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前編3

 人間の行動はすべて次の七つの原因のひとつ、もしくはそれ以上のものが合わさり起こる。機会・本性・強制・習慣・理性・情熱・希望の七つである。


――『アリストテレス』

「えぇ、圭君ってそうしてたんだ!?」


「受験番号逆さに読んで不合格と勘違いしているなんて現実でやるとは思わなかったね。雛菊さんが気付いて再確認してあげてなきゃホントどうなっていた事やら…」


「あっはっはっ、おもしろ~い! 私が転校した後でもそんな風だったんだね!」


「笑いごとじゃないよまったく、勉強手伝ってあげたこっちの身にもなってほしいもんだよ」


 絵梨菜と再会した僕は食堂に移動し、ちょうど頃良い時間帯だったので昼食を取る事になった。さすが学校事業として改新と促進を起こしただけあってメニューも富んだ物であり、前世で食べた事のある高校の学食なんかよりはるかに味の良い品だった。


 ちなみに、話の中で出てきた圭と雛菊というのは小中の元クラスメイトのメンバーだ。宿題を手伝って上げたのが圭。それに協力したのが雛菊さん。


 うん、絶対あの二人ってお互い気があったね。いやー青春って良いものだね。前世の僕を思い出すよ、彼女出来なかったけど…。バリバリ彼女いない歴=年齢を謳歌していたし。


「絵梨菜様、ここにいらしてたんですね!」


 そんな中、僕達が座るテーブルの前に何者かが現れた。


 二人組の女子であり、その一人はいかにも『お嬢様』な気品がありありとにじみ出ている。もう一方は静かにこの場を見つめ、先の一人の後ろに位置している感じの少女だ。


 僕はこの二人の少女を良く知っていた。


「あら、瑠璃恵さんに浅翠さんじゃありませんか。どうなさったんですか?」


「嫌ですわ絵梨菜様ったらっ! 食堂へは(わたくし)達と一緒にと、言伝を頼んでいらっしゃったではありませんの」


「――ぁっ、確かにその通りでしたわね! 申し訳ありませんわ、ついつい昔の友人に出会って気分を良くした物でしたから…」


 そう、『OM2』にて絵梨菜の付き人として毎回登場する『桜小路瑠璃恵(さくらこうじるりえ)』と『柊浅翠(ひいらぎあさみ)』というキャラクター――いわば僕より立場が上なモブキャラだ。


 だが、主に悪役側でありながらコメディー担当に等しい特徴的な二人はプレイヤーや読者を喜劇的興味で心を鷲掴みした。


 二人は柳二の父が経営する企業『AOI』の下請け会社にて、社長を務める男の娘――御令嬢――とその側近の娘といった関係だ。確か柳二の婚約者となった絵梨菜とはAOIを通じて関係を持つようになったと小説版では書いてあったな。


「絵梨菜様のご友人…ですか……?」


 そう言って瑠璃恵は僕の事をじろじろと、まるで品定めするかのように見つめてきた。


「…なんだかつまらなそうな殿方ですわね」


 ――よし、その喧嘩買った。


「あはははは、いやー知り合いにはそう言われた事はあったかな。それにしても君って『ネペンテス』みたいな髪形していて中々綺麗な形をしているね」


「…っ? あら、ご丁寧にどうもですわ。どうやら見る目だけはあるようね、この髪の手入れは苦労しますのよ」


 今言った言葉の真意が理解できない限り、頭が特別良いとは考えなくて良さそうだ。


「――あの、瑠璃恵様…ネペンテスというのは……」


 おっ、そっち――浅翠――は中々理解力があるらしいね。勉強が出来るというのは良い事だよ。


「英語でウツボカズラという『食虫植物』の事を言っているんです」


「んなっ! あなた、私を馬鹿にしなさったの!?」


「馬鹿にしている訳じゃないさ。ありきたりな髪形をする人よりは個性があって良いと僕は少なくとも思っているよ。その横ロールなんてまるっきりネペンテスそっくりで面白みがあって愛嬌が湧くんじゃないかな…飽くまで『少数派』にだけど――?」


