24話:【夜鬼】――襲撃
俺は、寝苦しさに目を覚ました。重く掛かる圧力。重圧から逃げ出すように転がった。ベッドから飛び降りる。それと同時に、「眼」を開く。が、打ち消される。いや、打ち負けた。
「誰だっ!」
俺の声は、届いていないようだ。ただ、暗闇に「黄金」の双眸が浮かんでいる。
「あれは、……黒羽?」
呟くが、確証は得られない。俺は、ゆっくり、間合いを取る。そして、ベランダへのドアを開け放つ。
風が入り込んで、カーテンを巻き上げ、月灯りが部屋に差し込む。
長い黒髪が眼に入った。
黒羽だ。黒羽だが、髪の長さが、とても長い。
「おい、黒羽。眼を覚ませ!」
俺の声に、黒羽の動きが止まる。
「う、謳さん……」
呻く様に俺の名を呼んだ。
「に、逃げて」
かすれる声で、黒羽は言う。
「早く、逃げて。じゃないと、」
何が起きているのかは分からないが、逃げたほうがよさそうなのは分かった。俺は、ベランダから、近場の木に飛び移った。そこから、木の上を渡り、教室棟の方へ向かう。
急だった為、スマートフォンを置いてきてしまったため連絡が取れない。まあ、する相手もいないのだが。
深夜なのは分かるが、どの位の時間なのか分からない。
逃げないとヤバイな。だが、逃げ切れるか。おそらく、朝になれば、力が弱まるだろうが、日の出まで数時間はあるはずだ。
どうにかして逃げ切らなくてはならない。
「くっそ、どうにかして……」
ふと目端に入った見覚えのある顔に、ある考えが浮かんだ。
「おい、アホ!」
俺の声に、そこにいたアホが振り返る。
「誰がアホか!って、あ?謳か?」
九澄が反応した。こんな夜中だってのに何をやってんのか。
「おい、アホ、吸血鬼が来る。その相手を頼むぜ」
あいつに押し付ける。
「吸血鬼?」
あいつが呟いた瞬間。俺の背後には、既に【夜鬼】と化した黒羽がいた。
「うげっ、何?理性ないっぽ……。ったく、しゃーないなあ」
九澄は、口の端をクイッと吊り上げる。
「【黒棺】!」
九澄が叫ぶと同時に、周囲が淀む。
「まあ、九澄と黒羽は相性が悪いから、九澄が負けるだろうけど」
と思ったことを呟きながら、教室棟のほうへ向かった。
どのくらいの時間が稼げるか。三十分持てばいいほうだ。
と、思った瞬間には、淀んだ空間が戻っていた。相性が悪すぎるからな。
九澄の異能は、異能よりも魔法と言ったほうがいい。と言うより、異能の分類上、魔法に分類されるはずの能力だ。
異能には、いくつかの分類が一応ある。まあ、科学者が作ったもので、その分類外のものもあるのだが。
「あと、少しか」
そう、教室棟まであと数メートルだ。駆け、跳ね、窓を突き破って侵入する。




