21話:師
【――】。頭で繰り返される。ただ、それが何か分かるまで至らない。分かるのは、それが真実と言うことだけ。
狂った世界における、狂った正解と言うことだけ。狂っているからこそ分からない。だが、俺は、その答えを求める。
【――】。その真の名を。
黒羽と寮へ向かっていた。生徒会が終わり、日も暮れていたので、送っていけと廿楽にしつこく言われたためである。
「なあ、黒羽」
「な、なんですか?」
俺は、黒羽に聞いた。
「お前は、施設に入ったことがあるか?」
「施設、ですか?在りません。あることは、両親に聞かされましたが」
入ったことはないか。まあ、そうだろう。俺や九澄のような例は珍しい。普通は、親が異能を隠匿する。
「やっぱり、施設の出はいないんだよな。まあ、あいつみたいな酔狂な、物好きな奴は少ないんだろうが」
俺は、随分会っていない師の顔を思い浮かべた。
「あいつ?」
「ああ。俺を引き取った、馬鹿で頭のネジが外れた、人外だよ」
そう、あれは、異能を使わずして、最強と言える存在。そう、本来の怪物は、あいつのほうではないかと思うほどの人外。
緑色に染めた髪を風になびかせて、自分より強い者は無いというように笑う姿が今でも俺の脳内に焼きついている。
「沙綾。あいつが名乗った名だ」
あいつは、最強だった。
「あれは、そう、たとえるなら、悪魔か人外だ」
「悪魔か、人外」
怯えるような顔をする黒羽。
「そうだ。まさしく最強最悪。素手で金属バットへし折るような奴だ」
他にも、銃弾を掴み取ったり、刀を手に受けたのに刀のほうが折れたり、地面をへこませたり、【PP】相手に一人で戦闘して無傷だったりと、ありえない奴だ。
「もしかして、その方も異能なんですか?」
黒羽の言葉に、俺は笑って返す。
「いや、まったく。九龍沙綾は、確かに人外じみているが、それでも、異能ではない。いや、異能を持っているのかもしれないが、俺の前で使ったことは無い。それは、絶対だ。だからこそ、人外だ」
「その人と今も?」
「いや、相当前に離れ離れになったな。あいつは、軽いテンションで『旦那が呼んでるから帰るわ。あんた等好きに生きな』って言って消えたぜ」
そもそも、あいつが既婚者だったことを、そのとき初めて知ったくらいだ。
「つーか、未だに、あんな奴の夫になろうだなんて酔狂な奴が、どんな奴かは気になるぜ。まあ、見てくれだけは、良かったからなあ、騙されたのかもしんねぇけど。それでも、まあ、お前やマリアなんかには、劣るけどな」
確かに美人だったが、どこか、違和感があり、マイナスされる。
「えっ」
何故か黒羽は頬を赤く染めていた。




