封鏡図書館Ⅲ
人形たちがくすくすと笑っている。
――こそこそ笑ってんじゃねーぞ。そこの角の二匹、なに耳打ちしてんだコラ。
シュウが本を開けると、独りでに紙がめくれ、あるページで停止した。
――なんだ、この本。
シュウは本に目を落とす。
――機密文書第441~447より抜粋、召喚獣管理についての法律? なんだこれ。
【第四節 召喚魔法陣
第一条 召喚魔法陣の使用を禁ず。
第二条 召喚魔法陣の所有を禁ず。
第三条 召喚魔法陣を記す事を禁ず。
第四条 召喚魔法陣を売買した者は100年以下の懲役に処する。
第五条 召喚魔法陣を介して魔物を召喚した者は100年以下の懲役に処する。】
シュウが目を通した後、本はまた独りでに紙をめくった。
――……次は日記か? なんなんだよ、
シュウは胡坐をかいて頬杖をつき、読み進める。
【なぜこのような強硬手段を国が取ったのか。甚だ疑問ではあるが、各国同じような状況らしい。私とアイリスの契約印も消されてしまった。これでもうあの子には会えない。なんと国の憎らしい事。とても言葉では表すこともできない、身を焦がれるようだ。私はアイリスに暴言など、まして虐待等していないというに、あの騎士団は聞く耳も持たず一方的に私とアイリスの繋がりを断った。召喚獣愛護法とは名ばかりだ。これではまるで、愛護の名のもとにこの世界から召喚獣を全てなくそうとするかのようだ。召喚魔法についての文献は全て燃やされたと聞くが、それは真だろうか。ああアイリス。私の愛しいアイリス。私を、私を忘れないでおくれ。】
(1117年3月5日 アベクの日記より抜粋)
――召喚魔法陣……そんなもの、教科書のどこにも載ってなかったな。……文献は全て燃やされた――今は残ってないってことか。何のために、そこまでしたんだ。国を挙げて召喚獣と人間との繋がりを断った? 1117年ってことは、今から約90年前。召喚獣愛護法、召喚魔法陣の使用禁止。召喚……。
静思していると、本が消えた。そして新たな本がシュウの手の中に現れる。シュウが黙って本を見つめているとやはり、本は独りでに紙をめくった。
【四ヵ国召喚魔法全面禁止における懸案事項の早期解決に向けて
召喚魔法陣違法取引への対策が急がれる。
召喚獣愛護法および召喚魔法全面禁止の四ヵ国間同盟締約から50年、未だ召喚魔法陣は闇市にて違法に取引されている。
召喚魔法陣の正式な型は失われつつあるため、現在出回っている陣は偽造品である。よって魔物の召喚は失敗に終わっている。
しかし偽造された召喚魔法陣には破壊魔法の印が残存しており、その印によって世界の層に穴が開けられている。
正式な召喚魔法陣には特定の世界へ繋がる印が記されているが、現在、闇市で流通している偽装された召喚魔法陣にはその印が記されていない。
ゆえに破壊魔法で開けられた穴――マナホール――がどの世界に通じているのか特定できない。
マナホールによる異世界からの侵入者を防ぐため、偽造召喚魔法陣の全廃とマナホールの修復が急がれる。
悪魔については次回の四ヵ国議会にて報告する。】
シュウは再度、読み返した。文字を指先で追いながら内容を頭に入れていく。
――召喚魔法陣、の、違法取引……闇市で取引、偽造品、失敗。破壊魔法? 特定の世界へ繋がる印が、無い。だから、どの世界に通じているのか、…………俺の居た世界とこの世界を繋いだマナホールは、……不完全な召喚魔法で開いた……って……こと、なの…か……
「ふっ」
シュウは噴き出した。口は弧を描いている。
「……ふふふっふふふっふはっ……アハハははっはははははあははは…はははっ」
うつむいたまま乾いた笑いを押し出す。
――俺がこの世界に飛ばされたのは、何処の誰ともわかんねぇあほが召喚魔法を失敗したから…ってか
シュウは笑いを爆発させた。
「ふはっあっははははははははははハハあははハハハハハハ」
――ふざけんな。
「なんだ…それ…なんだそれ…………なんで…俺が。なんで俺がっ…なんで俺が!! ここに来なきゃいけなかった!!!! 何で俺があ!!」
浮かんでいた人形を掴んで床に殴りつける。
「ふっざけんなあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「なんで、俺が!! なんで!! なんで俺なんだよ!!! なんで俺がこんなとこに!!!! お前のせいだ!!! お前のせいで!!! お前が召喚魔法なんか!!! 使うから!!!」
顔の見えない相手への怒りが、膨らんで弾けた。
「お前がッああああ゛あ゛あああああああああああああああああああああ!!!!」
シュウに掴まれていた人形は手の中から這い出ようともがくが握り潰される。
「アハハハハッハハアハはははッハハハハハハッ……あァそうだよなぁ……世界はいつも、理不尽だぁ」
シュウは空中を見上げた。焦点が定まっていない。
「これが現実…これが現実なんだよっふふ…アハハハッ……ヒヒッ」
泣きそうに歪んだ顔で口をつりあげ、ふらふらと立ち上がる。浮遊していた人形を捕らえて壁に打ち付けた。




