8話:学園の怪談
「なあ、雨月、知ってるか?」
そんな良介の一言から始まった。
「何をだ?」
いつの間にか、気づけば、俺の周りに人だかりが出来ている。
「あのですね、謳さん。今、この学園で怪談がですね」
マリアが言ってくる。怪談?
「そう!怪談なんだよ!」
良介も言う。周りの人だかりも「そうそう」とか「怖い」とか口々に言っている。
「学園の怪談、七不思議って言うのがだな」
そう言って、良介は語り始める。
学園の七不思議、一。業務塔の鬼。
或る日、一人の業者が、業務塔に用があって登っていた。
その時間は、学園で授業をしている時間だから、業務塔に誰かいるはずはない。
そんな業務塔でキィン、キィン、バン、バンと金属がすれるような音や破裂するような音が聞こえた。
そして、何かが倒れるような音とともに、音が止んで、そこを見てみると、切り崩された棚があり、そこには、刀を持った鬼のような男が……。
翌日、そこに行ってみると、傷も何もなくなっていて、棚も元のままだった。
学園の七不思議、二。階段の幽霊。
或る日、階段を何気なく上っていると、突如、身体が動かなくなった。
何事かと周囲を見渡すと、目の前に、こちらを見ている女の子がいるではないか。
しかもその瞳は、見たことも無いような禍々しい色をしていた。
動けない。まるで身体は、金縛りにあったような。
そして、気づけば、女の子は、横を通り過ぎていくではないか。そして、身体が動くようになり、振り返るもそこには何もいなかった。
学園の七不思議、三。寮内で喋る猫。
学園にある寮で白猫を見かけたという。
その猫を抱こうと近寄ると、猫が、
「儂に触ろうなど百年早いわ」
と喋ったという。
唖然として、その後、何も言葉が出なかった。
ちなみに、その後同じ猫にあったが、喋ることはなかったという。しかし、触る気は起きなかった。
学園の七不思議、四。本が空飛ぶ部室。
サボっていた生徒が偶然、部室塔を見上げた時、とある部室で本が宙を舞っていたという。
その話をその部室の管理者に話すと、何冊か本がなくなっていることが確認された。
それなのに、数日後に誰も気づかぬうちに、そのなくなった本が全て戻っていたという。
不思議な事件に対して、管理者は、「別に何も盗まれていないし、気のせいだったかもしれない」と言ったものの、配置が変わっていたり、紙が少し破れていたりしたことから何かがあったのは間違いない。
学園の七不思議、五。寮内を全裸で走り回る男。
夜中に騒がしくて、何事かと外を見ると、全裸の男が大声を上げて走っているではないか。それも、防音の壁もドアも機能を果たす、あの寮で、室内に声が聞こえてきたのだ。
きっと妖精だったのではなかろうか。そうでなければ悪魔。
それを見たのは一度きりだったが、忘れることはないだろう、きっと。
学園の七不思議、六。稀に現れる美女。
学園に稀に美女が現れるという噂が。
その美貌に人だかりができるが、誰もその詳細を知らない。
そんな謎の美女がいた。
学園の七不思議、七。ヘッドホン。
そう、それは、謎に包まれたヘッドホン。一体、いつからそこにあったのか分からない。しかし、現にそこにある。
誰かの私物だったのだろうか。誰かが、どかしてみる。しかし、次の日には、新しいヘッドホンがそこにおいてある。
呪われたヘッドホン。
絶対に、ヘッドホンを動かしてはならない。
話は変わるがヘッドホンなのかヘッドフォンなのか。どっちなんだ?
最後のは、なんだよ。俺は、ヘッドホンで統一しよう。
まあ、いい。それにしても、怪談らしい怪談があまりないな。
「まあ、トイレの花子さんみたいなのはないな。それに先輩の話だと、一昨年できたらしいんだが、ほとんど三年前の噂で二個目だけは一昨年の噂らしいぜ」
三年目に何があったんだよ、この学園は。
「それで、その話を聞かせてなんだってんだ?」
「ああ、肝試ししねぇか?」
肝試し?なんだ、それは。
「まあまあ、そんな顔すんなって。確かにシーズンじゃねぇのはわかるぜ?」
シーズンじゃないのか?
「やってみようぜ!」
「お、おう。まあ、いいが」
俺は、周りの雰囲気に流され、なんとなく頷いてしまった。