10話:廿楽織葉
Scene廿楽織葉
廿楽織葉。三年生。【縛鎖】の眼と呼ばれる異能を生まれながらに持ってしまったが、両親の良心により、施設等に送られることがなく、熱心に育てられた。
その力は、そこまで強くないため、危険能力に指定されていながらも特に被害を出すことなく生きてきた。
初めて被害を出したのは、彼女が【響乃学園】に入学した年のことだ。偶然階段を降りているときに「眼」が開いた。先輩を一人、動けなくしてしまった。
彼女は急いで逃げた。
そして、彼女は、三年生になる。
それから数日経った、或る日。
その日に、新入生が肝試しをしているとは知らずに。賊が侵入しているとは知らずに。
彼女は、黄昏れていた。屋上で、一人、自分の「眼」が恨めしく。
彼女は時折そうしていた。日々、自分の「眼」を思い。いつもの、日常を思い。生徒会の活動を思い。だからこの日もそうして、一時間、二時間と過ぎた。そして、日は落ち、月明かりが彼女を照らした。
ふらついた足取りで、彼女は、ゆっくり階段を降りた。
そこで目が合う。銃を持った男と。見てはいけないものを見てしまった彼女は、「眼」を開けた。
命の危機に、無意識に「眼」を開けたのだろう。
「な、なんなの!」
彼女は走った。全速力で。
前方に二人の姿が見えた。でも、二人は「停まる」はず。なぜなら、彼女の「眼」は開いたままだから。
一瞬だった。彼女は二人のうちの男のほうの目が「血」に塗られた気がした。
二人は動いた。ありえない。少なくとも、彼女と「眼」があっている間は。彼女が二人を見ている間は。
「何があったんだ?」
「なっ、何かあったのでしょうか」
二人が声を上げた。
「な、なな、何で、貴方達、あたしの眼を見ても動けるの?あいつの仲間なの?」
彼女は聞いた。このような時間にいるなどそうとしか考えられなかったから。
「あいつ?」
少年は知らないようだ。
響く発砲音。彼女は思った。
「あいつが来た?!くっ、あたしの力じゃ、長く停められない!」
思わず口に出ていたらしい。
「待ちやがれ!見られたんじゃあ、殺すしかねぇ!」
「ちょっと、貴方達、逃げないと死ぬわよ!」
彼女は叫んだ。
「おい、追われてるあんた」
少年は言った。
「何よ!」
「あれを殺せばいいんだな?」
少年の言葉に、私は唖然とする。
「そうだけど、そんなこと!」
「できるさ」
そして、男は消えた。文字通り、消えたのだ。死んだでも、倒れたでも、崩れたでも、壊れたでもない。消えた。
「貴方、一体……」
その呟きに被さるように少女が言った。
「謳さん……」
少年の名のようだ。
「怪物、さ……」
その声は、酷く冷めた声だった。凍え切った声だった。聞いているこちらが、寒気を感じるほどの暗い声だった。
「かい、ぶつ……?」
少女は、掠れた声で呟いた。そして、彼女は言った。
「貴方も、なの」
と。やけに同情的な目だった。
「あんたとは、レベルが違う怪物さ」
彼は言った。




