9話:開眼
夜。紀乃が許可を取り、紀乃立会いのもと肝試しは行われることとなった。
「というわけで、くじ引きで、男女ペアを作る。そして、各自、自由に回ってもらうことになった」
良介の言葉と共にくじを引いた。出た数字は四。何か不吉な数字だな。まあ、気にしないのだが。
周りの奴らは次々にペアを作っていく。しかし、俺は、ペアが見当たらない。
キョロキョロと見渡してみると、マリアが一人、途方にくれていた。
「マリア、お前、何番だ?」
「あっ、謳さん。私は四番です」
と言うことは、俺のペアはマリアか。
「俺も四番だ。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします」
マリアが深々と頭を下げる。
「わ、私、こう言った、幽霊や妖魔の類は苦手でして」
七不思議の中で幽霊や妖魔が出てくるのは、せいぜい三個目くらいだろう。
妖精だの美女だのは、実際の人物の可能性が高い。幽霊の可能性は捨てきれないがそれもないと思う。
「そうなのか?」
「ええ。母も苦手だったらしいので性格が似たのでしょう」
「お~い。お前等。順番だぞ~」
良介の声が聞こえた。
俺は、少し震えるマリアを連れて、教室棟の方へ向かった。
暗がりの教室棟には言い知れぬ不安感を抱かずにはいられない。
いつもは、明るい時にしか見ないうえに、一人か二人は、必ずいる。しかし、夜の暗闇と誰もいない廊下は、不気味さを感じる。
何かがしがみつく感覚に、一瞬、驚くものの、すぐ理解する。
「おい、マリア」
「ひゃあわっ!な、なな、何ですぅ?」
慌てすぎだろう。
「いや、別に」
もはや、慌てすぎて、俺の腕に巨大な胸を押し付けて、俺は、その感触に心地よさを覚えていた。
柔らかい。弾力性がある。制服の上からでもはっきりと分かる。ふにふにとした感触が病みつきになりそうだ。
「きゃっ」
不意に、声を上げるマリア。
「どうした?」
俺の声に、マリアは震えた手で廊下の奥を指差す。
すると、パタパタと走る音が聞こえる。
「なんだ?」
俺は思わず息を呑んだ。すると前方から凄い勢いで、少女が駆けてきた。その瞬間、俺の動きは止まる。
まるで金縛りのように動けなくなる。マリアは未だに震えているが、何も言わない。一体どう言うことだ。この状態、まるで二個目の七不思議のような。
前から来る少女の眼は黄色に光っていた。妖しい光を漂わせている。あれは、確か……。
俺の頭に、過去に見た「眼」が浮かぶ。様々な色の眼。その中に黄色の眼もあり、確かあれは、【縛鎖】の眼。
俺と同じ、異能の力を手にしてしまった者か。あれは、危険能力に分類される相手を動けなくする程度しかできない「眼」のはず。
俺は、「眼」を働かせ、【縛鎖】の眼を解く。異能は、より強い異能に打ち消される。
すぐに「眼」を停止させ、前方から来る少女に聞く。
「何があったんだ?」
「なっ、何かあったのでしょうか」
マリアも声を上げる。……まて、何でコイツは、動けるんだ?俺は、打ち消せるとしても、コイツは……。
「な、なな、何で、貴方達、あたしの眼を見ても動けるの?あいつの仲間なの?」
「あいつ?」
あいつって誰だよ、と聞こうとしたが、それは、発砲音に遮られる。下手な撃ち方だな。
「あいつが来た?!くっ、あたしの力じゃ、長く停められない!」
何か面倒なことになったな。あれにコイツが追われているみたいだが。
「待ちやがれ!見られたんじゃあ、殺すしかねぇ!」
ああ、完全に向こうが悪いやつだな。それにしても五月蝿い男だ。
「ちょっと、貴方達、逃げないと死ぬわよ!」
「おい、追われてるあんた」
俺は怒鳴る少女に声をかける。
「何よ!」
「あれを殺せばいいんだな?」
俺の声に、怪訝に眉を寄せる。
「そうだけど、そんなこと!」
「できるさ」
俺は、「眼」を開ける。
その瞬間、俺の「眼」は、血の色に変わる。黒から紅に。
そして男は、消え去った。
まるでそこに存在しなかったかのように、血の一滴も散らさず。
そう、その血は、俺の「眼」が喰ったのだ。
もう、そこには何も残っていない。落ちているのは、一丁の拳銃だけ。
「貴方、一体……」
「謳さん……」
俺は、自嘲気味な笑みを浮かべ、言う。
「怪物、さ……」
その声は、自分で言うのもなんだが、酷く冷めた声だったと思う。凍え切った声だと思う。
「かい、ぶつ……?」
マリアは、掠れた声で呟いた。
「貴方も、なの」
少女は呟いた。俺を見ながら。その目は、酷く同情的な目だった。