1話:プロローグ
俺は佇んでいた。この狂った世界で、俺は佇んでいた。
俺は思う。世界は狂ってる。そして、俺の「眼」も狂ってる。
いつから世界はこうなった。いつから俺はこうなった。
全てが壊れたのはいつだ。狂ったのは何でだ。
それは、全て分からない。だが、一つ言えるのは、この狂った世界で俺は、俺のような「怪物」は生きていけない。
被験体、実験体、番号、囚人、大尉、お前、これ、それ、ガキ、馬鹿、化け物、魔物、怪物。随分と様々な名前が与えられたものだ。
そんなふうに思う。ウタイと言う名前を持っているが、それも、本名かどうかすら分からない。
ただ、施設のいかれた科学者たちは、俺のことをこう呼んだ。「怪物」と。ただ、そう呼んだ。
この世界には、魔法、異能、超能力と呼ばれるものは、二十数年前まで、一切確認されていなかった。
けれど、歯車が狂ったように、世界に不思議な力を持つものが生まれた。
不思議な力は、世界を壊せるほどの強大な力だった。だから、国は、それを隠蔽、秘匿し、情報を完全に消した。
そして、俺たちは実験体として研究されるのだと。
そんな話を、俺は幼い頃に聞いた。狂った研究者どもから聞いた。
その数年後、その研究者どもは、塵も残さず消えたのだが。
それから、様々な施設を経て、俺は、逃げ出した。
狂っている、狂気に満ちた、狂人たちが溢れるあの世界から。
俗に言う「国の裏側」と言うやつから逃げ出した。
そして、一般人になった。
もう、俺は、被験体でも実験体でも番号でも囚人でも大尉でもない。ただの一般人だ。だから、人並みの幸福と、人並みの平穏を求める。
求めて、世界を彷徨う。
世界は、俺を必要としているのか。
神は、俺に何をさせたいのか。
仏は、俺に何故こんな「眼」をくれたのか。
全部分からない。
ただ、俺は、普通の暮らしをして、人並みの幸福を感じ、人並みの愛を貰えれば、それでいい。こんな「眼」いらない。
こんな狂った世界に、神はいるのか。仏はいるのか。
いるなら何で、俺は、こんな「眼」を貰ったのか。教えて欲しい。
数年前に何があったのか。なんで、こんな力が現れるようになったのか。
今も捕らえられている、実験されている、殺されている彼らは何のために生まれたのか。生まれなくてはならなかったのか。
それら全てを教えて欲しい。
俺は、そんな探求の感情も、同情の感情も、捨てた。
人並みの生活のために。
今更、俺に彼らを、彼女らを心配する権利はないのかもしれない。でも、だとしても、だ。こんな俺たちを創った神とやらを許せない。彼らを、彼女らを心配せざるをえない。
「まったく、何やってんだか……」
天に向かってぼやく。
俺は、ようやく、幸せな家族に会え、人並みの幸福を手にした。明日から、学園の入寮だというのに、未だに過去を引きずっている。彼らを、彼女らを忘れられない。捨てられない。
※この作品は、作者の作品である「Si Vis Pacem, Para Bellum」の続編として書かれた物語です。一応、そちらを呼んでいなくても大丈夫なように書く予定です。