52話:朱野宮と謎の女性
Scene崇音
これは、これまでの物語。そして、明日からの物語。
車で走ること数十分。私と漣さん、七峰さんを乗せた車は、指紋、声紋、顔、様々な認証システムを通り、朱野宮家に入りました。
敷地内に入ってから数分で、屋敷が見えます。子供の頃、何度か遊びに来た朱野宮本邸です。玄関のところには、朱野宮家の長女、朱野宮静刃さんが立っていました。
「お久しぶり、信也君、崇音ちゃん、七峰さん」
「久しぶりです、おじょっ……先輩」
漣さんの挨拶。それに倣って、私も、
「お久しぶりです、静刃さん」
挨拶をした。
「お久しぶりでございます。静刃お嬢様」
七峰さんが流麗なお辞儀をしながら、挨拶をした。七峰さんは、今から少し前まで、朱野宮家で護衛していました。ええと、私が生まれてから中学校一年の途中まで、私の護衛をしていて、その後、朱野宮家へ行って、この間、帰ってきた、と言うことです。
「それでは、中へ」
朱野宮家本邸、大広間。そこには、二人の女性がいました。そのうちの一人、茶髪のショートカットの女性は、あのときの、死神のような女性。こうして座ってらっしゃると普通の女性ですのに。
「お嬢様、あたしと信也、それに藍を呼んだのは、どう言うわけ?」
彼女が、静刃さんに聞きます。
「ええ、その件については、後ほど。まずは、お二人の自己紹介を」
そういいながら私を見ます。
「あたしは、篠宮匡子よ。【PP】所属」
「私は、高野藍です。匡子さんと同じく【PP】です」
二人が自己紹介をなさったので、私も自己紹介をします。
「私は、蓮条崇音です。所属は、響乃学園生徒会です」
私の自己紹介に二人は、少し変な顔をしています。
「それでは、本題に入りましょう。まず、ここに集まった皆さんは、全員、口が堅いと信用して集めた方たちです。これから話すことを口外しないと信じています。さて、話の導入ですが、この人について聞きたいのです」
一枚の写真が提示されます。緑の髪と活発そうな雰囲気を纏った女性。
「この方は?」
「この人物は、名前不明、年齢不詳、正体不明の女性です。ただし、異能事件のいたるところにその存在を確認されているのです」
静刃さんの言葉に、匡子さんが補足する。
「ただし、その女が、悪さの黒幕ってわけではなさそうで、どちらかと言うと解決してる側みたいね……、って話ってこれなの?」
「ええ、確かに。彼女は解決しています。そして、一時期、彼女が三人の子供を連れていたそうです。これは、こちらで調べた情報です」
三人の、子供?
「その写真がこちらです」
ふてぶてしい黒髪黒目の少年。同じく黒髪黒目の少女。紫の髪に紫の眼をした利発そうな少女。私が眼を奪われたのは、少年だった。
「ウタイくん……?」
私の呟きに、静刃さんは、驚く。
「崇音ちゃんの知り合い?」
「雨月謳。響乃学園生徒会所属の異能使いだ」
質問に答えたのは、漣さんでした。
「響乃の関係者?」
「ああ、こっちの黒髪の少女も響乃の生徒だ。確か八刀神九澄。姉さんが、すぐけんか起こすからって嘆いていたからな」
どうやら、漣さんは、私よりも今の響乃学園に詳しいようです。まあ、今日行ったっきりの私より詳しいのは当然でしょうか。
「もう一人は知らないな」
「いえ、そちらに関しては、こちらで調べがついています。希咲哀子。十六歳。千葉県にある鷹之町第二高等学校に入学しています。こちらは、見た目が特徴的だった分割り出しやすかったですからね」
「それにしても、その三人と、その女の関係性が分からないですね」
漣さんの言葉。
「それに関しては、全員が異能を持っているということで説明がつくわ。彼女は、異能を使って、悪さをするのではなく、異能を持って生まれてしまった子に普通の価値観を与えて真っ当な人間にしているのだと思われます」
「真っ当なって言っても、あまり、真っ当ではなかったような……」
漣さんが感慨深く呟きます。
「う、ウタイくんは、真っ当です!」
私の言葉に皆さんが笑います。
「まるで恋する乙女が、擁護するみたいな口調ね」
匡子さんの言葉に、私は、思わず頬を染めてしまいます。
「えっ。ああ、何か野暮った?」
「あんたは、いつもいつも……」
漣さんが、頭に手を当て、「頭痛がする」と唸ります。
「う~ん。いや、その……ねっ!あれ、あの……」
とそこまで言ってから匡子さんが眉を顰めます。
「あれ、何この既視感。う~ん。あっ、あれ、貴女もしかして、あのときの?」
