中編9
子供の態度は家庭そのものです。その家庭を知りたかったら、子供を観察すればすぐわかります。
――『ジョセフ・マーフィー』
――流れが変わった。
今の学園を言い表すならばこの一言に尽きる。これまでは対称的な性質の流れが互いに拮抗した状態でいたけど、その拮抗が崩れた今では当初とは逆のベクトルに変換していて、途方もない力の大きさで一方的に攻めている。
『盾』を失ったあの女はこれを生身一つで受けなければならない。柔な心では到底たえきれる筈もない力を…。
身体の傷はいつか癒えても、心の傷は一生癒える事はない。深ければ深い程それはなおさら…。
学園では瑠璃恵の団員が『私情』であの女を呼び出して何やら大切な話をしている光景がちょくちょくと見られるようになっていた。話の内容は…聞けば男の場合、今後異性と付き合うのを躊躇うようになる可能性が浮かぶ物だ。
砕けて言い表すならば『女って怖い』となる。
あの女に対する『勝手な行動』を認めず、耳に入れればすぐさま飛んできた柳二もこの頃、行動にハリが見られなくなった。いや、元の寡黙な態度に戻ったと言うべきかな?
浅翠によれば、柳二は近頃あの女を避けるようになったという話が出てくるくらいだ。先ほど述べたようにあの女が女子達に絡まれていても、気まずそうに目を逸らしてどこかへと去っていってしまうとの事だ。
明らかにあの女との間に何かがあった事が僕には想像できるけど、部外者である僕には彼らの内情を詳しくは探れない。だけど明らかに関係があるとうかがえる話は浅翠の話から聴取できた。
柳二の会社で一部的――会社としてはだが人数は数十名――な人員配置の変更が唐突に執り行われた事――。
近いうちに柳二はこの学園を自主退学という形で辞めるという事――。
誰の思惑が働いたかは話を聞けば明白だった。いわば『柳二の関係者で上の存在』の仕業だ。つまり柳二の父親か母親あたりが動いたのだろうと僕達は当たりを付けた。
どうやら彼らは理不尽を認める気は起こさなかったようだ。
むしろ安心した。黒を全て白だと強引に言い張る輩だったら僕はとんでもない相手と鎬を削り合う羽目になったかもしれない。勝ち目の低い戦いに駆り出されていたかもしれないんだ。
でも、勝ち目を上げるためには『何だって利用する』覚悟を決めてはいた。僕の身勝手な行動で出たであろう犠牲者を出さず、最小限に抑えられたのが何よりの救いだ。
好き好んで大悪党になりたがるやつはいない。ただ実現したい目的があるだけ…。
この復讐は飽くまで絵梨菜を貶めようとした連中を叩き落とす事。特に元凶は地獄へ引きずり落とすつもりだ。僕にとっての必要最低限はそこであり、それ以上を無理に求めるつもりはない。復讐という行為に快楽を感じるようになってしまったらこの目的の意義は終わる。
「…ようやく追いついたよ」
僕には時間がないかもしれない。
なんたってここまで大きく動いたんだ。
表立たず、良くて証拠と呼べる物も最低限にしているとはいえ、捜査で『僕』という一連の出来事の黒幕に繋がる推論が出てくるのはそう遠くない未来かもしれない。僕は完璧な人間とは程遠いって事を良く理解しているからね。
何かしら僕の知らない部分から『ボロ』が出てくるって事は元から想定しているんだ。だから捕まる前に終わらせようと決めている。いや、たとえ捕まらなくても僕は…。
――止めよう、今は専念すべき事に目を向けるべきだ。
僕はしだいに追い詰められていくあの女の姿を遠目に拳を固く握って決心を深めた。
その一方、絵梨菜の退院はもうすぐとの話だった。医師による検査では後遺症も見られず、順調に回復しているらしい。
ただ、手首に付いた傷跡はうっすらと縫合跡が痛ましく残っている。後で切除手術による形成で傷を消す事は出来るけど、絵理奈はそれを拒んだそうだ。
