中編10
神は悪人を許しはするが、けっして永劫ではない。
――『ミゲル・デ・セルバンテス』
子供の頃、ヒーローに憧れた人は数えきれぬ程この世の中では溢れているだろう。憧れは正義心と変わり、今なおヒーローを心のどこかで目指す人も少なからずいる。
たとえ怪人を倒すような圧倒的な力が無くとも――。
たとえ災厄を打破する作戦を生み出す知恵が無くとも――。
人は規模に関係なく、世の中のためになる事をやりたいと願う瞬間が多いんだ。
でも、気をつけなければならない事がある。行動や自由には必ずしも『責任』が伴うという事を…。
結果が良い方向になると信じて行った行動の結果が最悪を導いた場合、そこに『もしも』は通用しない。善意による結果だとしてもこれに大差はないんだ。
それが分からない人は大抵が『選択する』という行動の重要さを理解していない。
選ぶという事は一方を得るためにもう一方を捨てるという事。もしこれが不服だと申し立てるならば、現時点で取り組んでいる物事よりさらに大きな物事での選択をしなければならない。
数の集合さ。1か2を選ぶ物事で両方を選ぶ方法を取るならば、1と2か3と4を選ぶ方法になる。欲張り続ければ続ける程、物事における選択は指数関数のように増えていく。多くを求め続けた先に待っているのは身の程をわきまえないが故の破綻。
ただそれだけなんだ。選択=可能という法則を間違えたら全てが無駄になる。
でもね、人っていうのは大抵が『歪』な本性を抱え込んでいる。
現実はそう簡単じゃないって事を分かっているから、難題にあえて挑戦しようという志を持つ人が圧倒的に少ない。ひたすらリスクを心配しなくても良い楽な選択を取る人で占めているからだ。
おまけに文明という物は世の中を便利にした分、人の情熱や意欲という人そのものが抱く性質を退化させていった。退化の果てには物事を理解する事さえ単純にしていき、自分で答えを導き出す能力は昔のような精密さはもはや存在しない。
はっきり言おう…。
――世界は病んでいる。
生まれ変わってもこの答えは変わる事はなかった。
けど、僕はこんな世界を今ほど望んだ事はない。たとえ歪だとしても、大多数が正義だと言い張るならそれは正義となるような馬鹿らしい仕組みを作ったこの醜くも美しい世界を…。
「…………」
512 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:07.29 ID:u8pq394f)
渋橋駅の交差点にてあの女発見! さっそくうp HeSxXEV.jpg
513 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:07.41 ID:nqiok;nvs1
お、今このスレで話題になってるビッチ女か。でかした!
514 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:08.28 ID:oik2894pf
俺新参者なんだけど、>>512の写真の奴って何やらかしたかkwsk
515 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:09.17 ID:nqiok;nvs1
過去レス嫁JK
516 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:11.56 ID:23wgbioj./
知った情報順番バラバラだけど自分的にまとめれば…。
Y県▲▲市にあるT高校で陰湿な虐めしまくって有名だった性格最悪女がT県▲▲市にあるK学院に転校
↓
姿だけは美人だからここでも男侍らし放題。しかも彼女持ちでも例外なく→ここでビッチ認定
↓
とある彼女持ちの彼氏を略奪するため、嘘ついてその彼女を悪者に仕立て上げて虐め始める
↓
その成果あって見事彼氏略奪(彼女さんおかげで自殺しようとしたらしい)
↓
でも何かのきっかけで嘘がバレて学院中に干され始める
↓
逃亡中(現時点ここで家には帰ってきていないらしい)
とりあえず、ざまぁwww
517 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:12.21 ID:oik2894pf
最低だな、このビッチ…。あと>>516サンクス
518 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:13.46 ID:u8pq394f)
>>125からソースが始まってよくここまで発展したな
519 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:16.29 ID:109eap4;/;:
俺、このビッチの転校前の高校の卒業生なんだけど、あ…当時俺三年ね。その女一年の時から凄まじかったよ。顔はこんなに可愛いのにな… 24MKRGASAYK._SS100_.jpg
520 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:19.11 ID:-p;,;3dgvsa
ちょwwwもろタイプ!
