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俺の生き方 ―学園編―  作者: 冬野灯
学園―玉響―
22/29

学期末試験

 Aクラスは静まり返っていた。いや、Aクラスだけじゃない。学園中が静まり返っていた。聞こえてくるのは鳥や虫の声だけ。たまに風が窓を打ち鳴らす。先生も生徒も、誰も一言も話さない。


 ――ただ、ペンの音だけはカリカリと小さく鳴っていた。

ただいま2限目、魔法基礎学の学期末試験 真っ最中。


基礎というだけあって、けっこう簡単な問題ばかりだ。これなら余裕で合格点だろ。1年の初めのテストなんだし、少し簡単にしているのかもしれない。隣のライトもちゃんとペンを動かせているようだ。


 1限目のテストは歴史で、ライトは途中からペンを立ててどちらに倒れるかで答えを書いていた。ペンが倒れるたびにカタカタと煩かったがテスト中なので文句も言えない。

この世界に来て1年未満の俺でさえ解けたのに、ライトが解けないとはどういうことだと思ったが、そう言えばこいつはほぼ寝ていた気がする。


 俺は解答欄を9割埋めてペンを置いた。うん。これは絶対いけるだろ。

机に突っ伏して終了の鐘が鳴るのを待つ。


「ああぁあぁ待って!」

「ちょっとまて」

「あとちょっとおおおぉぉおぉ」

終了の鐘とともに哀れな声を響かせて飛んでいく紙に手を伸ばす数人。解答用紙が先生の手の上に重なっていく。

ライトが隣で机に頭をぶつけた。

「同情するよ」

「おい、俺ができなかったみたいに言うなよ。少なくとも1限よりはできたぜ」

「1限よりはだろ」

「……」

前の席のベルが振り返った。

「シュウ、できましたか?」

「まぁまぁ。ベルは?」

「まぁまぁです」

「お前らああああ! まぁまぁとか言って高得点叩き出す奴だろそれぇ! はっきり言えよでき「うるさいわね」っいっててでごめんなさいごめ離して離して」

シェリーはライトの耳から手を離して、首をこきこき鳴らす。

「次は魔法薬の……ふぁ」

盛大な欠伸だな。女子ともあろうものが。

俺も肩を回して凝りをとる。

「飯行くか~。ニースー 行くぞー!」

俺は席を立って後ろの席のニースを呼ぶ。取り巻きに睨まれたがいつもの事だ。


「みんなできたかい」

ニースは朝飯前だったろうな。

「まーまー」

「まぁまぁです」

「まぁまぁね」

「僕もまぁま「お前らあ! まーまーうっせんだよ! まーまーまーまーってまーま」自業自得でしょ? 八つ当たりしないでくれるかい」

「う゛っ」

ライトは胸を押さえてよろめき着席した。

「あの、魔法薬学もありますし、それも上手くいかなかったら魔法演習もありますし!」

「ベルうぅぅ」

ライトがベルに両手を伸ばしてすがろうとするが全力で阻止する。ベルに抱きつくなんて許さない。いやそれ以前に、女の子にむやみに抱きつくなバカ。

「落ち込んでないで行くわよー。早くしなきゃ席取られちゃうわ」

ライトも重い腰を上げてふらふら歩き出す。背中を盛大に叩いてやった。

「いっで」

ライトの背筋が伸びる。

「シャキッとしただろ」

「いてーよ」



 俺たちは5人が掛けれるテーブルにシェリーを残して昼飯を注文しに行く。シェリーの注文は俺が引き受けた。

「シュウも冷やし麺ですか?」

「ん? おお」

いつの間にかベルが隣に並んでいた。

「そうだけど何にすっかなー」

「学食は今日で最後ですね」

「うん。ベルって自炊するの?」

「はい。たまにはですけど」

喋っているうちにも列は進んで行き、次は俺だ。

「えーと、木キノコと千豆のトマトスープ、パラとレム肉の冷やし麺、日替わりAランチで」

「あいよ」

「私は…チェムのクリームソースお願いします」

「あいよー」


 俺とベルがお盆を持ってテーブルに戻ると、ニースもライトも先に座っていた。

「はい。シェリーの」

「ありがと」


「明日から夏休みじゃん」

「そうですねー」

「みんなどうすんの?」

「どうするって何がよ」

俺は黙々とテレムの香草焼きを分解する。テレムは鳥肉だ。

「家帰るだろ? でも一回ぐらい集まりたくね?」

「そうね。あたしは2週間ほど帰るわよ」

そうか。皆帰るのか。……俺も帰れるけど、どうしようかな。

「僕はほとんど家に拘束されるよ。親睦会とかいろいろと顔を出さないといけないからね」

……ニースは忙しそうだな。

「私は畑仕事に駆り出されるので…でも私の他に4人いますし」

「ベル大家族だよな。兄2人と姉に……弟?」

「妹です。だから、夏休み中手伝う必要はないですけどね。ほんとに忙しくなるのは収穫期ですし」

「ライトは帰るのかい? 君は暇そうだけど」

「暇だ。いいだろ」

「羨ましいよ」

ライトも帰るのかな。ベルも家の手伝いあるみたいだし…ちょっと寂しい……

「シュウはどうするのよ」

「……」

急いで肉を喉に押し込んで、口を開く。

「俺は…帰ったり、寮にいたりかな」

