入学式当日2
準備室というプレートが貼ってある教室に入る。
「アリミヤ・シュウだな」
「はい」
「まずは属性を計る。この水晶に魔力を流せ」
属性はもう決めてある。水晶に手を乗せ魔力を流すと、水晶の色が黒と赤に染まった。
「ほう、闇と火か。2属性持ちっと。次は魔力量だ。こいつの手を握れ」
先生はプリントにメモして、カー○ルおじさんみたいな、にこやかの笑顔の石像を指さした。腹も手も顔もむちむちに太っていてなんだか愛嬌がある。
握手するように手を握ると、身体からぐっと魔力が引き抜かれる感覚がした。
――やばいっ!!――俺はなんとか魔力を制御する。しかしカー○ルおじさんの眼はギラギラと輝いていてまるで獲物を捕らえた変態みたいだった。さっきまでの愛嬌はどこへ。捕って食われそうで怖い。早く手離したい。
まだか、と先生を見ると目を見開いて固まっていた。
――なんだ!? 俺なんかまずったか!?
一気に冷や汗が流れ出す。喉がカラカラに干上がり上手く唾を飲み込めない。
「この像って、目光るんだ」
「そっちかよ!!」
思わず叫んではっとする。魔力量はどうなった?
「うお、大声出すなよ。つか声擦れてんな。風邪か? 早めに薬飲んどけよ。……えーと? 魔力量は6000と。将来有望だな」
……しまった。制御が遅かった。
おじさんの腹にはでかでかと6000という数字が輝いていた。
教室へ戻り、ライトと雑談しながら先生が戻って来るのを待つ。
先生が最後の生徒と一緒に戻ってきて、席を立って話していた奴も全員着席した。
「うおーし、後は自己紹介だけだ。一番左から立って名乗っていけ。属性と魔力量、趣味も忘れんな」
趣味までいうのか。
「クズリ・ルートです。属性は……」
左から順に自己紹介していき、俺の前の子が立った。次だ。
「リニア・ベルです。属性は光と風で、魔力量は3500です。趣味は、読書です」
俺だ。
「アリミヤ・シュウです。属性は闇と火、魔力量6000、趣味は……趣味というか、走ったりするのは好きです。よろしく」
隣のライトが小声で呼んでくる。
「おい、さっき4000って言ってただろ。増えたのか?」
「あ、ああ、なんあ、なんか知らないうちに増えてた」
俺は動揺すると噛んでしまう。ついでに目も泳ぎまくる。これはもう治らないんじゃないかと諦め気味だ。
「ラズ・シェリー。闇、4000。散歩が趣味よ」
「おっと。おれか。サイガ・ライトです。属性は雷! 魔力量は5000。皆よろしくな!」
「おい、趣味忘れてんぞ」
先生がつっこむ。
「あ、趣味は……えーと、なんだ。遊ぶことかな!」
「それ答えになってねぇよ。まあいい。次!」
順々に紹介していき、ついに○ふぉいの番になった。
「フォリア・ニース。氷。7000だ」
「趣味も言えよ?」
「……旅行だ」
「よし、次」
○ふぉいは7000か。さすが貴族だけあって多いな。氷属性はフォリア家だけに伝わる属性らしい。リリアが言ってた。
「うおし! 今日のホームルームはこれで終わり! 全員帰っていいぞー」
教室内が喧騒に包まれ、がたがたと机や椅子の音が鳴る。ライトも鞄を持って帰る準備だ。
「明日遅刻すんなー」
先生はドアを開けて真っ先に帰った。
「シュウ! 一緒に寮まで行こうぜ」
「おう。そういえば、寮の部屋ってどうやったらわかるんだ?」
「ん? さぁ……行けばわかるんじゃね?」
ライトははやくはやくと俺を急かす。そんなに急いがなくてもいいだろうに。
俺たちは校舎を出て時計台の前を通り過ぎ、道なりに進んでいた。
寮はもう目に入っているのに歩くと遠い。後どれくらいだろうか。
俺たちの他にも寮へ向かっている人はたくさんいるが、道幅が広いので混雑しているという感じはない。
