36話:訃報
Scene透
あたしは、空を見上げていた。澄んだ夜空に星が煌いている。そして、浮かぶ満月は、あたしを明るく照らしてる。そういえば、と、何気に思い出す。
「兄ちゃん、どーしてっかな」
行方不明の兄ちゃん。三年位前に、「僕たちの異常を治せそうな心当たりを見っけたから、僕行ってくるわ」と告げ、どこかに行ってしまった。
「姉さんも、弓月姉も、ずっと心配してんのに、あの馬鹿は……」
弓月姉は、兄ちゃんの彼女で、今は、兄ちゃんや姉さんと同じ高校の三年生。ホント、兄ちゃんには、もったいないくらいの人だ。
「まったく」
あたしは溜息をつき、空を見上げる。
おばあちゃんの隔世遺伝とかで金色に近い茶色……黄土色って言う髪を生まれながらに持ち(なお、あたしも遺伝したため染めたが姉さんは黒髪)、開いてんのか開いてないのかわかんない目をして、飄々とあたし等を見守る。時には、テンションが高く、時には、京都弁や土佐弁を使う。
そんな兄ちゃんが、あたしは、
「大好きなんだよなあ……」
まったく、天邪鬼だと思う。でも、大好きだから、真似をした。
この口調も性格も、全部、兄ちゃんの真似だ。
「まあ、あたしは、姉さんほど素直じゃないんで、口には出さないんだけど、ね」
笑ったあたしの元に、着信音が鳴り響く。数年前に流行ったアニメのオープニングだ。
「もしもし、姉さん?」
『もしもし、透!よかった。よく聞いて。兄さんが、兄さん、が……』
その声は震えていた。
「兄ちゃんがどうかしたの?」
『兄さんが亡くなったわ。所持品がほとんどなくて、あれらしいけど……』
「嘘、だよね」
あたしは、乾いた笑みで聞く。
『嘘じゃないわ。よく、聞いて。それも亡くなったのは、数ヶ月前なの』
数ヶ月前……。あたしが入学する頃?
『時期としては、貴方が、入試に備えて勉強してた頃、かな』
そんな前に。
『写真を一枚だけ持って、それ以外は、何も持って無かったって』
写真?
『そこには、男の子と、兄さんが一緒に写ってた。まるで兄弟見たく仲悪そうに。そう、貴方と兄さん見たく、よ。機嫌悪そうな男の子が』
「男の子?」
『そう、年の頃は、貴方と同じくらいかな?黒髪でふてぶてしい顔した、結構イケメンの』
何で兄ちゃんが、男の子と写真を?
「ねぇ、その写真、今、送れる?」
『ゴメン、それは、ちょっと無理かも。今は、三日月先輩が持ってるし』
弓月姉が持ってるのか。じゃあ、しばらくは声掛けれないな。兄ちゃんのこと愛してたから。たぶんショックから立ち直るのに、しばらく掛かるはず。
『今度、お葬式の時に、多分見れると思うけど、どうして?』
「そんなん決まってんじゃん。兄ちゃんが男と写真撮るなんて、珍しいことをしてるんだから、その写真に、何か手がかりがあるってこと」
それ以外に、兄ちゃんが男と写真を撮るなんて考えにくい。
『そうだね、写真の子に何か聞ければ、いいんだけど』
「そうだなぁ~。それは、たぶん、無理じゃない?人間が何人いると思ってんの?日本人だけでも調べきれないって。もし、そいつが偶然にも知り合いだったら別だけどさ」
そんな偶然が起こるのは、アニメやゲーム、漫画、ラノベの中、それも主人公達ばかり。だから、あたしは、それらが好きであると同時に、嫌いだ。
『そんな都合のいいことは、起きないかなぁ』
「ないない。あったら、それは偶然じゃなく必然、もしくは、誰かが仕組んでるんじゃなきゃありえないよ。運命の神様とやらは、とことん、意地悪だなぁ~」
あたしは、そう言って、電話を切った。
その日、あたしは、布団の中で、泣いた。わんわん泣いた。泣き叫びたかった。そして、そのまま、寝てしまった。




