37話:誤解
朝、教室棟に向かう途中、俺は、濁った青髪の後姿を見つけた。何故か、教室棟とは、別方向だ。しかも、私服である。
「おい、勇音。どこに行くんだ?」
「……ああ、君?ちょっと、ね」
その目元は、赤く腫れ、泣きじゃくった後のように、声も少し枯れていた。
「何か、あったのか?」
「用事で家に帰らなくちゃいけなくなったの」
用事?よほどの用事なのか。
「でも、お前、顔色悪いぞ」
「だ、大丈夫」
ふらついていた。あまり寝ていないのか、それとも、何かの病気か。今にも倒れそうなくらい、ふらついていた。
「あっ、おい」
そして、倒れた。
「ったく、しゃーねぇな」
俺は、勇音を負ぶった。
「保健室に連れてくか」
そう呟き、勇音の身体を持ち上げた(負ぶり上げた?)とき特別外出証明書が落ちた。
「なんだ?」
俺は、外出理由欄を見た。
「葬式?」
家族の誰かが亡くなったのか?
「しかたねぇ」
俺は、保健室ではなく、外に繋がる校門へ向かった。
校門について、すぐ、警備員に、
「あっ、タクシー呼んでもらえます?」
と告げ、特別外出証明書を見せる。
「ああ、訃報か……。こんな時期に。大変だね。そちらも家族さんかな」
あ、あれ。何か、勘違いされてねぇか?
「ああ、タクシーが来たようだね。早く乗りなさい」
警備員が俺と勇音をタクシーに放り込む。
「じゃあ。忌引だから、しばらく休めると思うから。家族を亡くすのは、悲しいことだからね。うんうん、言わなくても分かるよ。そちらの方も、家族を亡くして泣いたみたいだかね。うん、男の子が泣かないようにがんばる気持ちは分かるけど、ほら、さ。こういうときくらい泣いてもいいんだよ」
その勘違いも甚だしい優しさに泣きたい気分だよ!
「じゃあね、ええと勇音透君」
だから違ぇっての!確かに透って男みたいな名前だけどよ!それに、勇音は私服だし。
走り出すタクシーは、警備員が見せた特別外出証明書の個人欄の住所の下へと走り出してしまった。