なんでも「あの時の自分ときちんと向き合うためには傷は残しておく方がいい」との言葉だ。
彼女なりに思う所があったんだろう…瑠璃恵は頑なに傷消しを推奨していたけど、絵梨菜は『けじめ』だと言って考え直す事はついになかった。
今でも絵梨菜の手首にはミミズ腫れのような三本の傷痕が残っている。僕にはそうする事が正しいのかどうかは判断できないけど、彼女の意思に従う事にした。
さて、今日はちょっとしたサプライズを用意してあげたんだ。喜んでくれると嬉しいな。
僕は『彼ら』を引き連れながら病室へ向かう。やれやれ、ようやく予定が合う日時が決まったもんだから色々と準備が大変だったけど、これで報われるというものだ。
「やぁ、元気?」
僕はいつも通りにノックをしてから病室へと入った。パントマイムをやるように上半身だけをドアから出して横姿勢でおどけたまま手を振る。これに絵梨菜は面白いからか笑ってくれる。
「良いみたいだね。それじゃあ…入ってきなよ、『皆』」
一発芸が済んだところで僕は皆を呼ぶ。良く考えると約四年ぶりの再会になるんだよねぇ。
「絵梨菜ひっさしぶりー! もう体調は大丈夫なの!?」
「えりっちだー! うわー懐かしすぎだよ!」
「よぉ、桃山。元気だったか?」
「私なんか色んな課題の提出日が明日なのに…でもまた会えてうれしいです。桃山さん」
「雛菊さん! 桑ちゃん! 圭君! それに椚さんも!?」
絵梨菜にとって中学二年まで共に過ごした同級生。僕は地域の関係上、たまに交流があったけどこうして特に親しかった人達が一か所に集まるのは今回が初めてだろう。『起きている』絵梨菜に会うのも皆には初めてとなるかな。
まだ意識不明の状態でいた頃に僕とは違った日時で面会に来ていたそうだ。メールでそれは確認済みだ。
病室は小さな同窓会が開かれる事となった。
ここに来る際、僕は皆に「どうして自殺を図ろうとしたかは敢えて聞かないでやってほしい」とお願いしたんだけど、そこの重要さは基本的に理解しているおかげでごねる心配もなかった。
しんみりした雰囲気は似合わない。今日は目一杯楽しむべきだ。
「えぇ! 圭君ってあの有名な成明大学に受かったの!?」
「そうなのよ、この馬鹿にわざわざ勉強付き合ってやった私も鼻が高いもんよ!」
「いやいや、最終的には問題集理解できなくなってたのお前の方じゃん」
「あぁん、文句あんの?」
「いえ、ないです!」
「それにしても、昔に国語の授業で団塊を『だんこん』と読み間違えたせいでしばらくあだ名が●●●マンにされてたあの圭司君がねー…」
「うおぉぉぉぉいっ! 白水、その黒歴史は語らないでくれえぇぇぇぇっ!?」
あんな事もあった。こんな事もあった…。
懐かしい思い出話に僕達は花を咲かせていく。
「どうですか? これが私の可愛いペットの写真ですよ」
「うわー大きい!」
「あのイグアナがここまで大きくなるなんて…。あの少し大きいカナヘビっぽいのが人間の赤ん坊くらいの大きさにまで成長するんだ」
「あ、ちなみに名前はカズシゲです」
「名前渋っ!?」
思えばあの学園では規律が多い事もあって中学みたいな馬鹿騒ぎが起きる事はほとんどなかったな。あの女が転校してくるまでの話だけど…。
子供でいられるのは本当に短い。環境によっては信じられない速さで大人としての自覚を背負う人間も出てくる。たとえ身体と心が釣り合っていなくとも、だ。
僕も歳を取った…。環境によって年齢に沿った子供らしさを携える事は可能としたけど、僕の根底は前世における道徳や理念と現世での経験を加えた混合物だ。唐突な出来事に迫られるとふとした拍子で『素』が出てくる。
「二丁目の空き地で冬に雪合戦した時、桑原があんまりにも弱いもんだから皆で集中砲火した事もあったよな?」