521 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:19.59 ID:waiov2n.//s
でも中身はビッチ臭漂うキャバ嬢以下。世の中ままならねぇな。
「単純なやつらばっか…」
僕は今、ずっと前に訪れた場所とは違う別のネットカフェにてパソコンとにらめっこしていた。
ちなみに警察の捜査では犯行現場や目撃現場を地図上で記し、これらを点と点で結び合わせて円を描き、犯人の行動範囲を定めるという方法がある。
これを考慮して、僕も地図から計算して中心部とは関係ない場所となるネットカフェを選んである。最後まで完遂するために用心を重ねるに越した事はない。
パソコンの前に立ったら後は前から用意しておいたホームページのアドレスを打ち込み、会員登録で作り上げていたIDとパスワードを使ってログイン。このサイトを使うのは実質これが初めてだ。
かれこれ何時間もこうして更新ボタンを押して様子をうかがっている。済ます事は既に済ましたせいで後はほとんど暇なんだ。退屈でどうしようもない。
ここは近頃、ニュースで出てくる『ツキッター』やらのコミュニケーション・ツールにおける犯罪行為の自慢や問題発言を行った特定の人物や、書き込み者の身近にいる社会的問題行為を行った人物を干し上げる…いわば『正義気どりの連中』が騒ぐ会員制掲示板サイトだ。
連中のやり方は性質が悪い。世の中をリンゴの樹と例えるならば、悪人は腐ったリンゴ。連中は自分達の行いがその腐ったリンゴを切り落とし、リンゴの樹を守れると本気で信じている。だけど行い自体が間違いだ、リンゴどころか葉も枝もまとめて乱暴に引き千切っているのを全く分かっていない。
悪人にも家族や親戚、それに恋人や友達が…いるかどうかは知らないけど…関係者はいる。真面目に暮らしていたのに、ただ悪人の関係者というだけでいきなり白い目で見られるようになるというのは理不尽極まりない。悪人の存在が彼らを苦しめているのではなく、むしろ縁もゆかりもない野次馬が彼らの苦しみの根元と言っても良い程だ。
特に僕がそんな連中に腹を立てるのは関係者を苦しめる際で述べる理由が『~だから仕方がない』という身も蓋も無い、後付けの理由などいくらでも作れるような代物だからだ。まったく品性の欠片もないね。
(僕も人の事は言えない…けど、今までの件に関する責任は取るよ)
543 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:27.02 ID:23wgbioj./
この女への人誅(屮゜Д゜)屮カモーン
544 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:29.40 ID:38erinj\:a
こんな事もあろうかと風俗関連業者にこの女の情報垂れ流し済みでーす
545 名前:名無し:20**/*/*(◆) 00:15:30.27 ID:-p;,;3dgvsa
地獄へのカウントダウンがアップを始めますた
僕がやった事はただ、そんな中身の無い正義執行に飢えているハイエナ共に『盛り付けた餌』を与えてやっただけ。
案の定、嬉々として餌(情報)に喰らい付いた連中は勝手に盛り上がり始めていた。餌に群がる獣どころかまるでウィルス培養そのものだね。予想以上の速さで拡散と増殖を続けているし…。
もちろん、予防策も張ってある。楠賀美学院における他生徒の個人情報といった物は絶対に流れないように大人達が頑張っている筈だから、絵梨菜や攻略キャラ達の情報が絶対一般に漏れる事はないよう動いているのを利用させてもらった。
でも、あの女の情報は『転校前』の高校における素行が残っている。そこまでは直接、学園の深い部分には関与しないし、隠す必要はない。ただ、『楠賀美学院で転校前の時と同じような事をやって追い出された』という見解でまとめられている。
後、あの女の家族への考慮だけど…上記の書き込みの中で真偽は定かではないけれど、同じ高校に通っていたという物があるね。要するに周りはあの女の素行を知っていたという訳だ。
当然、家族の方もその高校の担当から聞かされていた事だろう。浅翠経由の情報で調べたところ、あの女が元通っていた高校は学校ぐるみで虐めを保身で隠すほど悪どい類ではなかったからね。注意をするべくあの女の家族に何度も電話したり直接うかがって話をしていたくらいだった。
…とは言っても、あの女の転校自体から薄々と違和感を僕は感じていたんだ。
ただ、あの女の両親が本当に仕事の都合上で元々の問題とかち合って転校を決めさせたという形のせいで『追い出された』という事情には発展していなかったらしい。
そこが『ミソ』って訳だ。よくまぁ楠賀美学院に転校出来たもんだよ。大した裏技だこと…。
家族の方も娘が問題起こした場所から離れればノーカンな認識だったのかな?