「っはー……あぁー」
ライトが隣で大きな欠伸をした。
春の陽光が温い。欠伸が出るのも頷ける。
石畳の道幅は10メートルくらいあって、道の左右に丸石が延々と並べられている。そこから先は芝生が続いていて、芝生にはベンチが置いてあったり木や花がぽつぽつと植えられていて、公園みたいだ。夜でも歩けるように、両端に等間隔で魔石灯が設置されている。
魔石灯は電灯みたいなものだ。周囲の暗さを自動で感知して明かりを放つらしい。
俺はなんだか道の端にある丸石を蹴ってみたくなったので蹴ったが、予想通り固定されていて1ミリも動かなかった。
「シュウ、案外子供っぽい事するんだな」
「蹴りたくならね? こういうの」
「わかる。蹴りたい」
ライトもげしげしと蹴っている。
「あれって何階建て?」
「1、2、……」
ライトは目を細め指で1階ずつ差しながら数え始めた。
「たぶん10階建てだな。1階はエントランスだろ」
「ふうん、管理人さんとかいんのかねー。怖い人じゃないといいけど」
寮は学年別に分かれているので、3つ建物が並んでいた。1年の寮は一番左だ。制服と同じように、1年の寮は臙脂エンジ色を基調に、2年は紺色、3年は白色を基調とした外観だ。
「ライトは何階がいい?」
「10階。あ、めんどくさいかな。やっぱ……3階」
「一番下は嫌なんだな」
「だって虫でそうじゃん。下の階って」
「女子か」
「お前虫平気?」
「虫……キモさ具合にもよるけど」
Gは虫じゃない。生きた化石だ。見た瞬間その人を恐怖に陥れ、羽をばたつかせたり卵をチラ見せして冷静な判断力を失わせる、人類最大の敵と言えるだろう。この世界にGがいなくて良かったと、俺は心の底から感謝した。もしマナホールが一匹でもGをこの世に入れたら、この世は未知なる生物の出現によって混乱を極めるだろう。レイにゴ○ジェットの開発を依頼しようか。……考えすぎか。
ライトに話しかけられ、俺は現実へと戻る。
「シュウ、アクセサリーとか好きな人?」
「え、なんで?」
「いや、ピアスしてるから」
ああ、と、俺は何の気なしにピアスを撫でた。そして
――金、か。
刹那、俺の前に黒い空間が出現したが、俺の素早い判断により瞬きよりも早く消え去っていた。
「えっあ、あれ? なんか今黒いのが!! あれ!? なんかなかった!? ここ!」
ライトは混乱気味に俺の目の前の空間を手でぐるぐるかき混ぜるが、何もない。
「んみっみみ、みま見間違いじゃね!?」
「えぇーそうかなー。今確かに黒いのが、えー?」
ライトが眉をひそめて考えている。やめろ、考えるな。お前が見たのは幻覚だ。
「あ、ほら! 着いたぞ! 早く入ろう!」
俺はライトを置き去りにさっさとエントランスへ入る。
「あ、おい待てよ」
エントランスには入学式と同じような列ができていた。3つに分散されているので人の回転は速そうだが。
それぞれの列の先頭では係員っぽい人が、生徒の名前を確認しながらカードキーを手渡している。係員さんの横に大きい板が立てかけられていて、ABクラス、CDクラス、EFクラスと書かれていた。
俺たちはABクラスの列に並べばいいんだろう。
「ん? どうなって」
「こっちだライト」
俺はライトを先導して列に並ぶ。
「ああ、クラス別ってことか」
俺たちは3つあるエレベーターの前でそれぞれの階を確認し合っていた。
「いいじゃんお前10階じゃん! 遊び行っていい?」
「9階もそんな変わんねーだろ、いいけどさ」
俺は10階でライトは9階だった。
「シュウ、昼飯どうする?」
ライトがエレベーターの数字を見ながら言った。今は7階で止まっている。これから1階に下りてくるようだ。
