34話:γ
Sceneγ
これは、遥か昔。まだ、七つの夜の三つ目の頃。
狂った聖女の母の物語。
神醒存在。【神】に目【醒】めし存在。
「緋奏。貴方は、」
「聖。分かっていますわよ。人と交わることが、わたくしたちには、不可能だということは」
艶のある長い黒髪と黒の瞳。圧倒的美貌と大きく実った胸を持つ女性。それとは対照的に短髪の蒼髪と蒼い瞳。圧倒的な美貌だが、全体的に小柄な少女。
「聖。わたくしは、それでも彼と……謳魏さまと、結ばれたいのです」
「別に私は、それを否定しないわ」
蒼髪の少女は、笑う。
「私たちが人といれる可能性がないわけではないわ。私も昔、家族と、暮らしていたもの」
少女は遠い目で、空を見上げる。七人の少年少女頭に浮かべながら。
「ですが……。わたくしは、第一典です。貴方のような第六典とは……」
「私たちに差は、ないでしょ?私も貴方も、神の曲に目【醒】めてしまっただけ。同じ、人の道を外れ、数段上の位に上がってしまった者」
彼女は笑う。
「だから、同じよ。同じ【神醒存在】なのよ……」
緋奏は、言った。
「聖。貴方は、名前の通り、優しい慈愛の聖なる光のような方ですね。……そうですわね。もし、もしも、わたくしと謳魏さまの間に、子が出来たときは、貴方のような子になるようにと、聖なる名を名づけましょう。そう、その名は、」
緋奏は、笑う。
「マリア。狂ヶ夜マリア。ね、いい名でしょう?」
これから、数十年の時を経て、ある一人の少女が生まれた。
その少女は、母の面影をしっかりと継ぎ、聖の優しさをしっかりと受け継いだ、心優しき聖女が生まれた。そう、狂った聖女が生まれた。