「本気で叱ってやってれば、少しは変わってたのかもね…」
もう過ぎた事だ。瑠璃恵にはあの女の両親には「できるかぎり迷惑をかけないように便宜を図った活動をしておくように」と団員達に忠告してもらうよう頼んでおいた。
ただ、瑠璃恵は「御自身の娘が起こした事に親として何の反省が見られなければ徹底的に潰す事にいたしますわ!」と笑顔で返されたけどね…。チャンスは与えておくのは忘れない――次は無いと思う意味だ。
ただ、あなた達の娘はもう駄目だ。自分の起こした物事における責任から逃げ出した。
助ける義理はない事を頭に入れて置いてください。それこそ彼女が本意でないとしても選んだ道です。
道中、どんな『不幸』に見舞われていても因果応報と捉えておいてもらいたい。
僕はもう見る必要のないパソコンの電源を消し、店から出る事にした。
これ以上、都合の良い部分しか知る事をせず、本気で真実を求める気もないまま『正義の使者』を気取って話題の悪人に裁きを下そうと盛り上がる連中の馬鹿騒ぎを見ていても時間の無駄だからだ。
さぁ、同類さん。君の大好きなゲームがこれから始まろうとしているよ。
今度は学園どころか国中を巻き込んだ『現実社会』という世界観で数えきれないシナリオをこなすんだ。
もちろん、主人公は君だ。嬉しいかい?
だけど、他キャラは数えるのも億劫になるほど出てくるから名前を全部覚えるのは不可能に近いかもね。そもそもこのゲームは乙女ゲームではないんだし…。
それじゃあ『死ぬまで』楽しんでいってよ。
“悪役”主人公の転落劇をたっぷりと…ね――。
――――――――――――――――――――
(何で何で何で――っ!! どうして私がこんな目に遭わなければならないのよ!?)
あの学園にはもう居られなくなってしまった。来る日も来る日も名前も知らない大勢のモブ達にしつこく桃山絵梨菜の事を責め立てられた。
頼みの綱だった柳二君には「もうお前の傍にはいられない」と一方的に拒絶の意を表明され、以前のように助けに来てくれる事もなくなった。私の仲間はどこにも存在しない。
そればかりか、あのモブ達は私の家にもやって来てママとパパに余計な事を喋っていった。
「百合ちゃん…どうしてまた……」
「…お前が私達の娘である事をこれほど後悔した事はない。もう二度とあんな事はしないとお前は誓った筈だ。それなのに――」
うるさいうるさい! 本当の私なんて全然知らない癖にっ!
せっかく主人公の両親という立場に付いている癖して私に意見しないでよ! あのまま攻略キャラと上手くいってればその後のあんた達にも待っていたのは薔薇色の人生だったのよ!
今までのように小まめに働いているだけじゃあ手に入らない生活を一気に掴むチャンスがあったって事を知らないくせに私を責めるなんて…立場を弁えなさいよ!
(桃山絵梨菜! 絶対あの女が何かやったんだわ!?)
そうじゃなければあそこまでゲームのシナリオが狂う筈がないもの。きっと私に虐められた事を根に持って自殺しようとする前に誰かに私の計画をめちゃくちゃにするよう指示したんだわ!
そうなると考えられるのはいつも金魚のフンのように付き添っていた桜小路瑠璃恵か柊浅翠のどちらかが彼女や私と同じ転生者だったのかもしれない。それともひょっとしたら両方とも!?
