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狂った世界で  作者: 桃姫
七夜編
24/82

24話:【夜鬼】――襲撃

 俺は、寝苦しさに目を覚ました。重く掛かる圧力。重圧から逃げ出すように転がった。ベッドから飛び降りる。それと同時に、「眼」を開く。が、打ち消される。いや、打ち負けた。

「誰だっ!」

 俺の声は、届いていないようだ。ただ、暗闇に「黄金」の双眸が浮かんでいる。

「あれは、……黒羽?」

 呟くが、確証は得られない。俺は、ゆっくり、間合いを取る。そして、ベランダへのドアを開け放つ。

 風が入り込んで、カーテンを巻き上げ、月灯りが部屋に差し込む。

 長い黒髪が眼に入った。

 黒羽だ。黒羽だが、髪の長さが、とても長い。

「おい、黒羽。眼を覚ませ!」

 俺の声に、黒羽の動きが止まる。

「う、謳さん……」

 呻く様に俺の名を呼んだ。

「に、逃げて」

 かすれる声で、黒羽は言う。

「早く、逃げて。じゃないと、」

 何が起きているのかは分からないが、逃げたほうがよさそうなのは分かった。俺は、ベランダから、近場の木に飛び移った。そこから、木の上を渡り、教室棟の方へ向かう。

 急だった為、スマートフォンを置いてきてしまったため連絡が取れない。まあ、する相手もいないのだが。

 深夜なのは分かるが、どの位の時間なのか分からない。

 逃げないとヤバイな。だが、逃げ切れるか。おそらく、朝になれば、力が弱まるだろうが、日の出まで数時間はあるはずだ。

 どうにかして逃げ切らなくてはならない。

「くっそ、どうにかして……」

 ふと目端に入った見覚えのある顔に、ある考えが浮かんだ。

「おい、アホ!」

 俺の声に、そこにいたアホが振り返る。

「誰がアホか!って、あ?謳か?」

 九澄が反応した。こんな夜中だってのに何をやってんのか。

「おい、アホ、吸血鬼が来る。その相手を頼むぜ」

 あいつに押し付ける。

「吸血鬼?」

 あいつが呟いた瞬間。俺の背後には、既に【夜鬼】と化した黒羽がいた。

「うげっ、何?理性ないっぽ……。ったく、しゃーないなあ」

 九澄は、口の端をクイッと吊り上げる。

「【黒棺(こくかん)】!」

 九澄が叫ぶと同時に、周囲が淀む。

「まあ、九澄と黒羽は相性が悪いから、九澄が負けるだろうけど」

 と思ったことを呟きながら、教室棟のほうへ向かった。

 どのくらいの時間が稼げるか。三十分持てばいいほうだ。

 と、思った瞬間には、淀んだ空間が戻っていた。相性が悪すぎるからな。

 九澄の異能は、異能よりも魔法と言ったほうがいい。と言うより、異能の分類上、魔法に分類されるはずの能力だ。

 異能には、いくつかの分類が一応ある。まあ、科学者が作ったもので、その分類外のものもあるのだが。

「あと、少しか」

 そう、教室棟まであと数メートルだ。駆け、跳ね、窓を突き破って侵入する。


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