第三十七話 狂気と愛
おかしい。
さっきから真二の攻撃が恐一郎にまるで効いてない。
ドラゴンは物凄い威力の術で簡単に倒してしまったのに、恐一郎にはことごとく防がれてしまっている。
それに、さっきから感じるこの違和感はいったい・・・?
「そんな不安定な術じゃ、私には勝てませんよ。威力は上がったみたいですが、全然ですね。これなら以前のあなたの方が強かった。残念です」
不安定・・・。
厳しい修行をしてきたはずなのに、どうして・・・?
真二はさらに攻撃をしかけたけれど、簡単に防がれ、さらに致命的な攻撃を受けてしまった。
「真二!!」
血をダラダラと流しながら、横たわる真二。
「・・・クソが。こうなったらとことん殺ってやるよ・・・。皆殺しだぁ!!」
「え?皆殺し?真二、何を言っているの?」
そのとき、いつか真二のお父さんが言っていた言葉を思い出した。
『精神状態に異常をきたす可能性もあるということだ』
まさか、真二・・・。
真二は全方向に風の刃を撃ち始めた。
真二の周りには勢いよく風が渦巻いている。
私はそれを炎で打ち消しながら、生徒のみんなのもとへ走った。
幸い、真二からだいぶ距離があったせいか、みんなのところに術は届いていなかった。
「真二、やめて!!もとの真二に戻って!!!」
真二は私の声が聞こえていないかのように術を使い続けていた。
無茶苦茶に放ってくる真二の術を炎で掻き消してみんなを守るので精一杯で真二をなんとかすることは出来ない。
「フフフ、面白くなってきましたね。私はこのまま様子を見させていただきます」
そう言って恐一郎は上空へと飛び上がった。
「くっ、こんなことしてる場合じゃないのに!みんな、私がここを防いでいるから、その間に早く逃げて!!」
それまで恐怖で震えていたみんながゆっくりと立ち上がりだした。
「早く!」
「み、みんな、逃げろぉぉぉ!!!」
だれかが叫んだ瞬間、次々に立ち上がり、走りだした。
校門の近くには真二がいたため、裏門とうしろにあるフェンスを越えていく。
しばらくすると、みんな校庭から姿を消していた。
二人を残して。
「逃げろって言ったでしょ?」
「真二が大変なことになっているんだから、せめて私たちだけでも何か頑張らないと」
「ああ、咲ちゃんの言う通りだぜ。楓ちゃん一人に任せてるようじゃ親友の名が廃れるぜ」
・・・まったく、愛情と友情には敵わないわね。
「真二!行くわよ!!」
私は霊刀を構え直し、炎を灯した。
火嵐を身に纏って、真二へと翔る。
真二の攻撃はことごとく炎によって掻き消されていく。
確かに、前のキレのある術の方が強かった。
この程度の術じゃ私は負けない!
霊刀と霊刀がぶつかり合う。
風と炎が火花を散らす。
「真二、あんた自分が何してるか分かってるの!?」
「俺の前にいるやつはぶち殺す。ソレダケダ!」
一旦距離をとり、再び攻め立てる。
「真二!お願い、正気に戻って!」
咲が叫ぶ。
が、やはり真二には届かない。
「このっ!早く目を覚しなさい!」
刀へと霊力を注ぎ込んだ。
不死鳥の炎が轟と音を立てて燃え盛る。
「滅波炎斬!!!」
霊刀を大きく真横一文字に振るう。
刀に纏った炎が真二目掛けて飛んでいく。
「くっ、こんなもの・・・!」
真二も負けじと一層大きな風の刃を繰り出した。
でも、今の真二の刃はやはり鈍かった。
数秒間ぶつかり合っていたが、すぐに私の炎が風を切り裂いた。
散り散りになった風が突風となって吹き抜ける。
滅波炎斬をもろに受けた真二は息も絶え絶えになりながらも、まだ攻撃を仕掛けようとしていた。
「まだだ・・・まだ終われない。この思いを晴らすまでは・・・」
「この思い・・・?」
「・・・・・激風爆水槍」「!?」
白色と青色光ったに両手を広げ、私を虚ろな目で見据える。
あの技は不味い!
以前、手を抜いて撃ったにも関わらず、私は防御することができなかった。
今の真二には鋭さは無いにしても、確実に本気で撃ってくる。
私は炎を何十にも重ねて真二の攻撃に備えた。
が、どれだけ待っても術が発動される気配は無かった。
恐る恐る術を解いてみると、
「真二、お願いだから、もうやめて」
なんと咲が、強く強く真二を抱きしめていた。
「・・・さ、き?」
「私ね、ずっと前から言いたかったことがあるの」
「・・・」
「私、真二のことが好き。初めて私を助けてくれた、あの日からずっと」
「・・・!」
「勇気がなくて、なかなか言い出すことが出来なかったけど、大好きだよ、真二」
そのとき真二の一滴の涙が頬にこぼれ落ちた。
「俺は・・・今まで何をしていた・・・?」
「真二?」
「ありがとう、咲。けど返事はもうちょっと待っていてくれ」
「・・・うん!」
咲の告白で真二が正気に戻った・・・。
これも真二の中で咲が大事な人だってことの証拠かな。
「おやおや、正気に戻ってしまいましたか」
どこかから様子を伺っていた恐一郎がいつのまにか戻ってきて言った。
「楓、咲、悠樹、すまない。俺はどうかしてたみたいだ。恐一郎、今度こそお前をぶっ倒してやる」
真二は恐一郎に霊刀の切っ先を向けて言い放った。