何よ、この世界は『Only My Maiden ~君だけに送る物語を~』でちゃんと自分の役通りに動くのは当たり前じゃない! 主人公は私であなたは悪役ヒロインだっただけでしょう!? 神様は主人公である私のためにこの世界を用意してくれたんだから。
(シャワー浴びたいなぁ…)
碌な人生しか送ってこなかった私は絶望して飛び降り自殺し、次に目覚めたのは私が生前大好きだったゲームの世界。今までの私の不幸を報わせてくれるかのようにこんな奇跡を用意してくれる神様に感謝した私は今まで出来なかった分を取り戻すように好きなように生きてきた。
前世とは全然違う可愛らしい容姿はすぐさま私を人気者とし、誰もが私の事を担ぎ上げてくれた。これに嫉妬してきた生意気な女子にはちょっと周りの男子達に『お願い』して文句を言ってこないようにしたけど、それでも私に対する目が気に入らなかったから今度はそんな目をする気も失せるくらいに徹底的にしてやった。
あの時は別に虐めてたつもりじゃないもの。私の知らない所でエスカレートしていった男子達が一番悪いわ。ただ私に対する気持ちを改めて欲しかっただけよ。
でもきっと、あれはゲームには載っていない主人公が楠賀美学院に転校するために必要なイベントだったんだわ。楠賀美学院の転校が唐突に決まった時、私が辿るべき道に運命を感じたのよ。私のために世界は動いているんだって…。
現にママやパパだって当時は不思議なくらいに何も咎めなかったもの。ただ少し注意してきただけだったし…。
それから学園に来て着々とイベントを進めていき、大事な時期に迫った頃。
悪役ヒロインの桃山絵梨菜が何のリアクションも起こさず、それどころか人気者になってるなんて事実。その時の私の焦り様を考えてみなさいよ…私の努力が全部台無しになるなんて絶対認めたくなかったわ。
だから物語の流れを元に戻すため必死で動いたんだから…その後で桃山絵梨菜が自殺しようとするなんてゲームのシナリオにはどこにもなかったから焦ったけど、別に死ななかったんだから別にどうにでもなるでしょう。
でもシナリオになかった出来事が起きていた時点で私と同じ転生者の存在をはっきりと認識していた方が良かった気がするわ。向こう側自体がゲームとは違う動き方をする意思があるんだったら私の協力者としてちゃんとイベントが進むよう頼んでおけばよかったもの。
ま、後の祭りって事よね…それよりも……。
「お腹減ったなぁ…」
家を飛び出してから私は隣町に留まっていた。数日の間でホテルに泊まった料金とこれまでのご飯で使ったお金でなけなしの所持金が底を付いていた。
もう宿に泊まる事もご飯を食べる事も出来ない。今後の予定も決まらない私はネオンの輝く夜の街で一人途方に暮れていた。
まだ夏の蒸し暑さが微妙に残る空気が私の肌をじっとりと汗で湿らせていく。これが堪らなく不快感を覚えた。
私は典型的な家出娘と化していた。家には両親にああ言った手前、意地でも帰りたくない気分だ。
「なーにやってんの?」
ひもじさを紛らわすべく上の空でいたところ、唐突に声をかけられる。顔を横に向けるとそこにいたのはいかにもネオン街にいる人間として相応しい格好をした男だった。金髪にピアスという俗に言う『チャラい』風貌だ。
「…ほっといてよ」
「そんな事いってもねぇ…店の入口傍で蹲ってられるとこっちも結構気になるんだよねぇ?」
私は振り返って確認してみると、何気なく背を預けていた壁はどこかのバーらしき名前が付いた建物だった。
「君って…ひょっとして家出っ娘?」
「関係ないで――!」
男を追い返そうとして怒鳴る途中、私のお腹から“クルルル~!”と何とも可愛らしい音が鳴った。
「あははー! なるほど、お腹が減ってる訳だ」
予期しなかった痴態に顔を染めつつ、私は“キッ!”と男の事を睨んだ。
対して男はそんな私の睨みに怯む訳もなく、相変わらずニコニコと笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
そして、彼は私の方を向きながら店の中へと入っていこうとする際、こう言った。
「余り物でよければウチの店で食べていかない?」
私は怪しさを漂わせる目の前の男を警戒する。
けど、これまでの疲労やストレスによって私の身体は限界に近い。
「…お金なんてないからね」
結果、しぶしぶといった感じで私は彼の好意を受け取った。
それから数日後、あの時の事をきっかけに私はこの店で雑用として住み込みで働かせてもらっていた。
学園にいた頃はバイト禁止という校則に則ってしていなかったけど、今の私には学園と関係ない身。生きるためならそんなルールをわざわざ守ってやる道理はないもの。
あの男――由良斗さん――は意外にもこの店のオーナーだった。
ヘラヘラとした笑みをいつも浮かべているけど、仕事の腕前はしっかりとしていた。人は見かけによらないってこういう事をいうのね。
本当に由良斗さんには感謝している。あのまま拾われなかったら私、本当にどうしたら良かったか分からないままだったもん。家に強制的に戻されるのだって望んでなかったんだもの。
「百合ちゃん、ちょっと俺用事がこれからあるから奥の部屋で待っていてくれないかな?」
「あ、はーい!」
バーの活動時間帯は主に夜だ。
朝は掃除や仕入れで忙しく、夜になるとカウンターの裏方へ回って料理の配膳を行っている。
前世でレストランのバイトをしていた経験がここで生きたわ。おかげで由良斗さんに褒められちゃった。えへへ、嬉しいなぁ…。
学園にいた時と違ってこんなにも生き生きとしたのは久しぶり。今までゲームの主人公として決められた行動を取り続けていた事に薄々と窮屈さを感じていたから…。肩の荷が下りたって事なのかな?