「あの時って、いつだよ、匡子さん」
あの時とは、あの、
「【血の走狗】って鼠小僧どもを捕まえた時。確か、リーダーを捕まえた時に、偶然居合わせた女の子が……」
「はい、私です。それと、そのリーダーがウタイくんです」
「マジ?」
思わず口調が崩壊している匡子さん。
「それは、また、なんともいえない偶然ね」
「ええ、運命を感じますよね」
私の言葉に、皆さんがきょとんとします。
「崇音ちゃんの言いたいことが分からないわけではないわ」
そう言って静刃さんは、少し朱に染まった顔で、ちらりと漣さんを見つめます。それだけで分かってしまいます。静刃さんも運命と言うものを漣さんに感じたのだろうなあ、と。
「偶然と運命は、似ています。そして、それが必然であるかもしれませんけど。さて、話を戻しましょう。この女性について、」
そ、そうでした。本題は、女性についてでした。
「この女性は、異能に関して、何らかの情報、事情を知っていると思われます」
事情。
「それは、この女性が、異能の成り立ちに関わっていると?」
「少なくとも、異能の発生源、できた理由については知っていると考えています。そして、それに、この三人が関わっている可能性が高いと思っています」
この三人、とは、先ほどのウタイくん、八刀神九澄、希咲哀子の三人のことでしょう。
「そして、最近、この女性が、こちらの三名に接触したそうなんです」
そう言って別の写真が三枚。
すこしすまし顔の黒髪黒目の少女。顔が髪で隠れてしまっている茶髪の少女。茶色の髪を乱雑に切った髪と細めの眼を持つ爽やかそうな好青年。
「希咲哀子を調べる過程で浮かび上がった三人」
「刃奈?なんだって、あの子が」
知り合いでしょうか。
「ええ、匡子さん。貴方を呼んだのは、彼女について聞くためです」
「ええ?!刃奈?って言っても、親戚なだけで、滅多に会わないし」
親戚のようです。
「一応調べたところ、三人とも鷹之町第二高等学校に通っています。そして、もう一つ、偶然が、先ほど分かりました。この黒髪黒目の少女、名前を、雨月姫夜といいます。残りは、男の子が紅響。そして、篠宮刃奈。偶然にも、雨月と言う共通の姓が浮かび上がります。二人とも揃って黒髪黒目。これは、偶然なのでしょうか?むしろ、これこそが、運命、なのかも知れません」
二人の、雨月。
「それと、もう一つ。最近、【死の結晶】の瓦解から派生した組織、【棺の守】が、動きを活発化してきています。そのことを藍さんに聞こうと思いまして」
「【棺の守】?誰が主犯?」
なにやら分からない話が始まりました。
「【烈火】と名乗る人物です」
「【烈火】……。まさか、最後の一席」
もはや話の内容がさっぱり理解できません。
「【焉】、【神道】、【真海】、【群青】、【烈火】。それが、【死の結晶】の中核メンバーに与えられたコードネーム。それなのに、私があったことあるのは、【焉】と【神道】、【真海】さんの三人だけ。不思議に思って、【神道】に尋ねたら、空席だと言われたわ。でも、まさか、」
藍さんが語ります。
「でも、【烈火】は、いったい今更何を……」
「何をしようとしてるにしても、危険なことをしているのは間違いありません。これは、【PP】には、入っていない情報でしょうけれど、政府直轄の第一級危険能力保持者収容施設が襲われたわ。【PP】は、どちらかと言うと、政府側だから、隠匿されて情報が行かなかったでしょうけど。身内に恥をさらしたくないのでしょう。なので、これは、境出議員からの情報だったのです」
また、新しい名前が出てきました。
「境出さんからですか?加奈穂のやつに、情報があれば流して欲しいとは言ってたが……」
「ええ、その後のやり取りで、朱野宮と境出議員に、極秘な繋がりができました。やはり持つものは友と情報、ですね」
静刃さんがウィンクしながら言います。
「崇音ちゃん。あなたを呼んだのは、蓮条の情報力を提供してもらうためだったけれど、もうひとつ、お願いできる?」
「な、なんですか?」
そのお願いとは、
「雨月謳と言う少年に、この女性のことを聞いてきて欲しいの。こちらで根回しして、崇音ちゃんがなるべく学園に行けるようにするから」
ええ、まあ、学園に行けるのはありがたいですし、生徒会でウタイくんと会えるので聞くのは構わないのですが。
「分かりました。聞いてみます」
「お願いね。信也君。貴方は、【棺の守】の方をお願いね」
「はいはい、分かりました」
そうして、この日は、解散となり、帰りました。