「むきーっ! お黙りなさい! 人の髪形を食虫植物だなんて比喩する事自体が恥辱極まりませんわ!」


「おやおや、瑠璃恵様ともあろう方がこんな『つまらない』男の言葉を一々と気にするなんて…感激して拍手が止まりませんよ」


「ぐぬぬっ…!」


 大人げないなぁ…。いや、子供に戻った以上はこういう事も許される――筈。


 僕と瑠璃恵は睨み合いへと発展し、互いに一歩も譲らないといわんばかりに目を逸らさなかった。さぁこい、こっちは無駄に人生経験は積み重ねているんだ。僕の精神年齢の半分にも満たない子供なんかに嘗められていたらこちらの沽券に触るしね。


「二人とも、みっともない事はお止めなさい!」


 そこへ、横から絵梨菜が割って入ってくる。


「瑠璃恵さん、いくら初対面の方とはいえその人を乏しめる発現は褒められた事ではありませんわよ。すぐに謝罪なさい」


「で、でも絵梨菜様――っ!」


「あと丹君…いえ、白水君。相手が先に非礼を働いたからといって何を言ってもいいという訳ではありません事よ。不必要な事を瑠璃恵さんに述べた事に関しては謝罪を行うべきですわ」


「う、うん……」


 仲介役として間に立つ絵梨菜の気迫に僕も押され出したのか、反射的に絵梨菜の言葉に従ってしまった。瑠璃恵も更に数度言われたところで納得いかない顔をしながら僕へと謝罪してきた。これに僕も謝罪を言い渡した。


 どうなっているんだろうか? これも何かしらの力が働いているのかな?


「では、そろそろ時間も迫っている事ですし…それぞれの教室に戻りませんこと?」


「そ、そうですわね! ささっ、参りましょう絵梨菜様!」


「あ、瑠璃恵様。待ってください」


 ここで絵梨菜からの解散を言い渡された。


 瑠璃恵は最後に絵梨菜には見えぬように僕へ向けて睨み顔を向けてきたけど、僕はそれを知らぬ顔で受け流しておいた。何の反応もしない僕に悔しがったのか、苛立った様子のまま食堂を後にした。


 テーブルに残ったのは僕と絵梨菜二人だけ。回りには大勢の食堂の利用者がいるけど、こちらの様子をちらちらとうかがっている者達がいる事は薄々と感じていた。


「ごめんねー、瑠璃恵って子はちょっとした偏見があるけど根は凄く良い子なの。私からも許してあげてもらえないかな?」


「まぁ、別にこっちも大人げなかったし…。それよりさ、なんで一々と口調を変えて喋ってるの?」


「あ、これ? 実はね、転校した先がお嬢様学校っていう風な場所だったからお母さんが『立場にふさわしい言葉遣いを覚えなさい』って半ば無理やりに矯正されたのよ。私としては丹君達との頃で使っていた話し方が気が楽で済むんだけどね」


「…中学の頃と全然違ってて違和感ありまくりだったしね。そうか、お嬢様学校か。合併した女子高も結構名の知れた富裕層の人間も通う所だったっけ?」


「そ! 実は私もお父さんが会社をすごく大きくしたものだから社長令嬢って身分になっちゃった訳。どう、すごいでしょ~?」


 初めて聞く風な感じで僕は絵梨菜から出来るだけ情報を引き抜いていく。


 そうか、彼女は着々と桃山絵梨菜としての道を歩み始めているのか。けど違うところも所々とある。


 ――性格と価値観だ。


 幼い頃、つらい経験をしたせいで自分より下の身分の者は徹底的に見下す方針を取る筈だった。


 それが他人を思いやり、個人を尊重する人間として素晴らしい理念を抱ける人として成長してくれた。


 自分が接してきた絵梨菜との日々が無駄じゃなかった事が実感できて嬉しい瞬間でもあった。


「じゃあ、私も授業あるから行くね。久しぶりに喋り方を気にせず話せる事が出来て本当に楽しかったよ!」


 絵梨菜は食堂から去っていった。僕はその後ろ姿をしみじみと見つめていた。


 とりあえず、僕もこれから授業があるから急いで教室に戻らなければいけないので片づけをしようとした所、後ろから妙な違和感が感じられたので恐る恐る振り返ってみた。その先にはいつの間にか出来ていた野次馬がこぞって僕の事を見つめていた。