このまま、全てを忘れてここで働きながら新しい生活をしていくのもいいかもしれない。ゲームよりも現実が楽しいって初めて気付くなんて…。
あの桃山絵梨菜もこれに気付いていたのかなぁ。
…だとしたら私、悪い事…しちゃった…かな……。
店の奥へと入る中、私は今までの自分を振り返ってみた。
すると、思うべきところが数えきれない程出てくる。しだいに自己険悪の感情が心の中で燻り始める。
「…私は――」
その時、身体が突如と浮いた――。
いや、誰かが私の身体を掴んで――。
そのまま私は乱暴に床に転がされた。
「げへへ…静かにしろよ」
目を開けた先に映ったのは見るからに悪人面といっても差支えのない人相の悪い男。
私は突如として現れた男にそのまま口を強引に手で塞がれ、身体の自由を馬乗りになって奪われてしまう。
「……っ!?」
「大人しくしてれば直ぐに済むからよ」
気持ち悪い手つきで私の身体を弄り始める男。そのまま暴力のまま服を引っ張って脱がそうとしてくる。
その時、口に押さえられていた手が緩む。私はその隙を付いて大声で助けを呼ぶ。
「誰か! 誰か助け――っ!!」
でも、その声は顔に強烈な痛みが走った事で中断させられた。
殴られたんだって事が目の前で伸びきった腕を見せる男の姿で理解した。
「黙ってろっつってんだろガキ、お前には高い金払ってヤらせてもらう約束をしたんだ。その分気持ちよくさせてもらわなきゃ困るんだよ」
「かっは…っ」
呼吸が整わない中で言われた言葉。
私は何が何だか分からないといった顔をした。これを読み取ったのか、男は下卑た笑みを浮かべながらおかしそうに言う。
「どうやら知らねえようだな。あのオーナーはお前が思う以上に悪党だぜ? お前みたいな家出中のガキを目に付けては優しい言葉で店に迎えて、しばらくしたら売春のために金に換えるのさ」
――え…由良斗さんが……?
――嘘…冗談…よね……?
「あいつのせいで犠牲になった女は結構いるって話だ。ま、俺もやつに「今回は『おもしろい』のが入ったから手を付けてみますか?」って勧められたくらいだしよぉ」
――そんな…そんな……
「安心しろって、最後はちゃんと気持ちよくなるさ。それに、話によればお前、何人もの男のを咥えた経験があるって話じゃねえか。よっぽどの淫乱だな」
――違う! 私はまだ誰にも身体を許してなんか――。
「よっと、その前に…へへっ……」
――何よ、それ…注射器じゃ……。
「こいつ打てばぶっ飛ぶくらい感じるようになるんだぜ? 一度使ったら病み付きになってたまらなくなるぜ」
――い、いやっ! そんなの近づけないでっ!!
――こんなのいや! 違う違う違うっ!!
――望んでなんかいないわ!!
――止めてっ!!
――お願い止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めてっ!!!!!
――いやああああ"あ"あぁああ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ああ"あああ"あっ!!!!!
後悔は…もう遅い……。