前編2
私たちが憐れみと無条件の愛の人生を生きることを目標とするなら、この世界はありとあらゆる花が咲き、育つ園となるでしょう。
――『エリザベス・キューブラー・ロス』
虐めというのは保護者と教育者のどちら共がしっかりしていれば案外対策はつく。
僕による『放水事件』によって詳しい事が露見するきっかけとなり、絵梨菜の虐めは今後一切聞かない物となった。
簡単そうに言っているけど、結構大変だったんだよ? 特に絵理菜の母親が激しく抗議した物だからね。対応の仕方がまんまモンスターペアレントで当事者の一人でもあった僕は後に連れてかれた校長室にて、目の前で彼女によってたじたじになる学校側を心配したくらいだ。まぁ、将来に選民思想的教育を施すようになるくらいに娘を溺愛しているしね…。
近所と馴染めてないとはいえ、母親は飽くまで社長夫人だ。それなりに顔の効く地位にいる事は間違いない。下手な対応をすれば今後学校に悪い影響を与える傷を付けられかねないから学校側――特に虐めに気付かなかった絵梨菜の担任――は大いに焦っただろう。
よって虐めの主犯格であった悪ガキ三人組は保護者同伴で引きずり出された。三人組は後ろから親御さんによって無理やり土下座をさせられ、泣きながら謝る事になった。よく見てみれば頭にたんこぶがうっすらと見えるに、拳骨をたらふく頂いた後だった。
加害者である三人組に聴取をとってみればさらに残念なことに、絵梨菜はクラス全体で虐めを受けていたという新事実も発覚したのだから学校側は顔を真っ青にして風前の灯。
「娘を虐めるようなクラスがあるくらいならいっそ転校させてもらいます!」
最終的に絵梨菜の母親によってそう結論付けられると思いきや、これに異議を唱える者が現れた。
被害者である絵梨菜だった。
「いやだもん! 絵梨菜、ここから離れたくないもん!」
これに母親は優しく諭しながら転校を意地でも勧めてきたけど、絵梨菜は「嫌! 絶対もう転校なんてしない!」と断固として反対してきた。母親はこれに「我儘言うんじゃありません!」と叱咤してしまい、絵梨菜は泣き出してしまったのだから大混乱だ。
こんな混沌に留まり続ける余裕なんて僕は無かったから、こちらからもちょっとした提案を出してみる事にした。
「あの、それだったら僕のクラスに移ってみませんか?」
要するにクラス替えだ。絵梨菜のクラス自体が虐めの発生場となっているのなら、事情を知らない者が比較的多い別のクラスにいれば再発の防止に若干手助けできる。根本的な解決は学校側の努力と協力が必須だけどね。あと、生徒側にもまともな考えがある者が何人かいれば確固たる物にできる。
これに絵梨菜の母親は「子供が大人の話に口を出さないで!」ととんちんかんな反論してきた。おいおい、今回の主役は大人じゃなくて子供なんだけど…。そこんところ全然分かって無さそうだな。
どうやら子供の傷は自分の傷になるから早めに防がなくてはならないという自己中心的に考えをまとめるタイプのようだ。子供を大切にしているようで本当に見ていないって言った方が分かりやすいかな?
子供という立場上、あまり効果的な意見が言えずにいる僕がどうしたものかと考えている中、突如として校長室の扉が大きな音を立てて開かれた。
――我が母親だった。
事情は僕の担任から電話で詳しく聞いたらしく、ちゃんと呑みこめていた母親は絵梨菜の母親に猛抗議を始めた。どうやら先ほどの言葉を扉越しから聞いていたらしい。
「自分の娘の願いを無得に扱うのが親のやる事ですか!」と気迫の籠った抗議は次第に絵梨菜の母親を押していき、先ほどまで強気だった態度が「いえ、あの…その……」と弱気に反転してしまった。そのまま押し切っていき、「それで良くなるっていうんなら認めてあげてもいいけど、あなた責任持てるの、えぇ!?」という言葉で強制的に転校申請の白紙を勝ち取ってしまった。
――さすがです、お母さん…。
現世での僕の自慢の母親ですよ。もちろん、前世の母親も決して悪くはありません。
ただ、こちらは強烈な印象があるから若干引き立てられるというか…。
後に聞いた事なんだけど、僕の母親は中学校は剣道部、高校は柔道部と運動部を二部渡り歩いた猛者としてちょっとした有名人だったそうだ。あぁ、だから偶に夫婦げんかした際は父親が母親によってソファーに向かって投げられたり、麺棒でぼこぼこにされて必ず母親に軍杯が上がっていたのか。長年の母親の強さの根源がようやく掴めた気がするよ。
いつかは両親のどちらかに『子供の頃に一度は聞いてみたい事トップ3』の一つである『どうしてお母さんとお父さんは結婚したの?』を聞いてみたいな。あ、ちなみに第一位は『赤ちゃんはどうやってできるの?』です。
――聞けるか! はっきり言ってどっちも自爆にしかならないでしょ!?
