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一話

なんか今日良いことが起きそうな気がする。

そう思わないとやってられない現状だ。

どんな現状かと言うと、どことも分からない森の中に、何の準備もなしに放り込まれ、更に目の前には大きさ約二メートルの熊と『思われる物』が俺に視線を向けているという現状。

視線を向けているだけならまだいい。しかしその熊『らしき物』は少しづつ俺に近づいてきている。

なぜ熊の後に『思われる』や『らしき』と強調しているのかと言うと、俺の知っている熊とは形状が少し違うからだ。

口から蛇のような長く細い舌をだらっと間抜けに出し、尻尾の先には大きな岩が着いていて、その尻尾を何度も地面にぶつけている。

こ、これはもしかして威嚇行動というやつなのか?俺獲物として見られてる?いや、まだ希望を捨てるな蔵多優貴!きっとこれは友達になってよと言う「久々の獲物だぜぇ」・・・はい俺の幻想五秒で消えましたよこんちくしょぉぉぉ!!







一話「出会いが衝撃的過ぎます」







「動くなよぉ?苦痛を与えずに殺してやるからなぁ。俺様優しいだろぅ?げへへ」

熊?がなんで喋るかとかの不思議は置いておいて、喋れるということは言葉を理解できるということ。つまりまだ秘義でなんとか凌ぐことが出来るかもしれない!幸いなことにこいつ頭悪そうだし。

「あのぅ、すみません、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ?俺様の名前はディエだがぁ?」

「ディエ様ですか!!なんと素晴らしい名前でしょう!!貴方様にとても似合ってます!!」

秘義!『下手に出る』!!相手の頭が悪ければ悪いほど逃走成功率が上がるというものだ。

代わりに俺の自尊心が半端なく被害を受けるという諸刃の刃だが今は関係ない!自尊心なんて命に比べたら空気より軽いわ!!

「げへ、そうかぁ?」

「はい!私のような腐った果物以下の、いえ、未満の存在にはまぶしすぎるお名前です!!」

「げへへ、お前わかってるじゃねぇかぁ」

よし!向こうも調子に乗ってくれた!このまま押し切る!!

「ですが、だからこそ、貴方様は私をお食べにならないほうがいいでしょう。なにせ私は腐った果物未満の存在。食べたらあまりの腐り具合にお腹を壊し、最悪死に至ることも考えなくてはなりません」

「げへ?そうなのかぁ?」

なわけないだろ。

「はい。ですので私を食べるより他の人間を食べることをお勧めします。私を人間のいる集落に案内してくだされば代わりを連れてきますがいかがでしょう?」

外道と思われるかもしれないが、このディエという熊?が人のいる所まで案内してくれればそのままとんずらしてしまえばいいし、もしかしたら集落にこういう人に害のある生き物を討伐する人達がいるかもしれないからその人達に討伐を頼めばいい。

頼む!頼むから提案に乗ってくれ!

「げへへ、いいぜぇ。俺の知ってる村まで案内してやるよぉ」

「ありがとうございます!」

「ちゃんと代わりの人間連れて来るんだぞぉ」

ディエが集落があると思われる方向に歩き出したので、俺もその方向に歩く。

いつぞやの当たり屋より楽だったな。







三十分近くディエの後ろを歩いているとディエが突然足を止めた。どうやら森の出口に着いたようだ。

「あそこが人間の集落『カルノ村』だぁ」

俺はディエの横まで行ってみると、目の前には木が一本も立っていない草原が広がっており、目測四百メートル程の所に家がぽつぽつと建っているのが見える。

「どこの人間の集落も対魔物用魔法結界が張ってあってよぉ、俺様達魔物は集落に入ることができねぇんだぁ。だからここからは一人で行って来いぃ」

それは良い事を聞いた。村に入ってしまえばこいつは俺に手出し出来ないということだろ?ふはは、最高にハイってやつだぜぇぇぇ!!

「はい!ディエ様、案内ありがとうございます!それではまた会いましょう!」

まぁまた会う事はないだろうがな。

後は相手に感付かれないように集落に入らなければ。やべ、顔がにやけてしまう。

俺はディエに顔を見られないように全速力で村に向かって走った。







村に着いたのはいいが、なんか村の皆さんにすごい見られてます。すんごい見られてます。

なんか一部から「なんで異国の方がこの村に・・・?」とか言ってるが、なんで異国の人って思われているんだ?日本語通用してるんだし同じ日本人だろ?

俺は一番近くにいた見た感じ四十代後半の白髪が目立つ男に話しかけた。

「すみません、どうしてそんなに皆さん俺を見てるんですか?」

男は一瞬驚いたような目をしたが、ちゃんと答えてくれた。

「そりゃあお前さん、そんな見たこともない素材の服着てれば異国の人だと思って気になるに決まってるだろ」

「見たこともない?え、まじで?」

結構そこらへんで売ってるような安いYシャツとズボンだぞ?

