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狂った世界で  作者: 桃姫
プロローグ
13/82

13話:生徒会長

 翌朝、教室にて。

「おい、雨月。昨日結局どこまで七不思議見に行ってたんだ?」

「教室棟の三階だが?」

 俺は答えた。

「何でそれで、時間内に帰ってこれないんだよ!も、もしかして、ペアの女とうふふなことやむふふなことしたんじゃあるまいな!」

「してねぇよ」

 俺がそう言ったのと同時に、もう一人、話に入ってきた。

「朝からなんて話をしてるのよ……」

 怪訝な顔をした廿楽だった。

「なんだ、廿楽か」

「『なんだ、廿楽か』、じゃないわよ」

 俺の背後で数枚の書類を持つ廿楽がいた。そしてその書類を軽く丸めて俺の頭を軽く叩く。

「それで?何のようだよ」

 と言う俺の声よりも大きな声で良介が叫ぶ。

「せ、生徒会長!なっ、何でここに?!っつーか雨月、知り合いなのか!」

 俺は思わず眉を顰めた。

「生徒会長?これが?」

 俺の言葉に廿楽は、溜息をつく。

「あんねぇ、あんたって奴は。これでも始業式で、挨拶したはずなんだけど。まあ、初対面の印象で、あたしのこと記憶になさそうだから名乗ったけど」

 いや、普通は覚えていない。と言うか、俺の位置から顔は見えなかった。マリアも同様で見ていなかったのだろう。

「良介は、何で廿楽を知ってんだ?」

「見ろよこれ!先輩が売ってくれたんだ!」

 そう言って、俺に廿楽の写真を見せてくる。授業中に寝ているところや、着替え中の写真を。どうやって撮ったんだ?

 廿楽の頬が引きつる。

「あんた、【響乃歴史研究会】に入会予定?」

 どうやら、【響乃歴史研究会】が関わってくるらしい。

「はぁ~。賢斗とか言うアホな先輩に、どう感化されたのか、女子達が同性愛に目覚めて、今や、【響乃歴史研究会】兼【女子同性愛同好会】と化しているのよ。それで、あたしのクラスメイトは、そっちにあたしの写真を売って金儲けしてるってわけ」

「生徒会長なら止めさせればいいだろ」

 俺の意見に、廿楽は。

「生徒の自由を奪うのは良くないわよ。会長……前会長からそうやって教えられたのよ」

 なるほど。なかなかに生徒思いの会長じゃないか。口調に似合わない。

「へ~。それにしても、お前にそんな風に教える前会長ってのはどんなのだったんだ?」

「いい人よ。ただ……」

 溜息をつく廿楽。

「なんだよ。いい人なんだろ?」

「ええ、ただ、ね。モテてたのよ。それも【前・響乃四大美女】全員と仲がいいくらいに」

 【前・響乃四大美女】がどのくらいかは分からないが、相当美人だったらしいのは良介に聞いた。

「あ、写真あるぜ」

 良介が、俺に三枚の写真を見せる。

「四大なのに三人なのか?」

 俺の疑問に、良介が「それな」と言う。

「俺もそう思って先輩に聞いたんだけど、あの人の写真は残ってないって言うばかりでさ」

 写真が残ってない?どんな人物なんだ?

「ぶっちゃけると、七不思議の稀に現れる美女なんだけどな。何でも年に数回出席するだけらしいぜ。相当なお金持ちで、金で卒業できるようにはなってたらしい。だから、もう卒業済みだけど、一時期、卒業後にも護衛をぞろぞろ連れて遊びに来たことがあったらしい。けど、何でか、写真が一枚も残ってないんだよ」

 そうなのか。それにしても、護衛を大量につけなくてはならないほどの金持ちとなると、【血の走狗】時代にターゲットとして見たことがあるかもしれないな。

 俺は、三枚の写真を見る。三人とも美しい。

「この人が何代か前の生徒会長よ。それに、こっちが、去年卒業した前書記の親友で時々お菓子の差し入れを持ってきてくれた用務係の先輩。もう一人は時々猫抱えて遊びに来る前会長の知り合いね」

 キリッとした雰囲気の美女と柔らかいのに裏がありそうな笑みを浮かべる美女と活発そうな美少女の三人。

「綺麗な人たちだな」

「ええ、あたし何かと比べ物にならないくらいの美人達よ」

 口元に呆れた笑みを浮かべながら廿楽は言った。

「それで、何のようなんだ?」

 俺は問う。こんな話をするために来たわけではないのは分かっている。

「そう、忘れてたわ。あんた、生徒会に入んない?成績トップよね?馬鹿そうに見えて頭いいのね」

 廿楽の言葉に一瞬考えてから、俺は何気ない口調で言う。

「あ、それ、裏口入学だから。俺、勉強ぜんぜんできねぇよ」

「へ~、そうなの?って、は?裏口入学?」

「ま、マジか!雨月ん家って実は金持ち?」

 二人の声が同時に響いた。

「冗談だ」

 クラスメイトが揃ってこっちを見ていたので、笑って、そう言った。

「なっ、なんだよ、びっくりさせんなよ!そういうのはもっと分かりやすいような冗談にしろよなっ!」

 そう言って、良介は「ったく、驚きすぎてトイレ行きたくなったわ」と、トイレに言った。そして、廿楽が、

「冗談、じゃないんでしょ?」

「まあな」

 まあ、施設に入ってたって話をしてるからな。そう思われて当然だ。

「施設に入れられてた俺が勉強なんてできるはずないだろ?」

「そうね。でも、生徒会への勧誘は本気よ。まあ、あたしももうじき引退なんだけど。生徒会は、毎年、会長以外は前年度に引退して、次の年に会長が新入生から数名選んで指導して、一人前になればやっと引退できるのよ」

 会長は大変だな。

「それで、今年、既に新入生が何人か入ってくれたんだけど、忙しいらしく、ぜんぜん顔出してくれないし」

 疲れた顔で悟ったように言う。

「もう、引退しないでやった方がいいかなって思うぐらいなのよ」

「いや、新学期始まってまだ数日だぞ。きっと、そのうち生徒会に顔出すようになるだろ」

 俺の言葉に、廿楽は、

「無いわね。絶対に無いわね」

 断言した。

「蓮条さんも七夜さんも勇音さんも。絶対に生徒会に来ないわよ。何かきっかけでもない限り」

「で、後継者を見つけるために俺に声を掛けたのか?それとも、そいつ等を生徒会に引っ張って来いってことか?」

 廿楽は言う。

「どっちでもいいわ。とりあえず、あたしに貢献しなさい!」


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