虐め発覚から会議の後、絵梨菜のクラス替えは問題なく進んだ。
初めは転校じゃなくて他のクラスから移って来たという絵梨菜に僕のクラスは不思議に思って理由を聞くべく寄って来た。虐め自体がクラス全員が影ながらやっていた物だから大して漏れる事はなかったんだろう。
そんな絵梨菜に僕は『きっかけ』として仲良くなれるようクラスを誘導していった。
すると徐々にクラス替えの理由など興味を無くし、好きな物や住んでいる所やらと絵梨菜にクラスの皆は根掘り葉掘りと聞くようになった。当人はあんなに詰め寄られて戸惑っていたんだろうけど、その若干内気な性格を治すにはいい機会だとして僕はあえて手出しはしなかった。
友達も出来るようになった。僕が良く仲良くしているグループと引き合わせてみると、直ぐに馬が合って男女関係なく仲良くできるようになっていた。
グラウンドで皆と混じって遊んだり、僕の所も含めた友達の家で遊んだり、もはや虐められていた過去など思わせない程に絵梨菜は笑顔を浮かべた生活を送る様になった。
僕はこれで一安心した。『OM2』の設定では桃山絵梨菜というキャラクターは友達と呼べる人間は学園に来るまでいなかったとされていたけど、僕にはそんな事どうでもよかった。ただ目の前の少女が一人、幸福という物を手に入れる事が出来た結果に満足だった。
『OM2』では絵梨菜にいつも付き添うキャラクターが二人いるそうだけど、その二人も「虎の威を借る」という意味合いで付き添っていただけだし、ヒロイン――百合――が学園のアイドルであるキャラクター達に近づく事に嫉妬した事からの利害の一致から動いていたに過ぎない。
物語終盤、全てを失った絵梨菜を助けようと動く様子が二人には見られなかったくらいだ。友達は名乗っていても、『親友』とは思っていなかったんだろうね。
けど、今の絵梨菜には親友が沢山いる。今後辛い事があろうとも、彼らの事を思い出すと共に、彼らと過ごした経験で人と寄りそう『勇気』を手に入れた。たとえこの街からいずれ離れる事になっても、新しい転校先で上手くやってくれる気がする。
そう覚悟を決めたつもりだったけど、意外と絵梨菜がこの街にいるのは長かった。なんと中学二年生まで付き添う事になった。中学に上がる際、絵梨菜の方は有名中学校の受験をする話が上がっていた気があるんだけど、いつの間にかおじゃんになっていてそのまま僕達と同じ中学校に入学する形になった。
女子達が「何で受験辞めちゃったの?」と聞いていたそうだけど、絵梨菜は「秘密!」と言うだけで詳しい情報が流れる事はなかった。
その頃の僕はどこにでもいるような普通の学生として学生生活を過ごしていた。あ、部活はもちろん『生物園芸部』。ただ園芸部の前に生物がついて、飼育部と園芸部が合体した部って感じだね。兎や鶏が学校裏の飼育小屋で飼われていて、当番制でその面倒を見るんだけど、偶に学校に親で内緒に飼っていたペットを持ってくる生徒がいるから、これも請け負った事があった。
動物に罪はないからね…。犬猫は難しいからお断りしたけど、ハムスターやイグアナぐらいなら出来る範囲で代わりに世話してあげた。ただし、飼い主もちゃんと面倒を見に来るよう釘を刺しておくのを忘れずにだ。飽くまで動物達が追い出される事になったのは飼い主としてしっかりしていないから、と生徒に大人からの目線で言いつけておいた。
うん、自分も今は子供なのに大人からの目線ってのは語弊があるかな…。
そんな事を言ってると責任を取るとして同じ部に遅くから入る子も出てきた。先ほど言ったイグアナを飼っていた子だった。今時珍しいメガネでおさげ髪をした大人しい女の子でまさかこういう子がイグアナを飼っていたなんて初めて見た頃は驚愕と同時に若干吹きかけた事もあったっけ。
まぁ、本当は植物と動物のどちらかを選ぶ部活なのに、両方とも世話をするなんて珍しい方向をとっている僕の手伝いをしてくれるから助かっている。結構有能で呑み込みが早い子なんだ。
んっ、何? あぁ、アネモネの球根を植える土はどうすればいいか聞きたい? そこの赤玉土と腐葉土を七対三の割合で混ぜて少し寝かせた物を壺状にした穴に敷き詰めるんだ。最初にある程度下に敷いてから球根は置いて、その上から隙間なく軽く土を三センチ程で球根と離れた厚さになるように――。
話がそれたね、今花壇でアネモネの球根を植えていて手が話せないんだ。本当にごめんよ?