「まじ?まじとはなんだ?」

まじが通用しない・・・だと・・・!?ここは日本じゃない?まああんな熊が日本にいたら今頃話題になってるか。というかまじが通用するかしないかで日本じゃないって決め付けるのはどうかしてたな。信じたくないが、あの謎のおっさんは契約で異世界うんぬん言ってたし。

「本気ってことです」

「あぁ、本気だ。んで、お前さんはこの村になにしに来たんだ?」

おお、ようやく本題に入れる。

「喋る熊に襲われて、命からがらここまで逃げてきました」

「そうだったのか。んじゃあ早速ギルドに討伐依頼しに行ったほうがいいな」

「ギルド?」

やっぱり酒場みたいな所で日々魔物討伐依頼を受けて狩りまくっている人々がいるかなぁ。

「雑草むしりから魔物討伐まで幅広い依頼をこなしてくれる場所だ。犯罪行為は駄目だがな」

男はがははと笑いながら言う。なんか俺の想像していた物とは違って何でも屋みたいになってる。

「でもそういうのってお金がかかるんじゃないですか?」

「確かにな。お前さんが見た魔物、多分ハンマーベアーは一回の依頼料八万ギリムだったか」

「ギリム?この国の通貨ですか?」

「あぁ?なに言ってんだ?この国どころかこの世界の通貨だぞ?」

「え?そうなんですか?」

「ギルドを知らないのはまだいいが通貨単位も知らないとはな・・・。お前さん・・・、もしかして記憶喪失か?」

「え?あ、はい、そうです・・・」

なんか向こうが勝手に記憶喪失と思ってくれたぞ!これは好都合だ!

仮にここが異世界だとして(九分九厘異世界だと思うが)こことは違う世界から来ましたてへぺろなんて言ってみろ。多分ナニイッテンダコイツ?みたいな視線を向けられ、最悪危険物みたいに避けられるに決まっている。そんなことされたら豆腐以下の強度の俺のハートはそれはもう無残に崩れてしまうだろう。

「おし、なにがあったか知らないが、この世界の常識、基本知識を教えてやるよ」

「ありがとうございます」

「こんな道端で教えるのもなんだし、俺ん家まで来いよ」

男はすぐ近くの家に歩き出したので俺も付いて行った。






「自己紹介が遅れたな。俺の名前はトマス=アングだ」

そう言って男、トマスさんは台所から木のコップを二つ持って来て、一つを椅子に座っていた俺の前に置いた。

「俺の名前はくr・・・優貴です」

危ない危ない。異世界で元の世界の名前はおかしいよな。優貴だったらまだユーキだったりユウキだったりと通用しそうだし大丈夫だろ。

「ユウキ・・・だと・・・?」

あっれぇぇぇ?なんか通用していないように見えるよぉ!?ユウキってアウトな感じなの!?

「え、なにかおかしかったでしょうか?」

俺はトマスさんに動揺を悟られないように表情筋を崩さずに聞いてみた。

「あ、あぁ、なんでもねぇ。ただ、珍しい名前だなと思っただけだ」

「そうなんですか?」

「ああ。こっちにはなかなかないが、『アスト聖公国』方面にはよくある名前だ」

「『アスト聖公国』?そこがこの世界の中心を担う王国なんですか?」

「そこらも含めた説明を今からするからよっと」

トマスさんは所々穴が開いた地図を机に広げる。

が、広げたと同時に地図はボロボロに崩れてしまった。

・・・・・・・・え?ボロすぎねぇ?

「・・・さぁて歴史の授業すっぞ」

今の出来事をなかったことにした!?

「まずこの世界の歴史は三千年前から始まった」

トマスさんは着ている服のポケットからタバコ(と思われる筒)を取り出し口に加え、マッチで火をつけた。

「その頃はまだ国が何十個にも分かれててな、そこらへんで戦争が起きてたわけだ。しかしある時、ある国の王が瞬く間に全ての国と戦争し、勝利していった。そして何十個もあった国を一つにしたんだ。そのとき出来た国が『ドートル王国』、そして王がギリムル=ドルクⅠ世だったな。ギリムル王は戦争を終結させた英雄として後世に名を残した。ところがどっこい、何十個もある国全てがギリムル王に忠誠を誓ったわけじゃなかったんだ」

トマスさんはタバコを口から外して用意してあった灰皿に置く。

「ギリムル=ドルクⅨ世が亡くなった年、今から丁度五百年前、ある国が謀反を起こし、『ドートル王国』から独立を宣言したんだ。そして半分近くの諸侯も最初に謀反を起こした国『アスト聖公国』の家臣として『ドートル王国』から離れていった。つまり、『ドートル王国』、今は『グレーメル国』なんだが、謀反を起こされた側に所属する俺にとって、『アスト聖公国』の人間かもしれない奴がいるってのは気がどうにかなっちまうくらいいらつくんだ。理解したか?」

理解はしたけど、説明の途中からトマスさんの目元の影がどんどん濃くなっている気がするんですけど。足を机の上に置くという客の前でしたら普通はいけないことをしてるんですけど!?理解したかって聞いてきたときなんて視線で死にそうになったんですけど!?

「そんで、俺から聞きたいことが一つ。お前さん、まさか『アスト聖公国』の人間じゃねぇだろうな?」

やばい、トマスさんに纏わっている雰囲気がやばい!!なんかゴゴゴゴなんて幻聴が聞こえる!!俺の人生ここで終了なのか!?せっかく馬鹿みたいな奴から逃げれたのにか!?どの選択肢を選んでもBADENDだったのか!?

「がはははは!なにビビッてるんだよ。仮にお前が『アスト聖公国』の人間だとしても、俺は何もしねぇよ」

「へ?じゃあ今の殺気にも似た物は・・・」

「なぁに、時々お前さんみたいな記憶喪失がこの村に来るからよ、そいつらをビビラせるのが俺の趣味ってこと」

・・・やばい、マジで切れる五秒前状態だ・・・。

「おいおい切れるなよ。これは年長者足る俺がこの世界について知らない若輩者に世の中の厳しさって奴を教えてやったんだ。恨むなんてお門違ぇなんじゃねぇのか?」

「うっせぇよ!!こっちは寿命が縮まるかと思ったんだ!!いやもう縮まったから四、五発殴らせろ!!」







と啖呵切ったが五秒と掛からず負けました。拳圧で吹っ飛ぶとは流石異世界・・・。

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