 ――はっきし言ってすんげー怖かった。


「おい、お前ってあの桃山絵梨菜と知り合いなのか!?」


「羨ましい! あの憧れの絵梨菜先輩と近寄れるなんてっ!」


「なぁ、お前を通して俺の事紹介してくんね? 飯奢るからさ!」


 …やはりこの学園でも人気者になったんだね。中学でも怒涛の勢いを誇ったくらいだから高校となるとその規模は僕でさえ想像だにできなかったよ。


 あ、やめ…そんなにじり寄らないで。――って誰ださっき見えないところから僕の股間を蹴り上げようとした奴は!? お兄さん怒らないから正直に名乗り出なさい! 今ならナッツクラッカーショットで許してあげよう。






 あの後、若干酷い目に合ったものの、そこから僕と絵梨菜は見えない形で交流を続けた。主にスマートフォンを使った文通と会話で、だ。直接会っていると何だかキナ臭い話が出てくるので、間接的方法を取る事にしたんだ。


 いつも絵梨菜の傍に付き添う瑠璃恵と会うたびに目の敵にされ、これに静かな攻防を広げたり周りの生徒(主に男子)からの突き刺さる視線――嫉妬――を浴びせられ続けるのには我慢の限界だった。これに対応しての措置であり、メールを始めてからは絵梨菜とは学園で偶然会う時に会釈だけ済ませるような形にした。この現状は瑠璃恵が絵梨菜に近寄る回数が減った僕に満足げな顔をしたり、日を追うごとに生徒達から妙な視線を向けられなくなるには効果的だった。


 悪い虫が寄り付かないようになって満足げな彼らには悪いかもしれないけど、僕と絵梨菜は学校では出来ない分、スマートフォンを通じて交流を楽しんでいった。


 もちろん、会話の中で情報収集を忘れずに何気ない会話に混ぜて絵梨菜に質問をした。


「そういえば聞いたんだけどさ、絵梨菜って一年にいる蒼井柳二って子と何か関係あるって噂を耳にしたけど、そこんところってどう?」


 そして、ついに物語の核心に近づく事柄を聞く事に成功した僕は内心ドキドキしながらも平然を装った声色に努める。


「…そっか、やっぱり漏れちゃってるんだ。きっと瑠璃恵あたりの仕業ね」


 絵梨菜はやれやれと言わんばかりの口調で静かに納得した。


「丹君は知りたい?」


「…別に」


「それモノマネ? ぶふっ! だったら全然似てないね」


「うっさいなぁ、余計なお世話」


「――婚約者なの」


 ひょっとしたらという考慮も入れて待ち望んだ答えはあっさりとピースの欠片が繋ぎ合わさるように提示された。ここから先は戯言禁止な真剣な話を綴る。


「…会社関係?」


「うん、お父さんの会社が蒼井さんの企業と合併する際に縁を深めるのを前提として決めた物なのよ。本人達にその気がなければ無理に進めなくてもいいって言伝はされてるけど、親側からしたら私達がそういう仲になるのが本望だと考えているわ」


「……そっか。絵梨菜はどう思っているんだい?」


「…良い話だと思っているわ。柳二君も人の良さそうな人だし、何より将来有望で条件揃いまくりー! ――なんてね。高校を卒業してから縁を結んでも大学へ進学する道を選んだって全然構わないって…」


 聞くところによれば、会社側も就職先としてのポストを用意もしているとの事。


 わぉ、只今就職氷河期に直面している人達にとっては羨ましい事この上ない便宜の計らいだ。就活嘗めてるとしか言いようのない。


 まぁ、そんな事は別に置いといて、と…。


「とりあえず、『おめでとう』。良い相手と巡り合えて良かったじゃないか」


「…うん」


 絵梨菜がその話を受けるんならば受けさせる。断るんだったら断らせる。僕が指図するような事柄は一切ない。飽くまで『自由にしていい』という言質を取っている以上、これからを決めるのは絵梨菜本人の役割だ。