気になる絵梨菜はというと、小学校からの友達と普段通り仲良くやっている。中学校は小学校を附属として編入する形式がほとんどだから、かつて自分を虐めていたクラスメイトもいる訳で…。
けど別に絵梨菜は気にしていなかった。幼い故の過ちだという事で彼らを許していた。うん、人を許せるって事は素晴らしい行いだよ。本当に強くなったんだね。そんな彼らも友達として接してあげていて、関係に余計な亀裂が走る心配は必要なかった。
数年の年月は絵梨菜を可愛らしい少女から凛々しい美少女へと変貌させていた。クラスは僕とは別だけど、そこで学級委員長を務めているらしい。『OM2』でも女子の中ではカリスマ性を誇っていた位だから当然の結果なのかもしれない。
部活動は意外にも料理部。後に大手不動産会社の社長令嬢となる絵梨菜には本人に失礼かもしれないけど、僕にとって似つかわしくないと思う選択だった。上達具合は僕の女友達から様子を一応聞いてみれば、中々順調らしい。「何で料理部なんか選んだろう?」とその友達に聞いてみた事もあったけど、その時は「…こりゃ絵梨菜も大変そうね……」と呆れた顔を何故かされた。
――いったい何だってんだ…。
成績は常にトップで、もはや学校では知らない人がいる方がおかしい程の子――いわばアイドル――と化していた。『OM2』のように力で相手を屈服させず、ここでは絵梨菜自身が持つ魅力(カリスマ性)で評価されているとくれば誰も文句の付けようがないだろう。
あ、ちなみに僕も適当に勉学に励んでいる事もあって上位三十位以内にはいられるようにしてある。ガリ勉という訳じゃないし、元より学んでいた事と照らし合わせた再確認という形だけど、これで上手くやれているから現状維持にしている。
絵梨菜とは小学校から連れ添った友達と同じように交流はあった。何人か塾や習い事があって頻度は大幅に減ったけど、何度か集まって遊んだ事もある。
学校内でも廊下ですれ違って何気ない短い会話を交わす事もあった。けど、話の内容を聞いていく内に目の前の少女はもはや自分とは違うどこか遠い場所へ行ってしまったのだな、と感じた。
寂しい気がしたけど、これでいいんだ。僕が出来るのは飽くまで手助けだけだ。彼女の人生全てを見守る余裕も熱意も持てない僕にはもはや彼女に出来る事は何もない。
僕にとって絵梨菜は『妹』だった。前世ではひじょーに残念な妹がいたけど、あれはあれで一種の愛嬌があった。つまり、二人目の妹を兄のような気分でこれまで見守って来た。
それももう終わり。彼女はもはや自分自身で道をしっかりと見定める事ができる人間だ。大人になるにはまだまだ未熟な所はあるけど、そういう部分は他人が口出す必要はない。
イグアナの餌? それだったらバラエティーに富んだちょうどいい店があるから今度一緒に行ってみるかい? うん、僕も放課後は大した予定はないから心配いらないよ。ははは、こらこら嬉しいからってはしゃぐなよ。そんなにイグアナが好きなんだね君は、えっ…ちょっと違うって…じゃあどういう事だい? おいおい、それで「教えません」って答えは酷いんじゃないかなぁ……。
いよいよ中学最後の学生生活へと突入する時期、突如として絵梨菜の転校が発表された。
理由は僕が予想していた通り、『父親の仕事の都合上』だった。おそらく会社合併の話が出てきて絵梨菜の父親はその機会に乗っかかり、住居を会社の拠点近くに移そうと考えたんだろう。
