16話:氷の妖精
金色の「眼」が暗闇の中に目立つ。俺は、廿楽から言い渡された夜の教室棟警備により、夜の教室棟に再び足を踏み入れていたのだが、どうも、遭ってはいけない類のものに出遭ってしまったらしい。
「ったく、何だってんだ?」
俺は、呟きながら「眼」を開いた。すると、金色の「眼」が消えた。だが、その存在の気配は消えていない。まさか、「眼」で「眼」が相殺されたのか?
「おいおい、洒落になんねぇぞ!」
俺は、思わず「眼」を見開いた。
すると、闇が消えた。視界には暗闇が消え、月明かりだけで満たされた世界が出来上がる。一瞬長い黒髪が眼に入ったが、少し消しただけに終わった。マリアかと思ったが、マリアに「眼」は効かない。マリアではない。
見失ったらしい。俺は、「眼」を閉じた。とりあえず、屋上まで行って、それで帰ろう。
そして、屋上のドアを開いて、俺は言葉を失った。月明かりが、銀色の髪を反射する。
雪のごとく白い肌に、長い銀色の髪。
白髪ではない。煌く銀色の髪。
透通る紫色の瞳。
整った顔立ち。
そう、たとえるなら、【雪女】や【氷の妖精】を髣髴とさせる女性。
その整った顔が驚愕に染まっていた。
「こんな時間に誰か来るとは予想外ね」
その声が聞こえた時には、俺の喉元に透通る氷でできた鋭い刀が突きつけられていた。
「貴方、ここで死ぬのと、今すぐ私のこと忘れるののどっちがいいかしら?」
「あ~、死にたくはないし、たぶん、君みたいな綺麗な娘を忘れるのは無理」
などと、少しキザったらしく言ってみる。
「大丈夫、絶対忘れられるわ。脳みそを切り取れば、確実に」
それ死んでんだけど……。面倒だな。
俺は、氷の刀を見ながら「眼」を開いた。
「なっ」
彼女が驚くのも無理は無い。刀身が、一瞬で消えたのだから。
「その能力、【氷奏】っつったか?」
俺の記憶にある能力を勘だけで言ってみる。まあ、あいつの場合は、元から髪も眼も紫だったんだが……。
「貴方、何……?」
彼女の問いに、俺は、笑った。
「俺は【怪物】、さ」
「怪物……。貴方、まさかっ」
銀の髪が青く赤くなっていく。
「【紫】の姫、か」
俺の呟きに彼女は、変な顔をする。
「何よ、それ」
聞き覚えが無いらしい。俺と九澄の妹弟子の少女の渾名が【紫】の姫といった。目の前の彼女と同じ【氷奏】と呼ばれる異能を持つ。
「いや、なんでもない。俺は『眼』を持って生まれた。お前と同類の異能使いだ」
「そう、貴方も……」
紫の髪と瞳が夜の闇に微かに浮かぶ。そして、紫色が抜けて銀色に戻る。
「また、逢うかもしれないわね。名前は?」
「ん?雨月謳だ」
俺の答えに彼女は頷いて、屋上から飛び降りた。