「お前転移使えるもんな。あ、ニースも使えるんだろ?」

「自分だけならね」

「じゃあ忙しくても来れるんじゃね」

集まるの一回だけになるのかな。俺、ひまだなー…

「そうだね。……用事がない日は修練室に来ようと思ってるよ。魔法の練習したいしね」

「私もこの夏は治癒魔法を勉強します」

「ベル気合はいってるわね。あたしも来ようかしら」

お? なんかみんな来る雰囲気になってる。いいぞ。

「え、みんな来るんなら寮いようかなー 家帰っても魚の仕分けばっかだし」

「集まるなら、1つ提案なんだけどね。疾風迅雷って魔法知ってるかい」

「知らないです」

「知らないわ」

俺も初めて聞いたな。

「風と水と雷の複合魔法なんだけど」

「闇は入ってないの?」

「闇は…いれれるか分からないけどね。ライトは雷、ベルとシュウは風使えるでしょ? 僕は氷だけど工夫すれば水も使えるから、面白そうだと」

「いいじゃんそれ! めっちゃ面白そうじゃん!!」

ニースの語尾を打ち消すようにライトが嬉々として声を上げる。

「面白そうだな。みんなで練……もちろんシェリーも一緒にってことだから。すねんなよ」

「すねてないわよ」

いやすねてるだろ。切返しの速さが物語ってる。



 魔法薬学のテストは、ライトはもちろんの事 俺もちょっと失敗した。補講が気になるところだが、4科目の合計で100点以上あればマヌガれる。1科目あたり50点満点で、全4科目合わせると200点満点だから、1つぐらい失敗しても大丈夫だろ。




 体育館に移動して、学期末最後のテストを受ける。俺は蒸し暑い空気を手で仰いだ。これで1学期もおしまいだ。なんか早かったような、……いろんな事があったけど、振り返ってみればあっという間のような…。まだ終わってないけどさ。


「次! リニア・ベル」

「はい」

ベルがカー○ルおばさんの前に立つ。おじさんじゃなくておばさんだ。顔はあんまり変わらないけど、服がスカートになってる。他にもレパートリーがあったらどうしよう。何か嫌だな。あんな顔のこどもとかいたらビビる。像だとしてもビビる。

旋風ワールウィンド

旋風がおばさんを襲う。おばさんはにこやかな表情を崩さず、腹に600という数字を光らせた。


「次、ドルバ・エトセ。……ドルバ? ドルバ!!!」

「はっはいいぃ」

慌てて前に飛び出すドルバ。相変わらず おっちょこちょいというか、ドジというか。


「目つぶし!」

おばさんの目に土の塊がぶつかる。数字は100だ。


 俺とニースは1000で、シェリーは700、ライトは900だった。

 テスト加算についての計算方式は分からないが、1000が上限だそうだ。ライトは900点だったしなんとか合格できそうだ。



 俺たちは体育館を出た後、だらだらと寮へ続く道を歩く。髪を触ると頭の天辺が熱くなっていた。地面の照り返しが暑いし目に痛い。横に目をやっても同じで、緑が光を反射し芝生の上ではバッタみたいなのが跳んでいた。

「夏休みかー」

この世界の学園にも、夏休みと冬休みはあるんだよな……春休みはないけど。2学期制だし。

「んで、いつ集まる?」

ライトが聞くと、みんなひと夏の計画を練っているのか黙り込んだ。

「おれは帰ったとしても2~3日だな。明日はいるぜ」

「じゃ、俺もいる」

「あたしは一度帰って家の様子を見てくるわ」

「私も、ちょっと帰ります」

まぶしい太陽を見上げて目を細めた。青い小さな蝶がひらひら飛んでいる。

「僕も明日は帰って来いって言われてるからね。一週間は戻れない気がするよ」

「ま、そんなにかっちり予定決めなくてもさ、みんな集まった時でいいんじゃねぇの」


 俺たちはベルとシェリーに手を振って、男子寮までの道を歩く。

「遠い…」

ライトは頭から汗を伝わせている。

「今さらだろ。今まで何を思って通ってたんだよ」

「補習の人は夏休みの半分くらい登校しなきゃいけないみたいだよ」

「げぇ…やめろよその話。俺の夏休みライフは誰にも奪わせない」

「奪わせなかったら退学か、良くて留年だろーな」

「うっ…うぅ」



 とりあえず一週間後ぐらいに修練室で、と適当に決めて各々の部屋に帰った。


 さぁ。俺は何をしようか。……マナホールについて、調べるか?

考えるだけで胸糞悪くなるけど、…怖いけど。いつまでも逃げていられない。何より俺をこの世界に飛ばしたマナホールについて中途半端な知識では納得できない。

けどマナホールは世界の機密だ。どうやって調べればいいんだろう。

……リリアたちは、あまり話してくれないだろう。前にも訊いたことはあるけど、危ないからって教えてくれなかったし。教えてくれないなら自分で探るしかあるまい。


 俺は嘆息してとりあえずソファーに寝転んだ。ひんやりとしていて気持ちがいい。

 

 寝るつもりはなかったのに、だんだんと心地よい眠気に誘われて、俺は目を閉じた。

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