僕は久しぶりに小学校の頃で絵梨菜と良く遊んでいたメンバーを呼び、当事者に内緒で送別会を開く計画を立てる事にした。主に女友達が張りきって僕達男子組は良いようにパシられる形で用意は進められたけど、意味があるならば僕は文句を言わず協力していった。けど、おいお前ら…何で僕に用意押しつけてプレゼント選びに集中しようとしてるんだ。まじめにやってよもう――。
放課後、僕達は絵梨菜の家へと途中集合してから向かった。
呼び鈴を鳴らして出てきた絵梨菜がまだ僕達の来訪の意味を理解していなかった所で女子達がクラッカーを鳴らしまくる。それからネタ明かしをして用意してきた物を全員鞄から取り出して送別会の準備へと入って行った。
本気で嬉し泣きしていた。嗚咽をこらえながら女子達に付き添われて家へと一旦戻った時にはどうなるかと思ったけど、情緒が安定してからようやく本格的な送別会が始まった。
僕はというと、家の中に入った際に絵梨菜の母親とバッタリ会った。昔あんな事があったから悪い印象を僕の母親を通じて見られるかもしれないと考えたけど、そんな事なかった。むしろ気まずい態度で接してきたね。
あぁ、まだあの時の恐怖がぬぐえてないのか…ご愁傷様です。
こうして送別会も終盤に差し掛かり、最後にそれぞれが絵梨菜へプレゼントを渡す工程になった。
皆、どこからか買ってきた価値のありそうな物を用意していた。僕はここでも趣味を混ぜ込んで花をプレゼントに選んだ。もちろん、ただの花じゃない。育てるのが意外と難しいとされる『マーガレット』を種から育てた特製作品だ。
小さな鉢いっぱいに綺麗に並んで生えたマーガレットは他の皆のプレゼントと比べて一番見劣りのする感じが浮き出ていた。手間と時間はかけたけど、これは失敗だったかな…と僕は考えたが、結構好評だった。喜んで「ちゃんと大事にするね!」と言ってくれた。
うん、そう言ってくれるんだったら育てたこちらも報われるよ。
それに、『マーガレット』という花言葉は『誠実』だったね。向こう側に行っても今のままでいて欲しいっていう僕の願望を含んで選んだ花でもあった。
こうして、桃山絵梨菜はこの街を去っていった。
学校全体は我らがアイドルが転校してしまったという事でしばらく気落ちした雰囲気が漂っていたけど、元より誰の物でもない彼女の事は思い出として心に残しておく事を決めたようだった。
さて、中学校生活も終盤に差し掛かれば待っているのは青春の第一関門である『高校受験戦争』だ。
まじめに勉強していなかったせいで絶望を顔に表す友達の手助けをしつつ、僕も高校への受験準備を始めていた。
『OM2』の舞台は高校――学園――だ。ゲームとしての流れなんて見るつもりがなかった僕は何の関係もない高校を選んで志望校に上げた。
そこは男子校で割と将来性のある高校。今の僕の頭なら合格の可能性は高く、両親も勧めてきた場所。
何の関係もなければ高校はそこでいいと考えた僕はそのまま受験していった。
――結果は見事合格。
受験で四苦八苦していた友達の結果も上々だった事を見送り、僕は中学校を卒業した。二度目の中学生活だったけど、前世でやった事がなかった事をやれた事もあって結構楽しい生活だったって言える。
入学した男子校は都心部に近い所に建つ名の知れた高校。通学は電車を使う事によって可能となった。
男子校に入ったのは何も恋愛に興味がなかった訳じゃない。
――おい、そこの君…ひょっとして今まで僕の事モーホだって思ってなかった? 上等だ、ちょっと面貸しな。
これにはちゃんとした理由があるよ。僕は身体は成長期の子供とはいえ、精神年齢はもはや三十を超えている。そんな僕が年下の女の子相手に恋慕の情を抱けると思うかい?
