空っぽじゃない。今日会ったばっかの俺が言うのもなんだけど、俺にはそう見える」

こんな言葉でいいのかな。……だけどこれが、俺の思った事なんだ。


 ライトの目は変わらず不安げに揺れていて、その視線は足元へ下がってしまった。

 俺の言葉はもしかしてこいつを傷付けていないだろうか。俺も不安になり緊張しながらライトを待つ。

 少しばかりそのままだったライトは、顔を上げると俺の目を見て、

「シュウ……ありがとう」

少しはにかむ様に笑った。俺も安心して笑い返す。

「ん。なんでも話せよ?」

「おう」


――何でも話せなんて、俺が言えたことじゃない

 俺は罪悪感と、友達と少し打ち解けることができた充足感とが入り混じった変な気分にとらわれながら部屋に戻った。

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