最終話 愛は結ばれる
真二が教室の窓から外を見ると深々と雪が降っていた。
恐一郎との戦いから3ヶ月がたち、完全に破壊された校舎の修復の間、俺たちは敷地の一画に建てられたプレハブ校舎で授業を受けていた。
あの一件で魂霊や霊術師の存在がバレそうになったが、御六のお偉いさんたちが秘密裏に処理してくれたらしい。
お陰で俺たちの話は噂程度で収まっている。
結局あのあと憑魔は恐一郎の身体から抜け出したところを仕留められ、恐一郎は正気に戻った。
なんでも恐一郎は御六の一角である風神家の一人息子らしい。
しかし覚醒しても当主の証である白髪とその力は発現しなかった。
そのショックだとか当主に必要な力を欲した心の隙に漬け込まれて憑魔っていう人間に取り憑いて意識を乗っ取るタイプの魂霊に身体を明け渡してしまったんだとか。
まあ、それだけなら俺としては良かったんだが・・・。
「俺が風神の次期当主になれだと・・・?」
いやたしかに当主の証である白髪とか、異常なまでに溢れてくる力とか、当主の力に思いあたる節はあるけどさ。
風神の当主になるってことは裏の世界ではナンバー6の座に就くわけでして・・・
「その気になればメディアの情報操作だってできちゃう地位になるって、実感湧かないな」
いろんなことを考えながら窓の外で降り積もる雪を見つめる。
「えー、これから秋に書いてもらった進路について書いてもらった作文を返却する。名簿順に一人づつ取りに来い」
進路の作文か。
そういえばあったなーそんなの。
すげーテキトーなこと書いといた気がするけど。
「次、大谷」
あ行の俺はすぐに順番が回ってきた。
「大谷、この作文の家業を継ぐってのはあの化け物退治のことか?」
「え、まあ・・・そうですね」
「そうか。くれぐれも身体には気をつけろよ」
「・・・はい」
もっと真面目に書けとか言われるかと思ったら心配されてしまった。
霊術師のことを考えてくれたのか、テキトーに書いた作文でも大目に見てくれたらしい。
「でも作文はもっときちんと書けよ。同じ家業を継ぐってのでも伊藤は素晴らしい作文を提出してくれたぞ」
「うっ・・・」
楓と比較すんなよ・・・。
どう見たって楓の方がしっかりしてるし。
つか楓が何書いたのか教えちゃってるけど大丈夫かこの教師。
下手すりゃプライバシーの侵害とかで訴えられっぞ。
「はい次ー」
そんなことは全く気にしていないのか次の生徒に作文返却してるし。
まあそんなことはどうでもいいか。
俺にはもっと重要な問題がある。
放課後になり、ふと教室の外を見ると
「ねえねえ、あれが例の大谷先輩だって」
「へぇ、あの人があの化け物達を倒したっていう?」
「そうそう。でもあの先輩も変な力持ってるってことじゃん?気味悪くない?」
「だよねー」
・・・。
この世の中は普通じゃない人間にはとても厳しいです・・・。
あれから3ヶ月経ったとは言え、2ヶ月は工事とか諸々の事情で学校が休みだったこともあってまだ俺を野次馬精神で様子を見に来る連中も少なくない。
畏怖、尊敬、憧れ、いろんな目で見られるのはどうも慣れないな。
「真二、今日は修行無いんだろ?みんなで遊びに行こうぜ」
そこに悠樹が遊びに誘いに来た。
みんなっていうと俺、悠樹、咲に楓かな。
あ、あと霧島もいたか。
「いいぜ、どこに行くんだ?」
「この前駅前に新しいカラオケ出来ただろ。あそこ行こうぜ」
「そういやそうだったな。どんなもんかちょっと覗いてくるか」
「決まりだな!それじゃあ早速レッツゴーだ!今日は歌うぞぉお!」
なんでコイツこんなにテンション高いんだ・・・
どうせ「大勢の女の子と遊べるぜやったぁワッショイワッショイ!」とか考えてるんだろうなぁ。
「悠樹くんテンション高いね・・・」
いつの間にか集まってきていた女3人はちょっと退きぎみだった
楓、顔がひきつってるぞ
その後俺らは例のカラオケに行き、気の済むまて歌った。
悠樹は初っぱなから電波ソングを超ハイテンションで歌い、女3人は仲良くアイドルグループの曲を歌った。
もちろん俺だって何曲も熱唱してやった。
帰り道、駅の前を通ると広場にある大きな木が煌々と輝いていた。
「おい見ろよ。クリスマスツリーだぜ。
「もうそんな季節ねぇ」
「・・・あっ、そういえば俺用事があったんだった!わりぃ先帰らせてもらうぜ」
と悠樹。
何言ってんだコイツ
「そういえば私も今日は本家に帰るんだったわ」
「あ、えっと、私も早く帰らないと!」
と楓に霧島。
「え、ちょっとお前ら、おい!」
俺の制止の言葉には耳も貸さず、そそくさと帰っていった。
「ったく、あいつら変な気遣いやがって・・・」
「え?気を遣うって?」
今は咲と2人だけ。
目の前には巨大なクリスマスツリー。
見つめあう俺たち。
ムード的にはこれ以上ないくらいに良いじゃねえか。
言うか・・・?
胸が咲にも聞こえてるんじゃないかってくらい低音を響かせている。
咲は可愛く首を傾げていた。
言うなら、今しかない・・・!
咲と目を合わせるなという本能のような衝動を押し込み、しっかりと咲の目を見る。
息をめい一杯吸い込み、口を開いた。
「あの戦いのときにお前に言われるまで俺は俺自身の気持ちに気付いていなかった。なかなか言い出せなくて返事が遅くなっちゃったけど・・・咲、俺もお前のことが好きだ。もしよかったら俺と付き合ってください!」
咲は少しビックリしたような顔をしてから、頬を赤らめて目を泳がしている。
実際には凄く短い間だったかもしれないが、時間が何時間にも長く感じる。
やっとのことで咲は俺に視線を合わせ、
「・・・はい。こちらこそよろしくお願いします」
瞬間、俺の中の時の流れが一気に元に戻った。
そこでようやく息を吐き出すことができた。
・・・で、告白は成功したけどこれからどうすれば良いんだ?
咲も顔を赤らめてどうすれば良いかわからないといった様子だ。
うーん、やっぱり可愛い・・・。
キスとかしても大丈夫かな・・・。
嫌われたり・・・いや、大丈夫だ。
今の状況なら大丈夫なはず!
「咲」
「え?」
俺はふと顔を上げた咲の唇に自分の唇を重ねた。
それは一瞬だったかもしれないけれど、すごく幸せな時間だった。
「っ!!・・・ふぇぇ!?」
「咲、これからもよろしくな」
「もう、ずるいよ。こんなことされたらもっと好きになっちゃう・・・」
「そりゃ良いことだ」
俺はクリスマスツリーの前で新たに誓った。
絶対に咲を幸せにすると。
―END―
ここまで読んでくれた皆さんありがとうございました
人生初の作品ということでダメダメな部分も多くあったかと思いますが、なんとか完結させることが出来ました
二年間、本当にありがとうございました