――だからそこ、今度はロリコンだとからかおうだなんて企てんなよ。
きっと僕が本気で恋愛事に関心を向けるのは成人してからがようやくの始まりだろう。最悪、どこかの婚活でそれなりの相手を見つける場合になってもかまわない。
そんな事を考えながら、僕は高校生活を満喫していった。
けど、世界は悪戯好きでどうしようもなかった。
ううん、もっとよく確認しておかなかった僕も悪かったんだろう…。
『OM2』の舞台である私立楠賀美学院は物語から一年前、とある『男子校』と『女子高』が吸収合併した事で生まれた新しい学園である事を……。
何気なく過ごしていた中で学校側から合併の話を聞かされ、その際に新しく名づけられる学校名が私立楠賀美学院――。
「しくったっ!!」
思わず体育館での集合でそう漏らして回りから変な目で見られたのは良い思い出だ。
そんな訳で、高校二年生になると合併した側の女子高の生徒達も来る訳で…。
えぇ、男子校ではなく共学にまるっきり生まれ変わりましたよ。
回りの男子達はこのむさい男子校に「春が訪れた!」と思春期ピーク特有なノリで騒ぎまくってたけどね。そういう奴らはウチ(元男子校)の有名な鬼教師からありがたーい説教を頂いた訳です。
当然、そこからも新入生も入る訳で――主要キャラクター達を発見しちゃったんですよ。っていうか、元からここには主人公の攻略キャラにして先輩に当たる人物が一人男子校時代から入学していたんですね、はい…。しかも俺の同級生だったし……。
赤羽藤和――。
三年生の時には生徒会長として学園の生徒達の頂点へと立つ男。この学園の学園長とは祖孫の関係であり、学園に問題のある生徒を二人で通じて排除する活動を担う。秀才であり、幼い頃から甘やかされた影響もあって勝気で負けず嫌い。自分の思い通りにならない主人公に接していくうち、思いやりという物を初めて手にするようになる。
蒼井柳二――。
多国籍企業『AOI』の御曹司にして後継者。後継者としての教育によって疲れ切り、物事を静止的に見つめる傾向を持つ寡黙な男。自分の努力を親から褒められず、自分に自信を失くしかけていた所を主人公によって自信を取り戻すようになる。昔、会社の合併の都合上、親から婚約者として桃山絵梨菜を紹介された。
橙堂藍染――。
名のある武家の家系を持つ橙堂家の当主を父に持つ愛人の子。母を病気で失くしてから当主の計らいにより橙堂家の屋敷に住まわせているが、本妻やその兄弟達によって肩身の狭い思いを受け続けている。本人には武道の才能がありつつも、暴力を嫌って人前ではそれを振るわないが、それが拍車をかけて次期当主に相応しいと父親が見ているため、悪循環に陥っている。主人公と触れ合う内、彼女を守りたいと考えるようになり、彼女のためにその武を振るおうと誓う事になる。
緑川葵――。
主人公と直接接点を持つ幼馴染。偶然にも私立楠賀美学院に一緒に入学する事になる。高校生とは思えない少年らしさが特徴的であり、幼い頃に名前やなよなよしさで『男女』とからかわれていた所を主人公に助けられ、以来微かな恋心を抱いている。彼女のために男らしくありたいと考えてはいるが、中々実行できずに本心を伝えられずにいる。ゲーム内でも攻略が四人の中で一番簡単だと知られている人物であり、イージーモードの方にはお勧めキャラ。
長いわ! これを説明させるだけでどんだけ時間をかけさせるんだよ!
あと一人攻略キャラがいるけど、そいつが教育実習生だっていうんだからふざけた話だ。本物のロリコン(一応予備軍)を説明してやる時間なんて作ってたまるか!
学園は唐突な合併による男女共学によって興奮と冷静な反応が飛び交っている。僕のクラスだっていきなり男女が混ざったからお互いどう接していいか考えるまで時間がかかる様子だった。教室全体使って左右に男女を分ける光景って男子校で慣れていた僕からしたら斬新だったよ。
「これもう分かんないなぁ…」
これから一年後、主人公――虹音百合――は特待生としてこの学園に転校してくる。そこから本格的な物語が始まるんだけど、何の対策も思いついていなかった僕にはこれからどうしていくべきか判断もつかなかった。
「…大丈夫だ、まだ一年ある。うん、きっと大丈夫――」
「丹…君……?」
あぁ、そうだった。
この学園が物語の舞台だと解った以上、『彼女』もここにいるんだ。
ほんと、全部台無しだよ。どんな思いで彼女を送ったのか意義が分かんなくなっちゃったよ…。
「丹君だよね! 覚えてる? 私だよ、絵梨菜よ! 中学生の途中まで一緒だった桃山絵梨菜! わ~こんな所で会えるなんてすごい偶然!!」
――本当に…どうすればいいんだろうか……。