「あー思い出した。圭司君ってあの時、石を入れた雪玉投げて僕に当てた事あるよね? あれすんごく痛かったんだからね!」
「それを雛ちゃんが怒って土を混ぜた雪玉を圭君の顔面にクリーンヒットさせちゃったっけ」
「…あー圭司、今だから謝るんだけど、あの時混ぜたの土じゃないの」
「どういう事、雛菊さん?」
「あれ…たまたま道端に落ちてた妙にデッカイ犬の…『あれ』よ」
「……うわっ」
「圭君!? 圭君!? なんかすごく顔が真っ青になってるよ!?」
「雛菊さん…それはないよ……」
「あーその、ごめんなさい…」
それにしても、子供って予想以上に元気なんだよね。二度目の小学生生活を体験して始めに思った事がそこなんだけど…。僕も本当の意味で子供だった前世の頃でもこれくらいはしゃぎ回ってたのかな? あまりに長い時を過ごしたせいで前世の幼い記憶は曖昧になってしまっているんだ。
僕達は昔話にも話が弾み、いよいよここからが本番と言わんばかりに昂りを煽っていこうとした。
…と、ここでノックの音が“コンコンコン!”と響く。
看護師が検診に来たのだろうか、それとも瑠璃恵達が…?
僕が予想を立てる中、絵梨菜が「どうぞ?」と真っ先に返事を返すや、ドアはゆっくりと開かれた。
入って来た人物を見た瞬間、僕と絵梨菜は目を疑う事になる。
「…身体の調子はどうだ、絵梨菜?」
威風堂々とした風貌を持つ壮年の男。革靴特有の“コツコツ”とした音を鳴らしながらこちらへと近づいて来る。彼が着ているこだわりのある生地で作られたスーツを見るだけでただ者ではない事が友人達も感じ取っている。
――どの面下げて今頃やって来た!
僕は本心ではそう叫びたかったけど、ここが病院という手前、あえてこの想いを押しとどめた。
目つきは険しくなっているかもしれないけどね。
「お父さん…」
そう、男は絵梨菜の父親だ。
自分の娘の言葉を信じもせず、それよりも会社の継続の方を心配するような…事情を知る人間ならば大抵が『父親失格』の烙印を押しても文句は言えない男。
僕は『あんな事』があったのに、相変わらず何を考えているのか分からない表情でやってきた絵梨菜の父親を軽蔑する。悪びれもせず、まるで「仕方がなかった」という風な態度をしているようで腹が立った。
そのまま僕達がいるのを気にしないまま、絵梨菜とその父親は静かな会話を始めた。親子との会話とは思えないような冷めた会話を…。
絵梨菜は優しすぎるよ。さっきから形式的な謝罪をしているようで本当に反省しているのか疑わしい父親の言葉に「気にしなくて大丈夫です!」と元気な励ましの言葉を含みながら返している。
そんな事する必要はないのに…。素直に罵ってやればいい。絵梨菜、君にはそうする権利がある。
だけど、やらないんだね…。君は全てを許そうとしている。恨みや憎しみを自分の中で強引に消化し、納得して、君は「本当に悪い人間はこの世にはいない」と催眠紛いな結論を出す事でね。
でも僕にはどうしてもそれが納得できない。人は生まれた時は確かに純潔だ…でも生を紡ぐ中で『業』を積み重ねる機会は無限に存在する。
あの連中は業を積み重ね過ぎた――それだけの話だ。報いを受けなければならない。
罪には罰を…この単純な原理を力で強引に捻じ曲げ、逃れようとする輩を僕は元ある流れへと追い返してやる。
不条理を認めるつもりはないからだ。
僕達が沈黙して絵梨菜を見守る中、父親の方からある話が絵梨菜へと持ちかけられた。
「絵梨菜、手首に付いている傷の事だが…今度私の選んだ傷消しの専門家として名高い形成外科医に治療を依頼する事にした」
「えっ…」
「自殺をしたなどという証拠をわざわざ残しておく事など恥でしかない。蒼井柳二君との婚約は破談になったが、お前には今後も縁談が来る機会に関わるだろう。その際に『傷持ち』などとあからさまに知られる要素を残していては圧倒的に不利になるからな」
