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狂った世界で  作者: 桃姫
蒼空編
36/82

36話:訃報

Scene透

 あたしは、空を見上げていた。澄んだ夜空に星が煌いている。そして、浮かぶ満月は、あたしを明るく照らしてる。そういえば、と、何気に思い出す。

「兄ちゃん、どーしてっかな」

 行方不明の兄ちゃん。三年位前に、「僕たちの異常を治せそうな心当たりを見っけたから、僕行ってくるわ」と告げ、どこかに行ってしまった。

「姉さんも、弓月姉(ゆづきねえ)も、ずっと心配してんのに、あの馬鹿は……」

 弓月姉は、兄ちゃんの彼女で、今は、兄ちゃんや姉さんと同じ高校の三年生。ホント、兄ちゃんには、もったいないくらいの人だ。

「まったく」

 あたしは溜息をつき、空を見上げる。

 おばあちゃんの隔世遺伝とかで金色に近い茶色……黄土色って言う髪を生まれながらに持ち(なお、あたしも遺伝したため染めたが姉さんは黒髪)、開いてんのか開いてないのかわかんない目をして、飄々とあたし等を見守る。時には、テンションが高く、時には、京都弁や土佐弁を使う。

 そんな兄ちゃんが、あたしは、

「大好きなんだよなあ……」

 まったく、天邪鬼だと思う。でも、大好きだから、真似をした。

 この口調も性格も、全部、兄ちゃんの真似だ。

「まあ、あたしは、姉さんほど素直じゃないんで、口には出さないんだけど、ね」

 笑ったあたしの元に、着信音が鳴り響く。数年前に流行ったアニメのオープニングだ。

「もしもし、姉さん?」

『もしもし、透!よかった。よく聞いて。兄さんが、兄さん、が……』

 その声は震えていた。

「兄ちゃんがどうかしたの?」

『兄さんが亡くなったわ。所持品がほとんどなくて、あれらしいけど……』

「嘘、だよね」

 あたしは、乾いた笑みで聞く。

『嘘じゃないわ。よく、聞いて。それも亡くなったのは、数ヶ月前なの』

 数ヶ月前……。あたしが入学する頃?

『時期としては、貴方が、入試に備えて勉強してた頃、かな』

 そんな前に。

『写真を一枚だけ持って、それ以外は、何も持って無かったって』

 写真?

『そこには、男の子と、兄さんが一緒に写ってた。まるで兄弟見たく仲悪そうに。そう、貴方と兄さん見たく、よ。機嫌悪そうな男の子が』

「男の子?」

『そう、年の頃は、貴方と同じくらいかな?黒髪でふてぶてしい顔した、結構イケメンの』

 何で兄ちゃんが、男の子と写真を?

「ねぇ、その写真、今、送れる?」

『ゴメン、それは、ちょっと無理かも。今は、三日月先輩が持ってるし』

 弓月姉が持ってるのか。じゃあ、しばらくは声掛けれないな。兄ちゃんのこと愛してたから。たぶんショックから立ち直るのに、しばらく掛かるはず。

『今度、お葬式の時に、多分見れると思うけど、どうして?』

「そんなん決まってんじゃん。兄ちゃんが男と写真撮るなんて、珍しいことをしてるんだから、その写真に、何か手がかりがあるってこと」

 それ以外に、兄ちゃんが男と写真を撮るなんて考えにくい。

『そうだね、写真の子に何か聞ければ、いいんだけど』

「そうだなぁ~。それは、たぶん、無理じゃない?人間が何人いると思ってんの?日本人だけでも調べきれないって。もし、そいつが偶然にも知り合いだったら別だけどさ」

 そんな偶然が起こるのは、アニメやゲーム、漫画、ラノベの中、それも主人公達ばかり。だから、あたしは、それらが好きであると同時に、嫌いだ。

『そんな都合のいいことは、起きないかなぁ』

「ないない。あったら、それは偶然じゃなく必然、もしくは、誰かが仕組んでるんじゃなきゃありえないよ。運命の神様とやらは、とことん、意地悪だなぁ~」

 あたしは、そう言って、電話を切った。


 その日、あたしは、布団の中で、泣いた。わんわん泣いた。泣き叫びたかった。そして、そのまま、寝てしまった。


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