11話:血色の眼
俺の「眼」は、危険すぎる。【縛鎖】の眼よりも遥かに危険だ。
「レベルが、違う……?」
「どう言う意味なんですか?そ、そもそも、怪物って……」
マリアも居たんだったな。まあ、いい。コイツも巻き込まれた身だ。俺のことを説明してやらないでもない。
「いいか、マリア。お前に分かりやすく説明してやる。この世には、不思議な力ってのがある。異能、魔法、超能力、妖力。様々な呼び方はあるが、まあ、要は、不思議な力だ」
俺は、手早く的確に説明する。
「それは、危険な力だ。何種類かに分けられるんだが、そっちのなんかは、【縛鎖】の眼っつって、金縛り程度の効果しかないあまり危険じゃない能力だ。俺のは、大規模殺戮が可能な危険極まりない能力。つまり怪物」
「大規模殺戮って、第一級危険能力者じゃない!」
少女が言った。
「なっ、何で、そんな危険能力を持ってる奴が、普通に生活してるの……?」
その後に、慌てた声で、
「いえ、何で、普通に生活できるの?」
それは、「眼」を持っているのに何故、普通の生活を送れるのか、と言うことなのか、それとも「眼」を持っているのに何故、施設に連れて行かれていないのか、と言うことなのか。どちらにしても、かまわないのだが。
「施設から逃げたからな。軍からも。全部からな」
「に、逃げた?そんなことって」
俺は、にやりと笑って、少女に言った。
「できるさ。土台無理なことなのさ。怪物を捕らえておくなんてことは」
その言葉に、マリアは、震えながら言った。
「し、施設、ですかぁ?」
「ああ、施設だ。別の言い方をするなら牢獄や実験場だな」
俺の言葉に、マリアは聞いた。
「そ、そそ、そんな場所が、日本に存在するんですか?」
「あるのよ」
少女の言葉に頷きながら俺は言う。
「あるんだよ。そんな人権なんて関係ない、非人道的な施設やら組織が、わんさか日本の地下に」
俺の言葉に、マリアは不思議そうな顔をした。
「そんなものが国に認可されるんですか?」
「されるさ。所謂、国の裏側ってやつさ」
そう、施設もその他組織も、実在している。
「俺は、いや、俺たちは、そこで飼われている怪物なんだよ。目的は様々。管理、実験、軍用、殺人。そんな目的のためにずっと、捕らえられているんだよ。俺たち怪物は」
その言葉にマリアは、
「謳さんは怪物なんかじゃないです!」
そう叫んだ。それは同情か。それとも……。
「お前は、俺の『眼』を知らない。だから、そんなことを言える」
そう、俺の「眼」は、人間を一人消した程度では。片鱗も見せていない。
「だったら、その眼を見せてください」
……コイツは、何を言っている。死にたいのだろうか。
「死ぬ気か?」
「大丈夫です!」
俺は、深い息をつきながら、「眼」を開けた。
血色に染まった瞳が、マリアを見つめる。
「そ、それが、眼、ですか?」
マリアは生きていた。消えない。そして、認識した背景が消えた。なのにマリアは消えない。壁も窓も消えたのに、マリアだけ消えない。俺は、思わず呟く。
「お前、何だ……?」
その声がきちんとでていたかは分からない。ただ、マリアはそこに立っている。
「綺麗な眼ですね。真っ赤な」
そう言って、俺の前まで来て、俺の頭を撫でた。
「謳さんは、怪物じゃあありません。立派な人間さんです。それも飛びっきり優しい」
そんな恥ずかしいことを言われ、俺は「眼」を閉じた。




