第五話 目覚めの時
「えーっと、もう一回いってくれる?」
「だから、しばらく私たち家を空けることになっちゃったから、お母さんたちが帰ってくるまで真二君と一緒に住んでね」
えええぇぇぇぇぇぇ!!!!
真二と一緒に住む!?この家で?む、無理だって!
だってそれだと料理は全部私が作るって事だよね。真二に料理なんかできるわけがないし。
でも、この間クッキー失敗しちゃったし・・・・うぅぅ~。
「無理だよ、お母さん。だいたいご飯は私が作るとして、寝るところは?」
「私たちの部屋で寝てもらえばいいでしょ」
「テレビは?」
「仲良く見なさい」
「お風呂は?」
「交代で入ればいいでしょ」
「・・・・・・わかった」
どうやらこれは避けられないことのようだ。
質問の内容がおかしい気もするが気にしない気にしない。
真二がうちに泊まるなんて何年ぶりだろ?
もう、7,8年はたつんじゃないかな。
「それにね、咲が一人で家にいるっていうのは親として不安なの。真二君の家もご両親がちょうどいないみたいだし、しっかり守ってもらいなさい」
「はーい」
真二に守ってもらう・・・・か。
何年前だろ。私が小学三年生のときだから・・・八年前かな。
あのときも真二に守ってもらったっけ。
■□■□■
八年前
「ねえねえ、咲ちゃん。お父さんが遊園地に連れてってくれるんだって!一緒に行こうよ」
「遊園地?うん!行く!」
「それでね、お泊りするんだって」
「そうなの?待って、お母さんにいいか聞いてくるね」
私は真二に遊園地に一泊二日で行こうと誘われた。
お母さんに必死にお願いして、許可をもらった私は真二のお父さんの車に乗った。
その日、真二と一緒に遊園地でめいいっぱい遊んだ私は旅館に泊まった。
その夜、私はトイレに行きたくなり、真二を連れて行った。
その旅館は古く、トイレが外にあったのだ。とまっているのは私たちだけだった。
まだ小3だった私は暗闇の中を歩いていく勇気はなく、真二を連れていったのだ。
「真二、起きて」
「んん~?何、咲ちゃん」
「トイレに行きたいの」
「トイレ?一人で行ってきなよ」
当然、真二は嫌がっていたが・・・
「だってこの旅館、トイレは外にあるんだもん」
「え?そうなの?」
今なら思う。真二は遊園地から戻ってからトイレに一回も行ってないのだ。
ある意味すごいと思う。
「・・・わかったよ。さっさと行ってこよう」
そうして私たちはトイレに向かった。
私はさっさと用をたし、部屋に戻ろうとしたとき、私たちの前にそれはいた。
自分の三倍はあるんじゃないかという大きさの全身黒い毛に覆われた肉体。
その鋭い目は赤く光り、私たちを射抜いていた。
「あっああっ・・・な、なに!?・・っばっばけ・・もの」
私は怖くて恐ろしくて目の前の巨大な化け物を前にして、うまく口が回らずそこにぺたりと座り込んでしまった。
視界がだんだんぼやけてくる。涙が溢れ出し、座って震えているだけだった。
その化け物は私を体に見合った巨大な手でつかみあげた。
そのとき、私と同じように震えていた真二が立ち上がり、叫んだ。
「咲ちゃんを離せえええぇぇぇっぇぇぇ!!!」
真二の顔を見たとき私は驚いた。なぜなら、完全に真二はキレていた。九歳という幼さであるにもかかわらず、その表情はまさに鬼の形相だった。
その次の瞬間、真二の立っている地面が青白く輝きだしたかと思うと真二の周りに風が吹き荒れ、両手からは炎が噴き出していた。
私、呆然。
「うおおおおおおお!!!!」
そう叫んだかと思うと瞬間的に私をつかんでいる腕に飛び乗り炎の拳を繰り出した。
きっと相当痛かったのだろう。化け物は私を離し、殴られたところをもう片方の手で押さえながら
「□#△%%□―――――」
と、人ならざる叫び声をあげた。
真二は落下する私をキャッチし、地面にそっと降ろして化け物に飛び掛る。
真二はよりいっそう激しさを増した炎を拳に纏い、化け物に目にも留まらぬ速さで連打を繰り出していく。
その直後に鋭い刃となったいくつもの風が化け物を襲う。化け物の体は切り離されたところから、真二の燃える拳によって燃やし尽くされていく。やがて化け物は跡形もなく消滅した。
一方真二は着地したと同時に彼を包んでいた風も炎も消え、急にその場に倒れた。
「し、真二!?真二!!」
私が真二を起こそうと体を揺さぶっているとすぐに真二のお父さんが来て、とりあえず寝なさいといって真二を抱きかかえ、部屋に戻っていった。私はそのすぐ後ろをついていくだけ。
部屋に戻っても眠れるわけがないと思いつつも、まだまだ幼い私はいつのまにか寝てしまっていた。
翌朝、真二は一応目を覚ましたものの、すごい熱だった。その日はそのまま帰宅。
魂霊のことや術師の事を聞いたのはそれから2,3日後のことだった。
なんでも、真二は今まで術師のことは一切知らされていなかったのだとか。それで初めてなのにもかかわらず、膨大な霊力を無意識のうちに使い、その反動で熱をだしただけだと説明された。
後、このことは誰にも言ってはならない。とも言われた。
だから、うちの親は二人とも真二の力のことは何も知らない。
■□■□■
夏休みの前日、俺は荷物をまとめて咲の家に行った。部屋に入るのは久しぶりだ。
さてと、俺に割り当てられた部屋はもともと空き部屋だったところだった。そこに俺は自分の布団を持っていって寝るのだ。
なぜ咲の両親の部屋に寝ないのかって?そりゃ俺も初めはそのつもりだったよ。ベッドもあるし、テレビもあるし、快適な部屋だとは思う。
でもさ、なんか、下着とかネクタイとか結構散らかってたりしていまして。さすがにそんな部屋に住もうとは思えねえ。
・・・・おばさん、せめて下着だけは片付けていこうよ。
一通り荷物を片付け終わったとき台所のほうから声がした。
「真二~、晩御飯できたよ~」
「おっと、もうそんな時間か」
時計を見てみると現在時刻19時。
「あいよ~」
先にそう返答し、台所へ向かう。
ところで、あいつの料理大丈夫かな?俺は甘ったるい味噌汁とかは御免だぞ?