「あの、お父…さん……?」
「安心しろ。あのような相手は二度と選ばぬように今度は私も慎重さを重ねるとする」
もう…我慢の限界だった。
僕は椅子から立ち上がろうとする。目の前にいる『無知者』に今、どれほど愚かな行為に及んでいるのか身体で分からせてやろうと考える。
しかし、それは未遂に終わる。
「いい加減にしろよおっさんっ!!」
僕より先に圭司が飛び出したからだった。
「さっきから自分勝手な事ばかり抜かしやがって! そんな事より絵梨菜に先に言うべき言葉があるんじゃねえのか!?」
「圭君、止めて…」
「何だね君は? これは私と娘の問題だ。部外者は黙っていなさい」
「知るか! 俺はこういう場合、ガキでも分かる言うべき言葉を出せないやつってのがどうも我慢ならねえんだよ!」
「圭司、落ち着きなさい!」
雛菊がとっさに圭司を抑えつけた。そうしなければ今にも殴りかかりそうな勢いだからだ。
だけど、僕も圭司の意見には賛成だった。先に言わなければ僕が代わりに言っていたね。
「何で謝らないんだよ! あんた絵梨菜が変な疑いを持たれてた時に信じてやらなかったんだろ!? そこに思う所は何もないって言う気かよ!」
「…上の人間からの言葉だ。立場上、無得にする訳にはいかなかっただけだ。信憑性も高いと思っていたばかりに迂闊な判断をしたと考えている。だが私も部下を持つ身であり、真っ向から反対すれば彼らに迷惑をかける心配があった…しなくても多大な影響は受けたがね……」
「あぁそうかよ! あんたは家族よりも会社を選んだ訳だ。まったくひでぇ父親がいたもんだぜ!」
「…否定はしない」
そういう生き方しか出来ないと考えているのかい?
そんな物は自己欺瞞に過ぎないって何故気がつかないんだ。全ては無理だとしても、ほんの少しだけ変えられる部分があった筈だろ?
娘の愛し方を不器用にする必要なんてどこにもないじゃないか。
「私は父親になるべきではなかったのかもしれん」
「どういう意味ですか?」
雛菊が問いかける。
「私には…『父親』とは何かを全く理解できないからだ。妻が絵梨菜を妊娠した頃からずっと父性という感情を実感できた試しがなかった。妻とは結婚後でも仕事だけに専念し、出来るだけ顔を合わせないようにしていたのが殆んどでな…元より妻とどう触れ合っていけばよいのかさえ分からなかった身だ」
政略結婚だったからな。
まるでこの人には真実の愛を知る事は自分にとって未知の恐怖に思えて仕方がないといった感じだ。
だから、杏奈さんや絵梨菜を『家族』として直視する事ができなかったのだろうか?
――とは言っても、駒扱いにするのは違うだろ。自分の言いなりになる存在なんて単なる操り人形だよ。
彼女らは人間なんだ。どんなにごまかそうとしてもこれだけは変わらない。
恐怖が…この人を変えたのかもしれない……。
「だからと言ってあんたが絵梨菜にした事の弁明にはならねえんだぞ」
「分かっている。妻にも良く言われたよ…」
その人の浮かべた微笑には自身を嘲笑する意が含まれているように感じ取れた。
「…では、ここで失礼させてもらう。私にも時間があるのでね」
絵梨菜の父親はおもむろに立ち上がり、帰り支度を始める。
「おい、話はまだ終わってねえ――」
僕はここで圭司の言葉を遮るように手を挙げた。すると、いきなりの行動のためか反射的に口を止めた。
「それなら、形だけでも謝ってくださいよ。変な拘りがあるようですが、どうせ『ここまで酷い事をした自分には謝る資格なんてない』と考えて最後まで絵梨菜の中で悪者として心に残すおつもりですか? あなたが今、どうしているかは学園の友人からある程度聞いてますので…」
「…………」
「離婚、するおつもりですよね…杏奈さんと……」
「えっ!?」
