19話:機関
俺は、生徒会室に来ていた。
「やっと三人ね。相変わらず揃わないわね~」
廿楽がそう言った。
「あと、誰だっけか?」
「蓮条さんと勇音さんね」
俺の問いに対する廿楽の回答だ。
「蓮条崇音さんと勇音透さんでしたね。蓮条さんは、御家が忙しいのではないでしょうか」
黒羽が言う。蓮条と言うやつの家?
「蓮条って言う奴の家がどうかしたのか?」
俺の言葉に、黒羽ではなく廿楽が答えた。
「蓮条さんは、蓮条グループの総元締め、蓮条剛司氏の娘さんよ。あの、朱野宮家とも繋がりが深い蓮条グループだからね、忙しいのはわからないでもないわ。それにしても、七夜さんは、よく知っていたわね。彼女、全然学園に来ていない上に、素性の詳細は秘匿されていたはずだけれど?」
それに対して黒羽は、
「わたしは、個人の伝手がありまして、蓮条クレアさん……蓮条家の長女さんとは、知り合いでして」
蓮条クレア……。クレア。【炎焔】、か?いや、気のせいだろ。
「ふうん。まあ、いいわ。蓮条さんは置いておいて、勇音さんは、早く参加して欲しいわね」
勇音透と言うやつに関しては、情報がないから分からないが、蓮条同様、何か用事があるんじゃないのか?
「勇音さんは、おそらくサボりだろうしね」
「なんだ?サボりなのか?」
俺の予想を裏切られた。
「よく、屋上や屋外でサボっているところを見るからね」
「屋上?」
屋上でこの間のことを思い出すが、いや、流石にそれはない。
「ええ、教室棟の屋上の給水タンクの下に寝転んでるわよ」
給水タンクの下……。それは、誰にも見えない場所。まさか……、まさか、な。聞いていたなんてことはないだろう。
「黒羽。そういえば、一つ聞きたいことがある」
「な、なんですか?」
俺は、一つの可能性を探っていた。
「お前、件の吸血鬼か?」
俺の言葉に廿楽と黒羽が両方、揃って、同じ声を、別のニュアンスで放った。
「えっ?」
「え……」
きょとんとする廿楽に対して、顔を青くする黒羽。
「いや、どうってことはないが、その髪、どうしたんだ」
そう、髪の長さがいつもと異なる。ショートカットではあるが、微妙に短い。
「件の吸血鬼って、誰も信じちゃいない、あの?」
廿楽の疑問に、俺は、
「そうだ」
と短く答えた。
「髪は、その、少しだけ切ったんです」
「そうか」
慌てる彼女は、完全に、挙動不審だった。
「なあ、黒羽。この廿楽は【縛鎖】の眼の保持者だ。お前も、同質の【夜】の眼の保持者じゃないのか?」
俺は、自分の言葉に、言い知れぬ「間違い」や「違和感」を感じたが、それでも聞いた。
「な、何で、わたしの【夜】の眼まで……」
俺は、静に答える。
「俺も『眼』を持つ人間だ」
そう俺も「眼」を持つ。全ての血を喰らい、全てを殺す「眼」。その名を、
「俺は【殺戮】の眼の保持者だ」
「【殺戮】の眼……?!」
「それって、あの、事件の……?!」
俺が自身で【殺戮】の眼と言う呼称を呼ぶのは好まない。別の名があるような言い知れない違和感に囚われるからである。【――】。頭に反芻する聞き取れない声。
「それで、黒羽、お前は、」
「わたしは、……【異能力者倒滅異能力者総合機関】七位。七夜黒羽です」
【機関】……?!じゃあ、
「お前の言った、蓮条崇音の親族の蓮条クレアが【炎焔】か?」
「え、ええ。一応、機密事項ですが……」
そうか。じゃあ、蓮条崇音も要注意だな。