 僕が頑張る事など見当たらないと判断したことでこの話はお開きとする事にした。その後は他愛ない会話をいくつかして電話を切った。


 切る寸前、スマートフォンから「…の…か……」と微かな音が聞こえた気がしたけど、気にしないでおく事にした。


 ――大丈夫、まだ決心がつかなくても時間はたくさんあるからたくさん悩めばいいんだよ。君の人生は君だけの物なんだから。






 僕達はこうした関係を続けつつ、月日というのは風のように緩やかで一瞬にして流れていった。僕も特に問題なく三年になり、今度は大学受験に向けての流れが教室内で飛び交っていた。


 大学入試は大人でさえ手こずる代物だ。今度ばかりは記憶の照らし合わせ程度で間に合う物じゃないので、僕も本気で勉強に取り組むようになった。まだ三年になったばかりだとクラスメイトの殆どは余裕綽々な顔つきをしてる所悪いけど、全然そんな事ないからね? 


 人生の先輩として忠告してあげよう…若い頃は十分苦労しときなさい。社会は甘ったれな少年(ガキ)なんてお呼びじゃないといわんばかりに厳しい対応してくるからね? ここ、テストに出るからしっかりと覚えておくように!


 その間でやっていた事といえば、主人公の攻略キャラである主要人物達の観察だ。ただ、同じ三年には赤羽藤和がいるけどクラスは別々だし、他は二年だから階が違うから近づく事さえ不可能だった。思わぬ障害によって悩んだ事もあったけど、解決策を編み出すにはそう時間はかからなかった。


 どうやら主人公が来る前では攻略キャラ達はそれぞれ別々に行動している事が多い事が分かった。主人公と知り合うようになってからメンバーとして構成するようになっていったようだ。


 結論――赤羽藤和を除いてどいつもこいつも辛気臭い面を浮かべ過ぎだよ!


 何だよ! 遠目からも「自分は不幸です。誰か自分を幸せにしてくれる人来てください」な分かりやすい雰囲気漂わせやがって!


 あれでこの学園のアイドルとして人気者(主に女子から)なんだから正直やってらんない。あそこまで他人向けの笑顔で取り繕って個性をはっきりさせられない人間がいるなんて僕初めて知ったよ!? 我儘、傲慢、横暴の三つがそろっている赤羽藤和が全然マシに見えてくる程のレベルじゃないか!


 あ、まもなく第一期生徒会選挙が始まるんだけど、九月で始まる第二期生徒会選挙ではそこで参加を表明している藤和が有力候補として圧倒的な差をつけて一歩リードしてるそうだ。確かに能力としては文句の付けどころはないけど、あの性格がなぁ…。性格適正の段階で落ちるべき人間ナンバー1な藤和が最後まで残ったのは学園の七不思議に入れてもいいくらいだ。


 ちなみに、ウチは生徒会の任期が少々特殊なんだ。第一期で選ばれた人が有能で続ける意向があるなら、もう一度選挙をして当選されれば第二期を続けられる仕組みといった他の学校とは違う部分が色々とある。


 おそらく、おそらくだ…女子に圧倒的な人気を誇るのが一つ。公式的にはしっかりとした態度を取るようにするタイプなのが二つ。そして最後が大方、祖父――学園長――の根回しが一番の有力説かもしれない。



 そ れ で い い の か 楠 賀 美 学 院 !



 あれ、ひょっとしてこの学園って主人公、攻略キャラ、悪役ヒロイン関係なしに結構ブラックなんじゃないかな?


 うわーすんげー不安になってきた。どうしようかなこれ…。


 一応、『OM2』での藤和の生徒会長としての手腕は確かな事は描写されていたけど、本当は結構ギリギリな所に位置してるんじゃあるまいか?