まだ黙っていて欲しいと頼まれていたけど、致し方が無い。
こっちだって不完全燃焼のまま終わられちゃ後見が悪いんだからさ。
初めてこの事を聞いて驚愕している絵梨菜を後ろに僕は話を進めていく。
「最後まで嫌われるために縁談だのと、この場に相応しくない事をわざわざ言って…絵梨菜が後腐れのないように母親である杏奈さんへ親権を選ぶように誘導したりと…」
僕は先ほど、絵梨菜の気持ちを考えないこの人の言葉に怒った。圭司も同じ理由だろうけど、ただ一つだけ違う所がある。
「いつまで逃げているんです。家族と真剣に向き合わないで、何も打ち明けないで、これが正解だと本気で思っているんですか?」
僕と違ってこの人はやり直したいと心のどこかでそう思っているんだ。そんな人が贖罪として自己犠牲を選ぶのは懸念を抱いてしまう。
嘘は悪い事に使う物だ。何かを必死に守るために必要とする行為。
だけどこの人は使い方を間違えている。嘘でも人の幸せを作る事ができると思っている。それは明らかに間違いなんだ。
何時だって嘘で傷つくのは『ついた側』か『つかれた側』か『その両者』。それが全てであり、ただそれだけでしかない。その嘘が暴かれる羽目になれば尚更酷い。
「…言った筈だ。これは私達の問題だ。君達が口を出す理由は無い」
「ありますよ、僕達は絵梨菜の友達です! その友達が困っている時、手を差し伸べない理由はない。それに、僕達がこういう事を言うのは飽くまで絵梨菜の事を想って言っているだけであなたのためなんかじゃない」
「そうか…」
そのまま父親は帰り支度を続け、ついには病室から出ようと踵を返した。
「だが、これは君達が思う程単純な事ではない。どうにもならない事が世の中にはあるのだよ」
「……っ!」
「失礼する。本当に時間が惜しいのでね」
――その決断で良いと言うの? 失う物が大きすぎるんだよ?
ドアを開けた先、偶然はいつのまにか連鎖を起こしていた。
「――ぁっ」
「…お前か。来ていたのか?」
杏奈さんが病室の前に立っていた。傍には瑠璃恵と浅翠も寄りそっている。
「あの件はつつがなく進めるつもりだ。お前の好きなように条件を掲示してもいい」
「あなた…」
「では、私はこれで…」
彼は去っていった。まるで自分はこの場には相応しくないという『諦め』を漂わせながら…
後に残ったのは気まずい空気。余計な物を残してくれた物だ。
「お母さん、お父さんと離婚するって――」
「…事実よ」
微かな希望を託した絵梨菜の質問は無慈悲にも聞きたくない答えとして、たった一言が贈られる。
しばらく重い沈黙が続く。
「…ごめん皆、もう…帰ってもらってもいいかな? せっかく来てもらったのに本当に悪いけど…」
断れなかった。僕達はかける言葉が浮かばないまま、絵梨菜の願いを聞き入れるしかなかった。
僕達は病室から出ていった後、待合室で集まっていた。
あの状況をどうすればいいか、僕たちなりに必死で打開策を編み出そうとするものの、良い案が全然浮かびあがらない。
「ホント、どうすんのよ…」
「俺に聞かれたってよ…」
深いため息が零れる。
「白水さん、あの…ちょっと……」
そんな中、僕は浅翠に呼ばれる。
どうやらあまり大声で言いたくない事らしく、耳打ちで伝えてくる。
「実は、活動団体の一部が二日前、百合さんの自宅へ攻め込んだらしいんです」
「…えぐい作戦に出たね」
「そこから来なくなってるんですよ…」
「どういう事?」
そういや、あの女を学園で昨日から見なくなっていたな。
家に籠っているのかと思っていたけど、それは違った。
「百合さん、どうやら家出したそうなんです。欠席届も提出されてないからほぼ間違いないと思われます」
――檻から出たか。外が安全だとは限らないのに…。
「…そうなんだ」
――なら、僕の復讐は最後段階に入る時がようやく来たという訳だ。