6話:あいつの話
寮の部屋に戻ると、俺は、ベッドに倒れこんだ。
どうやら、俺は、ここでも普通の生活は送れないらしい。
「九澄と紀乃、か」
特に九澄は、昔に縁がある人間だ。あの人と別れた後に、一般人として引き取られたらしいが、まさか、ここで会うことになろうとは。
いや、よく考えてみれば、引き取り手は、そんな遠方にいるはずがないし、子供一人引き取れる家庭となると金持ちなのは必然だ。つまり、似た境遇のあいつが、この学園に居るのはさほどおかしな話ではない。
それより紀乃だ。【PP】がこの学園にいるほうが納得いかない。この学園は確かに犯罪率が高いかもしれないが、その程度で【PP】が出張ってくるだろうか。それとも、【PP】の関係者かよほどの金持ちがいたのか。まあ、なんにせよ、【PP】は、あまり好きではない。
まったく、運命の女神とやらは、何故、俺に苦難を押し付けるのか。
そういえば、あいつがいつか、言ってたな。ここで言うあいつとは、前に名指しした誰かではなく、俺と九澄、そしてもう一人の妹弟子の師匠のことだ。
「この世には、敷かれたレールに乗るだけの奴と敷かれたレールから脱線して自分でレールを敷いていく奴がいる。さて、じゃあ、乗るだけの奴は、何故乗るだけかと言うと、楽だからだ。考えなくとも、そのまま進むだけ。努力は要らない。最高だろう?」
そう言ってから、あいつはにやりと笑った。
「じゃあ、何で敷かれたレールを脱線するやつがいるかと言うと、努力しなくては、上にいけないからだ。ずっと平坦な道を行くのではなく、上へ上へとレールを延ばしていきたいからだ」
今考えてもよく分からない言葉だが、九澄は、何か心にくるものがあったのか騒いでいた。そしてあいつは続けた。
「運命の女神は、時に、私たち人間に、理不尽なものを押し付けてくる。それが、どうしようもない壁であることもある。そんなとき、どうすれば良いか、教えてやろう」
自信満々にあいつは言った。
「突き進め。無茶も通せばいける。たとえ、壁がレールの前に立ちはだかろうと突っ切って進めば、壁をぶっ壊して進めんのよ」
笑いながら言ったあいつの顔は輝いていた。
まったく持って、仕方ないが、あいつの言葉通り、ここで普通の生活ができるように突き進むしかない、か。
俺は、苦笑しながら、寝たのだった。