18話:α
Sceneα
これは、数十年前。
七つの夜が紡ぐ物語の六つ目の直前である。
【唄の魔女】と【夜の女王】が繋ぐ神話の物語。
「響花様。また、空を見上げられておられたのですか?」
真っ黒な髪と真っ黒な眼を持つ女性が、高齢の女性に話しかける。
「謳雨ちゃんかい?ふふっ、いや、ね。いつ見てもいいものよ、星空は」
白髪の女性は、そう言った。
「相変わらず、夜の空みたいに綺麗な髪と眼ね」
白髪で高齢の女性は、「私も、昔は、あなたのように黒い髪だったのよ」と微笑む。
「ええ、御高名は、かねがね承っておりますよ。【夜の女王】様」
白髪で高齢の女性は、かつて【夜の女王】と呼ばれた魔法使いだった。
その名は、各地に轟き、数多の魔法使いを震え上がらせた最強無敵の魔女。しかし、彼女を上回る世代、【氷の世代】と呼ばれる世代に入ってからは引退をしたのだった。
「謳雨ちゃんは、【七夜】って知っているかしら?」
「【七夜】、ですか?」
謳雨には、心当たりのない名称に首を傾げる。
「これは、【七夜】が紡ぐ、七つの夜の物語の途中なのよ」
七つの夜?
「【夜鬼眼】と呼ばれる『眼』を継承する一族が【七夜】」
「【夜鬼眼】……?ああ、【夜】の眼のことですね」
謳雨は【夜】の眼と言う眼のことを、【夜鬼眼】と言うと聞いたことがある。その力は、夜と言う時間の間、保持者の【裡なる力】を引き上げる能力だ。しかし、
「でも、あれを持っているのは、【七夜】って一族だけじゃないですよね?」
「いえ、それは、【夜】の眼。【夜鬼眼】とは、似て非なるものなのよ。まあ、眼の色や効果自体はそっくりだから分からないのは無理もないわね」
そう、【七夜】の【夜鬼眼】は、【夜】の眼とは異なる力がある。
「でも、【夜鬼眼】は、【裡なる力】以外に【不死性】も引き出すのよ」
「不死……ですか?それは、【不死鳥】や【吸血鬼】のような?」
不死を司る生物は【不死鳥】や【吸血鬼】など、多数存在する。しかし、ただの人間が、その力を持つとは到底思えない。
「【七夜】は【夜鬼】の一族。【夜鬼】と言うのは、よく、伝説上の吸血鬼と混同されがちだけれど、夜に不死になる鬼よ。【吸血鬼】は、夜でなくとも不老不死の存在」
「そうなんですか?それは、初耳です」
「【七夜】のユタちゃんが今代の【七夜】の【夜鬼眼】持ちよ。【夜鬼眼】が暴走すると、世界をぶっ潰すわ。謳雨ちゃんの世代のユタちゃん。そして、謳雨ちゃんの子の世代でもう一人現れて、それで【七夜】の……七つの夜の紡ぐ物語が終わりを告げるわ」
その言葉に謳雨は、
「私に、子供、ですか?」
「あら、数年後にいたっておかしくはないでしょ?最高の【唄姫】さん」
【唄姫】や【唄の魔女】、【恋唄の姫】と謳われた謳雨は、自分が誰かと結婚する様など想像もできないと笑った。
「ないですよ。私なんかが……」
「謙遜しちゃだめよ、謳雨ちゃん。貴方は、きっと【――】を持つ子を授かるわよ。それが、きっと【七夜】の連鎖、七つの夜が紡ぐ物語を終わりに導くわ」
【――】?謳雨は、聞き取れなかった。ただ、この予言は、きっと当たるのだろうなあ、と思っていた。




