69話:幻想
――人の夢と書いて「儚い」。それは、よく表現された言葉だと思う。それこそ、この夢ほど「儚い」ものはないのだから……。
【幻想】
白銀の世界。そこには、ただ、雪だけが降り積もっていく。自分の夢にしては、いやに、意識がはっきりとしていて、夢と分かる夢。夢であって、夢でない「夢」。
いつもどおり。変わらない「夢」。いつものあの、「夢」だ。
「また、来てしまったのね」
夢の中で、いつもの、あの人が、こちらに話しかけてくる。彼女は、紫の長い髪と紫の綺麗な目を持っていて、そして、何より、自分よりも圧倒的な「美」を有する。
「キリエ。憐れみの賛歌とも主よとも判別できる美しい名前ね」
いつもの前口上を語りだした彼女を尻目に、雪の上に座り込む。
「あら、興味ないってことかしら?」
「ええ、だって、どうせ夢だもの」
自分の思っていることを素直に露土する。
「ふふっ、そうね。夢、ね。貴方にとって、私は、夢みたいなものだもの」
みたいではなく、夢だ、と言う言い分を心にしまい、飄々と嘯く。
「夢も夢。もう、夢に幻想を抱く年頃でもないのだから」
本心は違う。いつまでも夢に幻想を抱いている。
「さて、自己紹介をしましょう」
いつもと違うことを言い出した夢の中の彼女に、疑問を覚えながらも、彼女の名前を聞くことにする。
「私は、【氷の女王】。最強にして、最悪の、そして災厄の魔女。俗に言う【氷の世代】の氷は、私のことを示しているのよ」
俗に言わない、と言う本心もしまいこんで嘯いた。
「最強にして最悪の、そして災厄、ね。凄いわねぇ」
「淡々と無表情で言うのはやめて欲しいけど、まあ、概ねそのとおり。凄いのよ」
何が凄いのか分からないけど、一々夢の中の出来事にツッコミを入れていては、きりがない。
「貴方が持つ【氷奏】と言う力について、いい加減、説明しておこうと思ったの」
【氷奏】。自分が持つ謎の力。俗に言う、と言う表現を用いるなら、「俗に言う異能」のこと。
「貴方は、あれを理解してはいないでしょ?」
「ええ。無論。あれは、人知の域を超えているもの」
髪色や瞳の色が変わるだけならまだしも(いえ、それすら普通ではないのがわかっているけれど)、他にも数多の付属効果がある。
「【氷奏】……【氷を奏でる】。その所以は、【氷の女王】の技【氷天奏々】。自らの肉体を、限りなく低温に近づけ、極寒の冷気すら一体化する」
そんな出鱈目な。
「出鱈目で規格外。想定外でありえない。それが【魔法】。貴方は、私の魔法の一部を偶然にも受け継いでしまったから」
受け継いだ?なぜ。
「貴方は私の縁者。希望咲く一族の血を引く者」
希望咲く一族?
「希咲霧愛。氷の選定者の片割れ。希咲哀子の半身」
哀子?
「キリエは唄の、アイスは姫の、二人は、扉の鍵になるわ。三つの扉の……」
「待ってちょうだい、鍵は二つで扉は三つなのかしら?」
こちらの問いに【氷の女王】は意味深なわけあり顔で、
「きっと大丈夫さ。【――】の馬鹿がどうにかしてくれる」
と別人のような口調で別人のように笑います。
「じゃあ、頼んだわよ。キリエ」
元の口調に戻り、その言葉を告げた瞬間、「私」は、目を覚ました。