「え? ふつーに……あっそうか! まだ部屋に何もないし、何も作れねぇのか」
「え、お前自炊できんの?」
ライトがぐるんと首を回してこちらを見た。やけに真剣な表情に押されそうになるも、俺ははっきりと言い切った。
「何期待してるのか知らんが、俺は上手くないぞ。レパートリーもない。普段は食堂で食べるつもりだから」
「ちぇーなーんだ。食費浮くかと思ったのに」
「やっぱそれが狙いか」
「はは、まーいいじゃん。で? お前はどうすんの?」
現在12時半。部屋に転移で届いているだろう荷物を整理していたら、昼飯ではなく夕飯になってしまう。
「そうだなー、すぐに食べに出かけるけど」
「じゃあさ! 一緒に街行かねぇ!?」
「街? いいけど」
「おれ昨日エノンに来たばっかだからさ、いろいろ見たいんだよな」
「昨日来たのか」
俺は今日の朝来たけど。
チンと音が鳴り、ドアが開いた箱の中に人がなだれ込む。俺とライトも乗り込んだ。
「あ、着替えてく?」
「おれは着替えるぜ」
ブーと音が鳴り、定員オーバーの合図。何人か降りるとドアが閉まって上り始め、独特の浮遊感に包まれる。
ほとんどの人が8階までに降りていった。
9階につき、ライトも降りる。
「じゃ、すぐ下行って待ってるからな」
「ん、わかった」
俺は一人になったエレベーターの中で一息つく。狭かった。
ドアが開いて俺は廊下に出た。
廊下の壁は落ち着いたサクラゴールドだ。床は臙脂色で、小さめの星や月、天体の模様が散りばめられていた。照明はオレンジっぽい色なので、全体的に温かい雰囲気だ。
俺の部屋番号は1008号。
エレベーターの真正面と右側の空いたスペースにはソファーと机が置かれていて、左は壁だ。なので右に進むと部屋がある。エレベーターの向かい側には1001~1005号室があって、折り返して1006~1009号室がある。
俺が1008号室のドアにカードキーをスライドさせると、隣の1009号室のドアが開いた。出てきたのは、私服に着替えた○ふぉ、いや、フォリアなんとかだ。○ふぉいとはもめたくないので一応挨拶しておく。
「マル……フォリア、隣だな。クラスも一緒だし。よろしく」
「……」
……なんだ? なんで喋らない。……機嫌を損ねるようなことは言ってないはず。あれか? 敬語で話せ、とか平民が気安く口を利くなとか
「君はアリミヤといったね、よろしく」
フォリアは颯爽と歩いてエレベータに乗り込んでいった。俺は普通に挨拶を返されたことに驚いて、立ち尽くす。
――うわ、恥ずかしい――
あいつの凛とした態度を見て、俺は情けないような、自分が恥ずかしくてたまらないような、そんな気分に陥った。
俺は勝手に○ふぉいとか思って、あいつの次の言葉を予想して。でもあいつは普通に挨拶してくれて。……フォリアは、そんなに悪い奴じゃないのかもしれない。それなのに、……色眼鏡で見てたのは、俺の方だったんだ。……最悪だ。俺。
俺は猛烈に反省しながら、そして自分自身に落ち込みながら届いていたバッグの中身を物色する。今日の気温に似合いそうな服を引っ張り出して、着替えながら教室での出来事を思い出していた。
――でもあいつは教室で、道を開けろとか横暴な事言って……あ、違う、あいつが言ったんじゃなくて取り巻が言ったんだ。……でも……、
「あああああ!! わかんねぇ!!」
大声を出すと少し落ち着いた。うん、そうだ。初日でわかるはずがないんだ。あいつがどういうやつなのか、これから少しずつ知っていけばいい。
「よし! ライトとめし!」
俺は切り替えるように顔を両手で2回叩くと、カードキーと財布をポケットに突っこんで部屋を出た。