 …駄目だ、未来を嫌な方に考えていては憂鬱になるだけだ。切り替えよう。






 こうして、学園生活最後の半年へと差し掛かった頃…。


 ついに主人公――虹音百合――がこの学園に転校してきた。


 向こう側としての舞台は二年、僕は三年、直接関わりの無い者同士だから彼女が転校してくるという情報は当然、僕のクラスには入ってこなかった。


 それに虹音百合はデフォルトキャラ――プレイヤー主観側の人物――だから前世で姿を知る物は誰もいなかった。


 いや、確か妹がいうには限定版コミックとして『OM2』主人公の姿が描写された物が存在するって聞いた事があったけど、妹さえ持っていなかった物だから実際は確認のしようがないな。


 でも、そんな事は何の問題にもならなかった。虹音百合は驚くほど直ぐに見つかった。


 それは僕の知らぬ間に彼女が転校して一週間が過ぎていた時の事だった。いつも通り、昼食を食べようと食堂へ向かった僕は周りの行動がどこかおかしくなっている事に気付いた。何かを待っているような、目に入れてみたいような…そう、言い例えるなら『有名人を一目でもみようと詰めかけている』といった感じだった。


 所々と出来た人だかりを潜り抜け、僕は彼らの視線が集中している先へと進んでいった。そこで僕が見た物は――


「なぁ百合、この近くにウチの所が贔屓にしている店があるんだけど、もしよかったら今度の休みに一緒に出かけないか?」


「ホント! 嬉しい!」


「おい柳二、なーに俺を余所に勝手な事決めてんだよ。調子乗ってんじゃねえよ。おい百合、そんなやつと出掛けたってつまらねえから俺と出掛けた方が楽しいぜ? もちろん、良いよなぁ?」


「…僕も、百合と一緒に出掛けたい」


「あ"? おい藍、根暗が割りこもうとするんじゃねえよ、お前は引っ込んでろ」


「…嫌だ、僕も百合といたい」


「ま、まぁまぁ! 三人とも落ち着きなよ! ここで喧嘩はまずいってば!?」


「何だ葵、俺と名字が同じなだけで不愉快極まりないんだが、そこんところ理解してる?」


「いやいや、んな事言われたってそれはどうしようもねえだろ…」


「もう、皆喧嘩しちゃ駄目! うーん、だったら今度の休みは皆で一緒に出掛けようよ! それなら誰も文句ないでしょ、ね?」



「「「賛成っ!!」」」



 ――何だこれ?


 僕は目の前に映る絵の描いたような光景に目を擦らずにはいられなかった。


 ちょっと待て、主人公は攻略対象を一人選択して…えっ、え……?


 考えが纏まらない。いきなりのダークホースに僕の脳内は一種の暴走が始まっていた。


(まさか、全員『攻略』したっていうのか!?)


 現状を見るに最も相応しい答えを僕はどうにかして導いた。


 そういえば妹に聞いた事がある。『OM2』にはある条件を達成し、全員の攻略キャラの好感度なる物を満たせば、エンディングとして出せる確率は1パーセント未満とされる伝説の『逆ハーレムエンド』という物が存在するらしい。


 初めて聞いた時は、そんなエンディングの事を僕は『ビッチエンド』と呼んでしまい、目の前で聞かれた妹に最大限の反感を買ってしまった思い出があった。そこから発展した喧嘩では1ラウンド20秒KO極め技――四の字固め――で決着を付けたけど、最後までその逆ハーレムエンドの呼び方を変えるつもりはなかったね。


(うーん、確かにあれなら…なぁ……)


 僕から見て主人公――虹音百合――は飛び抜けた美少女と評価するに値する女の子だった。学園にいるお嬢様系とは違った庶民的な雰囲気を携えながらも整えられた容姿は一種の芸術品。


 そう、『芸術品』にしか僕には見えなかった。


 先ほどから百合の素振りを見ていると、探してみればどこにでもいそうな女子高生みたいな感じが巧妙に隠されているのがうかがえた。まるで『手順通りに』主人公を演じているような…そんな風に僕は見えた。


(これは何かあるかもしれない。しばらく様子をうかがう方がいいかもしれない)


 僕はここでようやく主人公を発見した身に過ぎない。情報が足りなすぎて迂闊に動くのは危険でしかないと判断した僕は時間をかける事に決めた。


「あ、見て! 絵梨菜様よ!」


 物語は終盤を迎えてきているのかもしれないし、まだ続くかもしれない。


 僕は傍観者、そして時々支援者。


「…ちょっとよろしいですか、虹音さん?」


 彼女らの行方を決めるのは誰でもない。


 全てはこの世界(現実)の流れるがままに――。


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